第192話 「小さい寂しさ」
何があったわけでもないのに、ふと寂しくなる瞬間がある。
どこかやるせない気持ちになり、何かしたいのだけど何をしていいかわからず、書いてみようかと思っても文章が浮かばず、ひたすら悶々として最後は途方に暮れてしまう。
悲しいのとは違う。面倒でもないし、
……あれ? なんかこういう時の気持ちを、とても的確に言い表した随筆があったな、と思った。
文豪・
***
時々、別に理由もなく寂しさを感じることがある、こう言う時、何か書きたくなる、かくことでその寂しさに打ち克つことが出来る気になる。だからこの寂しさを感じることは悪いこととは思わない。何かに餓えている。それもごく静かに淡い。何かを求めている、その求めているものは何か自分にもわからない。そう云う時、何か仕事がしたくなる。何かに親しみを感じる、自分の心をうちあけたくなる。西行も、芭蕉も寂しさを求めていた。その寂しさはもっと痛切なものであろう。それだけその寂しさから遁れることは難かしかったろう。僕が時々感じるのは、その子供のようなものだ。或はその新芽のようなものだ。
(中略)
しかしこの寂しさは人を真面目にする。しんみりさせる。正直に何か求めさせる。
謙遜にしてくれる。
だから僕はそう言う寂しさを、清いものとして愛するのである。馬鹿にしたくないと思っている。
清い憧がれである。
***
「これだぁ!」と思わず快哉を叫びたくなった。
これだ。これこそが今の私の気持ち。
さすが文豪、いいことを言っている。
おかげで私の気持ちは正体を得てすっきりし、「清い憧がれ」などという美的な表現でまとめることができた。
いや、先人のことばに頼っていては、己の進歩はないのだけれど……。
その点は謙虚に反省。
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