第281話 「のちのおもひに」




 立原道造の詩「のちのおもひに」を読んで、漠然と死について考える。

 決定的には書かれてないけれど、この詩は死を連想させる。

 生物としての死なのか、創作者としての死なのかはわからないけれど。


 ***



 夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に

 水引草に風が立ち

 草ひばりのうたひやまない

 しづまりかへつた午さがりの林道を


 うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた

 ――そして私は

 見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を

 だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……


 夢は そのさきには もうゆかない

 なにもかも 忘れ果てようとおもひ

 忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには


 夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう

 そして それは戸をあけて 寂寥のなかに

 星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう


 ***


「夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう」は胸がきりりと痛む。

 痛むけど清々しい。寒さに震えながら噛みしめたい。

 こういうことばが書けたらいいのに。

  

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