第59話 夏の匂い


 暑いのは苦手だけど、夏の匂いは好き。

 突然の夕立、雨が降ったあとのアスファルトの匂い。

 蚊取り線香に火をつけて、白くゆらゆらとのぼる煙のツンとした匂い。

 茹でたとうもろこしや枝豆の湯気に交じる甘い匂い……。


 扇風機がくるくる回っていて、風鈴がチリンチリンと鳴って、暑い午後はタオルケットをお腹にかけて昼寝をして……起きたら既に夕暮れで、少し損をした気分になった。


 夏の匂いを嗅ぐたびに、ノスタルジックな気持ちが溢れてくる。

 何もかもが躍動にあふれ、輝いて見えた夏休み。


 二度と戻らない日、二度と戻らない夏。

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