第41話 軽率に褒めていくスタイル




 日々の生活に「軽率に褒めていくスタイル」を採用している。

 自分がいいと思ったものは積極的に褒める。相手に声なり、言葉なりで伝える。

「綺麗」「美しい」「楽しそう」「美味しそう」「素敵な柄」「使いやすそう」などなど、拙い言葉でも語彙力がなくても、素直に褒めることにしている。

 その場ですぐに言うことが肝要だと思っている。

「後で」「また今度」にすると、もう二度と機会は巡って来ない。



 実はこういう心境に至るまでには、沢山の後悔があった。

 賞賛に値する素晴らしい創作物や作品に触れた時、「今度挨拶をしよう」「今度手紙で感想を言おう」「今度会いに行こう」と思っているうちに、当人に二度と会えなくなってしまうことが何度もあった。思い出すたびに、当時の浅慮が恨めしい。


 どうして「あなたが人として好き」と伝えなかったのか。

 どうして「あなたを応援している」と伝えなかったのか。

 どうして「あなたが生みだすものが好き」と伝えなかったのか。

 躊躇する理由は全くなかった。それを伝えたとて、私は何一つとして失わなかった。

 むしろ相手の喜びを、自分の喜びにできたはずなのに、どうして「どうせ他の人が言うから自分はいいだろう」などと思ったりしたのか。



 自分のことにしても、嫌なことは大抵すぐに忘れるが、褒められたことはずっとしつこく覚えている。何げない言葉でも、人に認められたという喜びが自己の肯定になり、生きる意欲になってきた。

 褒めて貰えるなら、もっと頑張ってみようと思った。

 どんづまってしまいどうにもならない時、「でもあの人はああ言ってくれたのだから」と奮い立たせてきた。

 それがどんな気まぐれの産物であったとしても、私の中では立派な財産。

 だから、自分も良いと思ったものに対しては軽率に褒めてゆきたい。



 あと、誰かにやる気を出させたい場合、褒めちぎった方が楽というのもある。

 世の中叩いて伸びる人もいるけど、悔しさをバネにする人もいるけど、批判や辛辣な言葉を言った後の疲労感は半端ないし、基本ぐうたらなのでとにかく自分自身が楽に生きたい。

 好きなものを存続させるためには、とりあえず褒めたほうが後々面倒がなくていい。






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