第27話 九州縦断特急旅~麗しの撮り鉄乙女と美風景編

私達が席について暫くすると、『いさぶろう・しんぺい』はゆっくりと動き出した。この日は3両に増結されていた為か、車両同様レトロなナイスミドルなおじさま車掌が乗務している。『くまかわ』では若いお姉さんが車内乗務をしていたが、制服をびしっ、と着たおじさまもなかなか魅力的だ。

 そしておじさま車掌と共に目を引いたのが一眼レフを首からかけている撮り鉄女子らしき女の子達だった。列車そのものも魅力的だが、この路線自体『日本三大車窓』のひとつがあるほど美しい景色に恵まれている。どうやら彼女たちはそれを撮るために乗車しているらしい。

 得てして『撮り鉄』はそのマナーの悪さが問題視されるが、彼女達は至って大人しく極めてマナーが良かった。写真を撮る際も近くにいる他の客に一声許しを得てから撮っている程だ。きっと一部のタチの悪い撮り鉄によって肩身の狭い思いをしているのだろう。揃いも揃って皆腰が低い。ついでにファッションセンスも良く、知的な美人ばかりだった。

 しかしどんなに美人でお洒落で知的であっても、所詮はオタク。残念極まりないオタクの尻尾は隠し切れないものである。他の乗客に最大権の気遣いをしつつも、美しい景色が現れる度、彼女達は車内を縦横無尽に動き回りシャッターを切りまくり始めた。それは『くまかわ』のミニ展望室内にいた旦那と重なるものがある。やはりどこか落ち着きのない『鉄オタ』の動き方は共通点があるのだろうか?

 そんな状況のまま『いさぶろう・しんぺい』は大畑ループを通り過ぎ、矢岳越えに差し掛かかった。ここまで来ると『日本三大車窓』はもうすぐだ。矢岳トンネルを抜けるとすぐにその景色が広がっているらしい。今までの沿線の景色も素晴らしい物ばかりだったので、いやが上にも期待は高まる。


「もうすぐ『日本三大車窓』、えびの盆地が見えますよ」


 トンネルに入る直前、私達がいる車両に回ってきてくれたおじさま車掌がその物腰同様穏やかな口調で教えてくれた。更にその向こうには霧島連山が一望できるとのことだ。天気もよく、写真撮影には絶好のコンディションらしい。

 生まれて初めて体験する『日本三大車窓』を見逃してはならない。トンネルに入り一旦景色が途切れたのを合図に、私達夫婦は勿論、乗客たちは準備を始める。展望ラウンジとなっている別の車両に移動し、その窓辺でカメラを設置した。今か今かと待ち構えていたまさにその時、トンネルを抜けだした私達の目の前に、熊本を代表する緑と青の美しい光景が広がったのである。

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