私がやった事が、そのまんま書かれていた

<引用>

科学捜査の発達した現代において、論理的思考力や判断力を持った普通の人間が、事件を起こすならば”トリック”などは使わないのが当たり前である。

あくまで、トリックが事件の大きな鍵となってくるのは、小説の中だからこその話である。

なぜなら、推理小説じみたトリックを実行するよりも、いかに目撃者がいない状況にできるか、また、凶器や死体がみつからない状況を作り出せるのかの方が、

犯人逮捕につながりにくい=犯人のメリットになるからである。特に推理小説おなじみの不可能犯罪(誰も殺害できない)の状況等は、現実的には犯人に全くメリットがない。

仮に誰も解けない密室が完成したとしても、犯人殺害に用いられた凶器の購入映像や、血痕のついた凶器を所持していれば、密室の謎が解けなくても犯人は逮捕されるのが現実だ。

つまり、物的証拠や犯人の自白があれば、推理など必要なく犯人を特定できるのであり、犯人にしてみればそこが一番の課題になってくるのである。

裏を返せば、物的証拠が見つけられない(科学捜査できない)状況において、トリックや推理の余地が生じるのである。

さて、ここまでは至極当たり前の話で、読者はそれらを頭の片隅におしやって小説という推理ゲームに臨んでいる。

<引用終わり--ミステリトリック大全-->


 いや、私が公募作で「やらかした」ポイントがまんまで書かれてたよ。(笑


 んで、これを解決した上で、「探偵必須の事件」にしたんだけども、評価はされなかった、てコトなのよね。


 引用部分にあるような思考で犯人は動き、正真正銘の完全犯罪を目論んだ、ていう体裁で売りたいと思ったんだけど。考えるほど、何がアカンかったんだろ、て。



 犯人にトリックを使わせる方法なんか幾らでもあるわけで、例えば、老人が被害者になるでしょ、長期入院してるけどアテにしていた保険は病気だと入院中の特約部分は降りなくて、死亡保障はスズメの涙、と犯人が気付いてしまったら、事故に見せかけて殺せるじゃん、て。逼迫した家計が動機になるじゃん、て。哀しい事件だよ、共犯者は被害者だったりも出来る。


 不可能犯罪だって、どうしても死体は発見して貰わないと困る状況ってのを付け足すだけでいいんだから、現代でもさほど犯人側には苦慮することはないよね。


 むしろ警察だよ、この万能組織の動きをいかに封じるか、だと思ったんだよ~。そうでないと探偵の出番なんか本当にないんだもん。


 今、「探偵ガリレオ」を読んでるけど、これは巧いことしてあるなぁと感心したのでした。事件を持ち込むのは刑事で、彼はワトソンの役割も果たすという関係から、物語構造的には完全に「信用できる語り手」になってる。巧いなぁ。彼の提示する犯人の痕跡は、すべて虚実の「実」として受け取ってよいことになってるんだよね。


 しかもだよ、枝葉を取っ払って、端的に事件の概要とかヒント項目だけを羅列するという、パズラー的な記述をも可能にしているんだよね。探偵役が学者ということで、その専門知識を借りに来るという体裁で、実際には監修以上のことを湯川博士がやっちゃう、と。ほんと、巧くしてあるなぁ。シリーズ展開で今後、どうなんのかはまだ解からないけど。


 あ、だけど、思わぬ効用。さんざ迷っていたプロローグのエロ、あれはやっぱ必要だと理解した。あれないと犯人側のロジックが弱くなるんで迷ってた。犯人の異常性の遠因を仄めかす重要なシーンだけども、私は構成力がね~。けど、うん、要るわ、うん。あのままでいい。うん。


 今書きかけの新作は、千葉が舞台で、警察は事件発覚で即座にやって来ますが、その時にはもうお膳立てはぜんぶ終わってる、という状況。関係者の中に組み込んでおけば探偵も自然に捜査に関われるって目論み。


 これ、ネックは、警察は守秘義務とか色々で捜査開始と同時にけっこうな確率で、ホームズもワトソンも蚊帳の外にされてしまうという重大な欠点がね。現代で警察モノは花盛りだけど探偵モノが揮わない理由だよね。


 だから、警察の捜査が本格化する前には、探偵の推理は完了している必要があるのが、警察介入のある事件での条件になってしまうのが、すごくツラタンです。

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