恋の終わり

第4話 繰り返す

 週に二回ほど、早智の家に寄るのがなんとなく習慣になりつつある浩平。僅かな時間ではあるが、彼女と垣根の夕顔越しに話すのが楽しみなのである。

 早智の方も、少し話すだけならと、外であった時には話してくれるようになった。浩平が真下の友人であることも、安心要因のひとつなのだろう。

「もうすぐ、夕顔の季節も終わりますわ」

「そうなんですか。残念です」

 二人して夕顔の花を見ながら他愛ない話をするのが、跡取りとしての行動を求められる浩平には癒しの時間に感じられた。

(夕顔が散ったら、彼女との接点はなくなってしまうのかな)


 そうして夕顔の散る季節となったある日の夕方。浩平は早智を食事に誘った。はじめは渋っていた早智だったが、半ば強引に連れ出されてしまった。

「こんな高そうなホテルのレストランで食事なんて、初めてです」

「それは良かった。ここは料理も旨いけど、景色も最高なんだ」

 15階にあるレストランの窓からは、美しい夜景が広がっている。料理はフランスの家庭料理で、そこまで畏まって食べる必要のないものだった。


 早智はワインを呑みすぎたのだろうか、かなり酔っていた。そのため浩平は、あらかじめ予約しておいた部屋に彼女を連れていくことに成功した。それから二人は、一夜を共にしたのだ。


 別れ際、浩平は早智の手を握って頼んだ。

「また、会ってください」

「私でよければ」


 この光景を見ている女性がいた。美沙子である。彼女は、二人の仲睦まじい様子を夢に見ていた。それは正夢であるのだが、そんなこと美沙子は知らない。しかし、彼女の独占欲と嫉妬心に火をつけるには十分だったようだ。

 浩平の夢に、美沙子が出てきた。

『浩平くん、あなたはずーっと私のものよ』

『美沙子さん、あなたとは別れたはずです』

『私はあなたのせいで、心が目茶苦茶になってしまったのよ。浩平くんだけ幸せになるなんて許さないわ』

 まるでリアルな美沙子に会ったような驚きで浩平は飛び起きた。そして、嫌な予感がして急いで早智の家に向かったのだ。

 そこには、沈痛な表情かおをした早智の母親の姿があった。

「あぁ、あなたは早智と仲良くしてくれていた・・・」

「藤村浩平です。あの、早智さんは?」

 浩平は恐る恐る訊ねた。

「早智はね、今朝亡くなったの。お医者様によると、心筋梗塞だって」

 そう言ったきり、母親は涙を流して泣き始めた。通夜・葬式は、親族だけで行うらしい。

「でも、お線香だけでも上げにきてちょうだいね」

「はい」

 浩平は、それきり何も言えなかった。言えないまま、彼女の家を後にした。


(また、大切な人を失った)

彼の心には喪失感だけが残った。

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