第2話 ヴィオラ騎士団
ハンガーに固定されたアリスが装甲板とポッドを開くと、2人の作業員がポッド近くまでタラップを押して来た。
タラップが固定されたことを作業員が片手を上げて合図したのを見て、俺はポッドからタラップに身を乗り出すと、急な階段を降りる。
「ご苦労様!」
「何の、これも仕事ですからね。それより、露頭は見付かりましたか?」
「全然だ。やはりこっちよりは山麓が良さそうだな」
若いドワーフにそう答えると、ハンガーを船尾に向かって歩く。
後ろでひそひそと囁く声がするけど、それは俺の噂ではなくて採掘場所の彼らなりの考えらしい。
身長は150cmもないんだが筋肉質の身体に髭面なんだよな。中には伸ばした髭を三つ編みにしている者達もいる。
RPGでおなじみの典型的なドワーフ族なんだが、種族の名もドワーフと知った時はびっくりしたっけ。
両側に
戦姫よりも2m程高さのある
次に並んでいるのは
そんな戦機達の並ぶ姿を見て歩いて行くと、ようやく通路の扉に着いた。
戦騎を操る騎士達は、何時もの待機室でカードでも楽しんでいるのだろう。真直ぐに続く通路に人影は無い。
横幅2m、高は3mもある通路をヒタヒタと靴音を立てて、ブリッジに向かう。ブリッジは後部にあるから少し歩かねばならないのが難点だ。
通路の突き当たりの横にあるエレベーターを使ってブリッジに向かう。ブリッジ全体はちょっとしたビルのようだ。
やや底部が広がった楕円の断面を持つ船体は、側面から見れば葉巻形だ。
船体の後方三分の一にブリッジが設けられている。
構造的には7階建てのビルなんだが、甲板の上に出ているのは2つの階だ。操船区域とその上階の火器管制区域だ。
船体内にある1、2階部分は動力区域になっており、リアクターである小型増殖炉と流体直接発電装置がそれぞれ2式設けられている。
3、4階は生活部の連中の拠点だし、5階には電算機室が設けられており、鉱物資源の探査を行なうための各種装置類もこの区域で制御されるのだ。
騎士団員がブリッジと呼ぶのは、操船区域の事なんだが、紛らわしいことこの上ない。
エレベーターの6階で降りると、直ぐ目の前にある扉を開く。
そこは、天井高3m程の大きな部屋だ。
制御卓(コンソール)が前方の展望窓の前と左右に設けられている。それぞれ数個の仮想スクリーンをコンソールの周囲に展開しているが、ラウンドシップの操船は1人でも行えるらしい。
中央の大きなテーブルで仮想スクリーンを覗いている2人が、騎士団長のドミニクと副団長のレイドラだ。ドミニクが金髪で肉感的な姿態の持主であるのに対して、レイドラは銀髪にスレンダーな姿態だから後ろ姿で直ぐに分かる。
「お帰り。ご苦労さま。やはりこの先には鉱脈が無さそうね」
仮想スクリーンから目を離さずに、俺に声を掛けて来たので、アリスが渡してくれた記憶媒体をテーブルに置いた。
小さな水晶の球体にも見えるが、これ1つで図書館の本を丸々収蔵出来るほどの容量があるらしい。
その記録媒体を副団長が受取ると、直ぐに端末を操作し始めた。
小さな小箱がテーブルの上に顔を出す。その中に記憶媒体を入れて再び端末を操作し始めた。
すると、俺達の前に3m四方の仮想スクリーンが開き、偵察したエリアの地中データが映し出される。
「この小さな痕跡が問題です。アクティブ中性子センサの反応では、閃デミトリア鉱石の反応が出ています。過去にこの反応があった場合多くの場合……」
「
騎士団長はそう言って俺を見詰めた。
騎士団長を名乗ってはいるが、山師には違いない。一攫千金を狙って台地を駆けているのだ。
どちらも20歳を過ぎた姿を、体にフィットした蒼いコンバットスーツを着込んでいるから目のやり場に困るんだよな。
そろそろ婚期の筈なんだが、そんな噂は聞いた事も無い。
もっとも、この世界のバイオ技術はかなり進んでいるから、老化を停止することさえ出来る。
見た目が20代だからと言って、そのまま信じるのも無理があるのだが、俺にはこの2人の実年齢は未だに分からない。
この2人にとって、この騎士団を継続させるのが最大の仕事である筈だ。
そのために、地下資源の発掘よりも大事なものもある。それが自分達のステータスである
残念ながら俺がこの騎士団に拾われてからは、
ここで、更に
「もう1日がんばってみましょう。この痕跡を辿って真直ぐに調査して頂戴」
「了解です。それと、相変わらず付いて来てますが?」
「これね? 少しずつ近付いて来るのが気にはなってるけど……。盗賊なら、私達が空荷であることぐらいは分かってるはずだし、
「衛星画像ではダモス級のラウンドシップですが、武装の強化までは分かりません。次の船には高機動車か円盤機が欲しいですね」
レイドラがさりげなく新たな装備を提案しているけど、どうなんだろうか? どちらも高そうな気がするな。
「とりあえずは静観で良いわ。もし襲ってきたなら、返り討ちにできる位の戦力はあるでしょう」
ドミニクの言葉にレイドラが頷いている。
心配ないって事なんだろう。形だけの敬礼をするとブリッジを引き上げる事にした。
後は風呂に入って寝るだけだが、ここは仲間達にも状況を話しておいたほうが良さそうだ。
ブリッジから2つエレベーターを降りると、船首に向かって伸びる通路を歩いて行く。
この区域は居住区になっており、左右に扉が並んでいる。その中には俺の部屋もあるのだが、通り過ぎて船首付近にある待機室を目指した。
通路の行き止まりはホールになっており左右に下階に下りる階段がある。その階段を下りるとカーゴ区域だ。
ホールの船首側には左右に扉があり、右が待機室で左が食堂になっている。
俺はその待機室の扉を開いた。
途端にタバコの煙りがあたりに立ちこめているのが見えた。
葉巻にパイプ、それにタバコ……。タバコの種類は色々とあるものだ。
あまり楽しみが無い場所だから大目に見てるのかも知れないが、よくも壁が黄色にならないものだ。
「あら、帰ったの?」
「さっき戻ったんだ」
いつものソファーに倒れるように座ると、騎士達が俺を見詰めている。
手には、酒のグラスを持っているのだがその眼差しは真剣だ。
「200km先まで行ってきました。特に露頭はありません。地中探査では閃デミトリア鉱石の痕跡が続いています。明日、もう一度痕跡を追いかけます」
「やはり団長は
「俺が入ったことで、ご迷惑をお掛けします」
「気にするな。こんな芸当が出来るのもあの
そう言いながら、身を乗り出して俺の肩を叩く。
アレクは、俺よりは遥かに年上で、25、6の容貌をしたハンサムな奴だ。そんなだから左右に同じ騎士の女性を侍らせているんだが、あまり嫌味に見えないから不思議だよな。
少し離れた席にカリオンが1人で座っていた。カリオンは寡黙な青年だ。アレクより少し若そうだが、剣技は遥かに上を行くとアレクが教えてくれた。
「リオはドミニクのお気に入りだからねぇ~」
アレクの右肩にしなだれたシレインがそう言って俺に微笑む。
「ダメよ、シレイン。レイドラだってそうなんだから!」
その位の冷やかしはこの頃流せるようになってきた。
アレクの左肩を占拠したサンドラが同じように俺に笑い掛けると、グラスにワインを注いで渡してくれた。
一応、年齢的には俺のほうが年下だから、サンドラに頭を下げてグラスを受取って軽く口を付ける。
そんな俺を黙って見詰めながら微笑んでいるアレクは余裕だよな。
船首に近いこのソファーは俺達騎士が占拠している。少し離れたソファーには他のソファーを合わせて12人が座れるようになっているが、そちらは
騎士同士仲が悪い訳ではなく、自然とこんな形で分かれているんだが、互いの役割は尊重してるし、酒が回ってると互いの場所に乱入するから問題ないのかも知れないな。
「ああ~! やっぱりここにいたのね」
そう言って俺の前で、仁王立ちしてるのはフレイヤだ。
同年代で、俺よりも前に騎士団にいたという事もあり、何かと俺に干渉してくる。
「明日も出掛けるんでしょう。さっさと寝なさい。アレクなんかを見習っちゃダメよ!」
人差し指を立てながら、キツイ言葉で注意してくれてはいるのだが、……そんなフレイヤはアレクの妹なんだよな。
妹には口では勝てないのか、無言でアレクが成り行きを見守っている。
「それでは、戻ります。ご馳走様でした」
「そうそう、直ぐに戻りなさい!」
部屋を出る時にもう一度彼らを振り返ったが、プンプンしているフレイヤの後ろでは4人が笑いを堪えている。
待機室を抜けて船尾に戻るように歩くと、俺の部屋に付いた。
カードキーで部屋の鍵を開ける。
「直ぐに帰ってくるかと思ってたけど、兄貴になんて義理立てする必要ないんだからね!」
「だが、戦騎のリーダーだ。俺も一応はアレクの指揮下に入る」
そう言ったら、いきなり右手が飛んできたので、素早くその腕をかわすと扉を開けて自室に逃げ込んだ。
「それじゃあ、明日」
「ああ、待ってるよ」
フレイヤの挨拶に、後ろを振り返って答えると、小さく頷いて片手で腰のあたりで手を振り、通路を歩いて行った。
面倒を見てくれるのは良いのだが、度を過ぎているようにも思えるな。
ちょっとホッとした気持ちでシャワーユニットに入り、熱い湯を浴びて疲れを取る。
明日の調査はかなり遠距離まで伸びそうだ。
少なくともレイドラが納得して、進路を変える材料を手にせずには帰れそうも無いな。
あまりの数の少なさに、各騎士団が堅く囲って手放さないのだ。
王国でさえ、
だが、騎士団は王国軍とは異なる。
タオルで体を拭くとベッドで横になる。
ベッドの傍にあるスイッチを操作すると、室内灯が消え周囲がほのかな窓明かりに照らされた。丸い船窓から差し込む明かりは、やっと出て来た下弦の月に違いない。
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