第360話 「忙しい空」




 忙しい時ほど、詩を読みたくなるのはなんでなんだろう。

 いや、忙しいからか。小説を読むゆとりはないからね。


 金子みすゞの「忙しい空」


 ***


 今夜はお空がいそがしい、

 雲がどんどと駈けてゆく。


 半かけお月さんもぶつかって、

 それでも知らずに駈けてゆく。


 子雲がうろうろ、邪魔っけだ、

 あとから大雲、おっかける。


 半かけお月さんも雲のなか、

 すりぬけ、すりぬけ、駈けてゆく。


 今夜はお空がいそがしい、

 ほんとに、ほんとに、忙しい。


 ***


 忙しすぎて、忙しい空を見上げる間もなく一日が暮れてゆく。

 回天に比べれば、静止しているのと変わらない微々たる動き。

 点のような微々たる私。

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