第293話 枯れる前にお前と話したい




 ベランダの鉢植えの椿が花を咲かせた。

「友の浦」という品種で、花弁に赤と白が波のように入り混じってとても美しい。赤の椿も白の椿も両方楽しめる。この子はとても元気である。

 ただ、もう一株の「花明かり」は蕾を沢山つけたものの、花が開くことはなく枯れてきてしまっている。

 蕾は乾いて茶色になり、葉も萎れてしまい、生きているのか死んでしまったのか……。

 これは何がいけなかったのか、一体何が足りなかったのか、調べてもわからず、わからないまま気を揉んでいる。


 この世の中、何事にも丁寧なマニュアルがあって、大抵のことは説明書どおりにやれば上手くいくけれど、つくづく生き物だけはどうにもならない。

 人語が話せないなら尚更だ。草木も花もそう。「もっと肥料ちょうだい」「そんなに水はいらん」「日陰に行きたい」「虫がウザいから取って」とか言ってくれればその通りにしてあげるのにな。


 しかし、もし科学が進んで植物と意思疎通できるようになっても、上手くコミュニケーションできるかは個体による気もする。

 何せ、人語を解し、同じ日本語を話す人間相手であっても日々わかりあえないことは多々あるもの……と思ったところであえなく苦笑い。

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