第53話 魅惑の御宿・竹ふえ美丈庵室内編

 開けた景色―――室内を表現するには似つかわしくない言葉だが、これ以外の言葉が思いつかないほど部屋の景色は『開けて』いた。十畳ほどの部屋は美しく整えられ、大きな窓ガラスの向こうには『竹ふえ』自慢の竹林が絵画のように生い茂っている。さながら竹林の中にいるようだ。

 更に最新式のアロマヒューザーによって部屋中に良い香りが漂っている。最新式なのはアロマヒューザーだけではなくオーディオ類も全てそうだ。だが、そんな最先端の家電が組み込まれているにも拘らず、それらが落ち着いた部屋の雰囲気を全く壊していないのは流石である。

 部屋の隅には先程預けた自分達の大荷物が届いており、サービスも申し分ない―――と頷いたその時である。


「お風呂は内湯と露天の2つがあります。また貸し切り露天もございますのでご利用の場合は仰ってください」


 と、従業員さんが言ったのである。

 ただ、貸し切り露天風呂はフロントの近く―――つまり、今まで下ってきた坂を上った場所にあるとのことだった。となると面倒くさがりの旦那がいちいち貸切露天を借りるとは言わないだろう。と私は思い込んでいたのだが、次の瞬間奴の口から意外過ぎる言葉が飛び出したのである。


「じゃあ貸切風呂もお願いしたいんですけど」


 その一言に私は思わず旦那を二度見した。付き合っていた頃から今まで『面倒くさい』を理由に無料であっても貸切風呂を借りてこなかった旦那が風呂を借りるといい出したのである。どうやら高級旅館の雰囲気に舞い上がっているらしい。

 私としても折角九州まで来たのだから堪能できるものは全て堪能したい。ということで即座に貸切露天風呂を借りることは決定した。これは後でフロントに鍵を取りに行くだけでOKらしい。


「これでようやくひと息かな。あとはお風呂とご飯を堪能しなきゃ♪」


 従業員さんが案内を終え、部屋を出ていった後、流石に長旅の疲れもあって私たちは座布団に座り込む。目にも鮮やかな竹林が疲れを癒やしてくれるようだ。しかしそれは私だけの感想であり、旦那は真逆の感想を抱いていたことに気がつくのは、この30分後の事であった。

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