第54話 魅惑の御宿・竹ふえ貸切露天風呂編

 到着から30分後、私たちは貸切露天風呂の湯船の中にいた。貸切とはいえそこは高級宿の貸切露天である。ちょっとした宿の大浴場並みの広さがあり、二人で独占するには申し訳ないほどだった。だが申し訳ないと思っているのは私だけで、旦那はむしろ子供のようにはしゃぎ始めたのだ。

 湯船の中で泳ぐのは勿論、何故か仁王立ちになったり隅から隅まであっちこっち覗きまくったり、普段なら人の目があって出来ないであろうことをやり始めたのである。因みに私(というか嫁)の視線は無いものとみなされる。とにかくチョロチョロと落ち着きが無いのだ。


(まぁ、滅多に貸切風呂なんて入らないし、ここから出たら流石に部屋では大人しくなるよね)


 というか絶対風呂で体力を使い果たし、湯あたりしてぶっ倒れるパターンだろう。むしろそのほうが大人しくて良いかもしれないと私は旦那を放置する。

 そして時間ギリギリまで貸切露天風呂を堪能した後、私たちは部屋へと戻った。勿論途中にある湧水で冷やされたソフトドリンクも頂いて、である。


「あ~疲れた!」


 流石に騒ぎすぎたのか、旦那は部屋に戻るなりゴロンと横になった。流石にあれだけ騒げば疲れもするだろう。

 そんな旦那をほったらかしに部屋を改めてぐるりと眺めると、まるで茶室のにじり口のような入口があることに気がついた。どうやらそこから庭に出ることができるらしい。いわゆる『普通の大きさのドア』ではなく、にじり口しかないところに『竹ふえ』の遊び心を感じた。


「ちょっと庭に出ていってもいい?ここから」


 と私はにじり口を指し示し、旦那に尋ねる。すると旦那は寝転がったまま面倒くさそうに『うん』とだけ答えた。長距離運転&風呂でのはしゃぎ過ぎが相当こたえているらしい。にじり口の方さえ見もせずぐったりしている。

 なので私は旦那をそのままににじり口から庭へと抜けた。するとにじり口の外には履物が用意されており、部屋を取り囲むように細い通路があることも判明する。私はプチ探検とばかりに庭先へと降りる。そして通路を歩いたその先にあるものを見て思わず声を上げてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る