第114話 鈴虫の声、消えた音
夜になると、鈴虫がリンリンと鳴くようになった。
当初は風情があると思っていたが、毎晩のように鳴かれると段々うるさくなってきて、もう少し静かにしてくれないものかと勝手なことを思っている。
鈴虫のやかましさに反して、聞こえなくなったものがあって、それは何だろうと考えていたが、昼間の嘘のような静けさにやっと気づいた。蝉だ。蝉の声がしなくなっている。ミンミンと短い夏を謳歌していた蝉は、ここ数日ですっかり失せてしまった。
季節と共に生き物も移り変わる中、何も変わり映えのない私は、妙に夏の名残りを惜しんで、散歩途中に木に張りついた蝉の死骸を探したりするのである。乾いた茶色の抜け殻を見かけると、この小さな身体に夏らしい暑気がぎゅうと凝縮されていたのだなと思う。
風が、どこか冷たい。
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