第17話 ‐生贄の羊‐ ~ワイプアウト・パセティック・ホールド~【前編】
(ひとつお話が抜けていました。第16話はしばらく最新話として一番下に置いておきます)
「――やあ。遅かったね、千夜。そして姫」
そこは、
「……チカ」
あたしは、言葉を失った。
少年の
あの明るくて、いつも自信満々なチカが、だ。
命は、チカの
「チカ。悪い子だね。しゃんとしなよ。ほら、愛しい彼女がこっちをみてるよ?」
チカは、あたしの目を、
「あーあ。嫌われちゃったかな。かわいそうだねえ、千夜。チカは、君のことなんてみたくない、って言ってるよ」
チカは、まだ震えている。
その痛々しい姿は、まるで、立っているのがやっとといった風で、いつ倒れてもおかしくなかった。
「――チカ、お前……」
そいつに何かされたのか、という問いは飲み込んだ。
――言えるわけない。事実はあまりに
普段、冷静な双子坂ですら、いまや恐ろしいほど殺気をはなっていた。
「こわいこわい。みんな、どうしちゃったの? あと、言っておくけど、
命は、可愛らしく首をかしげ、
「……ふざけるな、チカを返せ」
はじめに言葉を振り絞ったのは、激情を全身に宿した雷門だった。
「――さあて、どうしようかな」
命は、くすくすとおかしそうに笑う。その手で、チカの頬をなぜる。
「…………ッ」
チカが、うめくような
その
「
双子坂の凍れる瞳は、いまや、激情に揺れる、絶対零度の刃だった。
その殺意に満ちた視線を受け止めてなお、
「僕と雷門、女子ではあるが、
「やだね」
眉を吊り上げた双子坂に、
「どうしてもって言うなら、力づくで取り返してごらんよ。――まあ、できるなら、だけどね」
その瞬間、ざっ、という足音と共に、あたし達は、男どもに
全員、
「――やっちゃいなよ。僕の愛しい
戦いは
男たちは、みな
雷門は強風で
多勢に無勢と言ったのは、誰だったか。いまや、体制は完璧に逆転していた。
「……ちっ、キリがねえ!!」
乙女は、殺さないよう
しまいには、一撃で急所をおさえ、
雷門ですら、この気味の悪い男たちに引き気味で、全力を出せていない。
消費エネルギーの高い、バイタルラウンドを連発している双子坂は、真っ青な顔で、なんとかかんとかやりくりしている、という感じで、このままでは、いつ倒れてもおかしくない。
黒子たちの肉の壁に守られた命は、こちらをゆるりと観戦しながら、チカを自らの
チカは、死んだような目で、されるがままになっていた。
(――チカ……!)
有姫と乙女にかばわれつつ、あたしは逃げ回っていた。
すでに、あたしを含め、全員が傷だらけだ。
さらに悪いことに、黒子たちの操る刀には、毒がしこんであるらしく、だんだんと体の自由が利かなくなっている。
――全滅。最悪の事態を想像し、あたしは青ざめた。
このままじゃ、進藤を助けるどころじゃない。
みんな、チカのように、あいつの
なにか、なにか、方法はないのか。
あたしは、
命の弱点。――あるいは、この男たちの弱点。
ふと、あるものが目についた。
それは、屋敷のあちこちにある、獣の形をした
鳥。龍。
それら、数えきれないほどたくさんある、獣たちの石像は、なにやら、いわくありげにたたずんでいた。
あたしは、地面に転がった大きな石をつかむと、そのひとつ――鳥のオブジェに向かって、勢いよく
石はまっすぐ飛び、鈍い音をたて、オブジェを破壊した。
その瞬間、黒子のひとりが、胸を押さえて倒れた。
黒子を相手にしていた、双子坂が目を開く。
倒れた黒子は、しばらくじたばたしていたが、やがて動かなくなった。
「呪い返し。――そうか」
有姫が、意を得たようにつぶやき、あたしにならって、ノコギリのような刀を構え、近くにあった、龍のオブジェを斬った。
二人目の黒子が倒れる。
「なるほどな! よくわかんねえけど、わかったぜ!!」
乙女が、
「千夜、
双子坂が、息をつきながら、<ポルターガイスト>で蛇の石像を持ちあげると、
高所から落下させ、こなごなにした。
「この石像が元凶げんきょうだったのか……!
どうりで歯ごたえがないと思ったぜ」
雷門が、残りの石像を、ハリケーンで
黒子たちが、次々に胸を押さえ、倒れていく。
「千夜……」
チカが、うつろな声でこちらを呼んだのが、かすかに聞こえた。
あたしはうなずくと、もはや最後のひとりとなった、
「――勝負あったな」
命は、チカをなぜる手を止め、静かに立ち上がった。
「――千夜、待て!!」
雷門が焦ったように叫ぶが、あたしはもう、聞いていなかった。
「――話をしようぜ、命。チカさえ取り戻せれば、あたし達は、お前に手を加えることはない。チカ、お前も、さっさと立てよ。もう、こいつの言うことを聞かなくていいんだ」
「千夜……」
チカの目に光が灯り、ふらふらと、あたしに歩み寄る。
「チカ」
その背中に、命の声が降る。
「約束を覚えてるよね、チカ。
チカの足が止まった。
「チカ?」
あたしの声に、チカはうつむいて、なにかつぶやいた。
「……悪い」
チカは、来た道を引き返し、命の
「――チカ!!」
「そうそう。わかってるじゃない。チカはほんとうに偉いね」
そう言って、みせつけるように、チカの腰を抱いた。
「お前……どうして……」
そう言うあたしは、よっぽどひどい顔をしていたんだろう。
チカの顔がくしゃりと歪む。
いまにも泣きそうだったが、その瞳は
「――千夜……ごめん……」
チカは震える声でそれだけ言うと、雷門、と声を発した。
雷門が、
<ゴースト・サマナー>
のちに聞く、使役している霊体を、強制的に呼び出す力を使い、雷門を自らのそばに
「――
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