第156話 血が滲むようなことば




 東大卒の電通の新入社員が、仕事上の過労が原因で自殺をした。24歳の若さだった。

 10ヶ月という異例のスピードで労災の認定が下りたというニュースが流れ、私はニュースの内容だけでは到底信じられず彼女が遺したツイッターのツイートを読んだ。


 それは、まさに行間から血が滲むような悲痛なことばだった。

 軽妙に、淡々と、時々ちょっとおどけた風に綴られているのが、尚のこと痛ましかった。

 私が見ているのは、吹けば飛ぶようなネット上のデータにすぎない。

 何か圧力があれば、あっという間に消し去られてしまうことばである。

 そのあまりに脆く、儚く、そして悲痛な叫びは、何度読んでも絶望以外の何ものでもなく、読めば読むほど追いつめられていく生々しさに息が苦しくなった。

 可哀想に……。どんなに辛かっただろう。どんなに生きていたかったことだろう。

 押し寄せ続ける終わりのない業務と、数限りない暴言とが、彼女の心を破壊し、追い詰めて殺してしまったのだ。


 東大に入るまで大変な努力をしたのだろうし、電通という一流企業にも入社できたのに、若く賢い彼女がこんな悲しい、やるせない最期を遂げなくてはいけなかった。

 日本一の広告代理店である電通でさえこうなら、末端はどんな地獄の有り様なのだろう。


 19世紀の産業革命時のイギリスの話ではない。今は2016年だ。

 働きすぎて人が死ぬなんて、先進国でも日本だけで、そんなことが何十年も常態なんて本当に狂っている。

 しかし、落胆しつつ「またか……」と思ってしまった私も、この狂った社会に慣れきった良い見本である。それに気づくと少し茫然としてしまった。自分もまた、麻痺してしまっている。どうしようもなく。


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