補記
私はこの本の翻訳中、或るつてから、セミョーノフが彼の終生の友であったアナトリー・ドンスコイへ当てたとされる書簡の写しを頂いた。
彼は手紙魔として知られており、幸運なことに、今に至るまでその書簡の多くが現存している。この書簡も数あるうちの一つであり、セミョーノフが書き付けたうちの一葉として特に省みられてはいない。私も別段の注意を払わず好奇心からのみ読み進めていたが、ふと気になる一節を見つけたので、巻末の穴埋めがてらに記しておこうと思う。ひょっとすると、他愛のないこの手紙の一文は、彼の歩いた境界線までの旅路へと続いている地図なのかもしれない。
*
――僕は運命や天恵といった類のものを信じない。まして神などという捻くれ者の事などは、まったく埒外においている。しかし、ただひとつ、人の絆だけは、それぞれが望む限り、常に結ばれていると確信しているのだ。
君は僕が何を言っているかわからないだろう。それでいい。これは僕の個人的な物語だ。コーヒーを沸かして、一杯飲んで、傍らの菓子をつまみながら暇つぶしに読み流して、翌朝には全てを忘れてくれれば良い、その程度の話。
けれども、一つだけ。わが最愛の親友である君にだけは、真実の断片を伝えておきたい。一筋の絆の証として、過ぎ去った日の、今に繋がる、大切な欠片を。
手紙は、無事に届いたようだ。
境界線までの旅路を、君と。 @Raikkonen1
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