第359話 「われに五月を」




 あっという間に5月である。

 5月をうたった詩の中では、寺山修司の「われに五月を」が特に好きだ。


 ***


 きらめく季節に

 だれがあの帆を歌ったか

 つかのまの僕に

 過ぎてゆく時よ


 夏休みよ さようなら

 僕の少年よ さようなら

 ひとりの空ではひとつの季節だけが必要だったのだ 重たい

 本 すこし

 雲雀の血のにじんだそれらの歳月たち


 萌ゆる雑木は僕のなかにむせばんだ

 僕は知る 風のひかりのなかで

 僕はもう花ばなを歌わないだろう

 僕はもう小鳥やランプを歌わないだろう

 春の水を祖国とよんで 旅立った友らのことを

 そうして僕が知らない僕の新しい血について

 僕は林で考えるだろう

 木苺よ 寮よ 傷をもたない僕の青春よ

 さようなら


 きらめく季節に

 だれがあの帆を歌ったか

 つかのまの僕に

 過ぎてゆく時よ


 二十才 僕は五月に誕生した

 僕は木の葉をふみ若い樹木たちをよんでみる

 いまこと時 僕は僕の季節の入口で

 はにかみながら鳥たちへ

 手をあげてみる

 二十才 僕は五月に誕生した


 ***


「さようなら」と言いつつ、別れとは新たな出発でもある。

 私もそろそろ自ら開いた扉の閉め時を考えたい。



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