第1話 “前夜”<ドーン・ダークネス・スカイブルー>
――クソックソッ。……クソッ。
ライターをカチカチと鳴らす。
―― 火がつかない。火が。
――クソッタレ。なんで、俺の妻はいなくなった。
――――クソッ。こうなったら、死んでやる。
『やめなさい』
――
『そんなことしても、何にもならないわ』
――なんだと……? 俺は、お前が、お前がいなくなったから。
職もないし、酒もまずいし、「千夜」も俺を捨てやがった。
―― お前が、お前が、お前のせいだ。
『
――ふざけるな。よし、そこにいろ。 殺してやる。
――突き落としてやる。「お前」を……!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――ピーポーピーポー……。
救急車の音が窓から聞こえた。
あたしは、シャーペンで、見取り図を書く。
――施設。
そこは、未知の領域だ。けれど、
げんに、インターネットの掲示板では、
一。人体実験は、毎月4のつく日。いきすぎた不良はそこで脳をいじられ、
二。入口は林に繋がっていて、公正に失敗した死体はそこに埋められる。
三。いわく、身寄りのない子供たちを洗脳し、犯罪に利用しようとしている。
さすがのあたしも、その噂のすべてを信じているわけじゃない。
はっきりいって、尾ひれのついた、都市伝説だと思う。
だけど、火のないところに
そこには、わずかでも、真実への糸口があるはずだ。
あたしは、ネット上から拾った情報を、ルーズリーフにまとめ、それをまず、正しそうか正しそうでないか——。
つまり、まるでデマカセか、その裏に、なにか情報が隠れているか——のふるいにかけ、その全体像を、少しずつ、あぶり出していった。
いや、わかった気になっているだけかもしれない。
だけど、自分で言うのもなんだが、あたしはたとえ、義務教育中のガキでしかなくとも、そんじょそこらの高校生より、マシな自信がある。
自分のバカさ
少なくとも、上の下。それぐらいの
そこまでつらつらと考えながら、昨夜、パソコンで調べてプリントアウトした、掲示板の内容のなかでも、最も多く話題に上った話題に、赤マルをつける。
いわく、
「施設では、なんでも、警察でもすら扱いに困った不良の他に、なんらかの特殊な能力を持った少年少女を、秘密裏に養育・管理している」
他の
だけどこの話題だけは、定期的に、必ず現れる。
まるで、「どこかの誰か」のメッセージのようだった。
あたしは、そいつのIDをチェックした。
だいたい一致している。おそらく同一人物で間違いない。
そしてそいつは、こうも言っていた。
「9月9日、
集会。なんの集会かは記されていない。
ヴァルハラレディースの
――だったら、なんの?
あたしは、掲示板でつぶやいた。
「赤羽町の集会、あたしも参加する」
もし、これを書いたのが、施設の関係者なら、あたしは、自ら罠にかかりにいったようなものだ。
掌にじっとりとした汗を感じつつ、スマホを握り締めると、すぐに、それらしい返事がきた。
「――0時に、赤羽町の4番地で」
――これだ。
……これしかない。
あたしは、危ない橋を渡ろうとしていた。
命を奪われても不思議じゃない、危険な
でも、やっぱりあたしは、いくら自覚したところで、慎重になったところで、わきまえたところで……。
ただの、中坊、七織千夜でしかなく――。
自分の大事なダチが、今この瞬間、もし危険な目にあっているのだとしたら、とても平然としてはいられない。
それどころかためらいもなく、自分の命さえ賭けようとする、それぐらいにバカで、大馬鹿で、――
これでもう、アイツのことは言えないな、とあたしは苦笑し、スマホの電源ボタンを押した。
必要な情報は、おおむね
今日は、9月6日。
――9月9日まであと三日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます