第97話 ああ、生きてる
徹夜明けの疲労困憊状態のまま、眠るにもどうしても空腹すぎて、駅近くの松屋に飛び込んだ。
牛丼大盛りと生野菜を頼んだら、すぐにテーブルに運ばれてきたので、薬味をかけるのも忘れて一気にかきこんだ。
どんぶりに顔を突っ込むようにして、箸ですくうのすらもどかしく、いっそスプーンが欲しいくらいだった。
夢中で食べた。黙々と肉と米を口いっぱいに放りこんだ。
美味しかった。いっそ涙が出そうなくらいに美味しくて、胃の腑に食べ物が入っていくにつれて血が沸騰したかのように身体が熱くなった。
甚だひどい状態だ。さぞかし、ひどい顔をしているだろうと思う。
目は充血し、大きな隈もできて、皮膚は荒れて、精神は摩耗しきって襤褸雑巾のよう。
こんな清々しい夏の朝に、自分だけが世界にぽつねんと取り残されたような心細さを覚えながら、それでも身体は飢えて飢えて飢えるあまりに休むことなく肉を噛み、飯を水のようにするすると呑み、体内に怒涛のごとく流れ込んでくる栄養素を何一つとして取りこぼすまいと全身全霊でふんばっている。その怒涛の勢いに、私の心は到底追いつかない。
食べて食べて食べて、本能のままに、ひたすら自分の生を確かめている。
生きている。ただ、それだけを思った。
あまりに自然な衝動に、小さな幸福に美化するのもためらわれた、空っぽの朝。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。