第5話 喪失感

 それから浩平は、また心通わせた女性ひとを亡くした喪失感でいっぱいだった。そんな彼を励まそうと、真下がバーやスナックに連れ出していた。


 息子の光太はというと、浩平に似て綺麗な顔立ちをした少年になりつつあった。幼稚園では、漢字で名前が書いて褒められたり、すらすらと絵本を音読したりと、母親である紗知の才能も受け継いでいるようだ。

 浩平の元気がないのを心配している両親は、光太の成長が何よりの薬になると信じていた。



「こんにちは。藤村さん」

 こんな状態でも、浩平は仕事に行っていた。ある日、社内で美沙子と偶然会ったのだ。

「美沙子さん」

 彼はすでに、美沙子のことが恐ろしかった。呪いなど信じてはいないが、それでも彼女たちの死に、美沙子が関係しているのではないかという考えが消えないのだ。

「私、結婚することになりましたの。お相手は、ある政治家の方なのですけど」

「それは、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 そう言って美沙子は、一礼すると用事のある部署へと向かった。

 美沙子は、彼を失った喪失感で心が病んでいた。好きでもない相手と一緒になることで、それはさらに助長されているようだった。それでも、絶対に不幸にはならないと彼女は誓っていた。



 一方の浩平は、自分が失なったものの大きさと、手を出してしまった人の大きさに、心が潰されそうだった。

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或るクズ男の一生(源氏物語【夕顔】) 卯月とも @april_library

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