爆弾魔・こぼればなし
ヒト嫌いのエンジュ。
周囲に複数の人間がいると、彼女は全員を完璧にランク付けし、そのランクによって態度を決める。そして最下位の人間を爆弾・毒ガス攻撃の集中ターゲットにする。よく分からないが、爆弾及び毒ガスの在庫が限られているので流石の彼女も無差別攻撃は難しいのかもしれない。
男より女。
あらゆる人種の中ではアジア人。
アジア人では日本人。
太っているヒトより痩せたヒト。
年配より若いヒト。
背の高いヒトより低いヒト。
髪の短いヒトより長いヒト。
つまり私に似ていれば似ているほどエンジュの好感度は高い。これだけでは別に珍しくも何ともないが、少し変わっているのは彼女がゲイの男性が好きということ。何故かゲイ男性の好感度はアジア人女性並みだ。どうやって区別しているのか私達には分からないが、しかし彼女の勘は百発百中。そんなエンジュをジェイちゃんは高性能ゲイダー(ゲイのレイダーね)と呼ぶ。
私の両親は数年に一度アメリカに遊びに来る。そして当然のように我が家に泊まる。エンジュにとっては数年に一度の恐怖イベントだ。
痩せて(+1)背が高く(−1)ショートヘア(−1)の母(女=+1)の合計点0点。 小太りで(−1)頭髪著しく乏しく(−1)ルックスも実年齢も母よりだいぶ上(−1)の父(男=−1)の合計点マイナス4点。
エンジュが父を恐怖攻撃のターゲットとして選ぶのは当然と言えよう。
始めて両親が家に来た時、エンジュは私のベッドの下から出て来なかった。そして毎晩夜中に密やかに家中を徘徊し、父が歩いた場所を一歩一歩全て嗅いでまわった。(彼女は警官から爆弾探知犬として是非欲しいと言われたほど鼻がいい。)
二度目には、リビングルームのソファーに座っている父の禿頭を背後の物陰からじっと見つめる位には慣れた。しかし父がピクリとでも動けば一瞬にして姿を消す。
三度目には、リビングルームの隅からじっと疑り深い眼で父を観察するようになった。
四度目くらいから、父が寝転んでいるとそっと近寄って来て、ふんふんと彼のぴかぴかのオツムリを嗅いでみるようになった。そして彼女は父が食事中、よく食べ物をボロボロと落とすことに気付いた。
ヒトの食べ物は食べてはいけない。でも余りにも食べ方の下手なヒトが家に来た場合だけは、エンジュは自動掃除機化しても良いという暗黙のルールが我が家にはある。(いちいち食べカスの掃除するのが面倒だからね。) ちなみに吹雪は胃腸が非常に弱いので、たとえ床に落ちたモノでも決して口にしないように躾けられている。
父に触られるのは嫌だが、食事中だけは危険を犯してでもそばに行けば何かとイイ事がある。エンジュは父が食卓についた時だけはサッと近づきそばで待機するようになった。
そんなある日のこと。
私が留守の間に母が家に掃除機をかけることにした。エンジュは私の前で掃除機を恐れる様子をみせたことは一度もない。いつも大人しく部屋の隅に座って見ている。だから誰もエンジュの掃除機に対する恐怖を知らなかったのだ。
掃除機=マイナス50点。
母(0点)+ 掃除機 = マイナス50点。
ソファーで寝転んで本を読む父 = マイナス4点。
母が掃除機のスイッチを入れた瞬間、エンジュがソファーに寝転ぶ父の上に飛び乗った。
「アレ? 珍しいな。やけに親しげじゃないか。やっと慣れたかな?」
腹を踏みつけられながらも何故か嬉しげな父。よしよしとエンジュを撫でる。しかしエンジュは父の事などそっちのけで、ただひたすらブルブル震えながら母と掃除機を見つめ続ける。そのうちに父が「なんか臭い」と言い出した。
「こいつ、僕の上でオナラでもしたのかな。失礼なヤツだ」
「犬でもそれくらいするんでしょ。いいじゃないの、オナラくらい」
父は本を読みながら臭い臭いと言い続け、数分後、遂に耐えられなくなって起き上がった。
父の胸の上からボロボロと複数の爆弾が転がり落ちた。
母+掃除機よりマシだと認識されたにもかかわらず、結局爆弾攻撃の被害者となった父。しかし神経が太いのだろうか、未だ懲りずにエンジュにちょっかいを出している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます