弍ノ八、ひぎxエアぁぁくぁwせdrftgyふじこlp
水路を底
倒れ臥す人の形に見えた。足が止まる。饐えた臭いが漂った。
洩れそうになった声を何とか呑み込む。背後から恋町がぐいと身を寄せて来た。傍らに立つ。
抜き身の刀を突きつけたような気迫に、兵之進は思わず身をつめたくした。険のある表情。先ほどまでとはまるで違う横顔。
恋町は、どす黒く濡れた泥の山を一瞥する。
「
袖手に腕を組み、あごをしゃくる。その言葉が自分に向けられたものだと気づき、兵之進は怖気付く。
「え、何でわざわざ」
一磨は、異臭を放つ泥の横に屈み込んだ。十手を持ち変え、片手を立てて口の中で念仏を唱える。
「先生、これが何か? 拙者には、単なる泥んこにしか見えぬでござる」
「そうか。だったら下がってろ。ひよだけでいい」
恋町が冷ややかに諭す。
人の形をした泥の中で、何かが動いている。まるで死者が息をしているかのようだ。シュウゥ、と臭気の漏れる音がした。
「ぇぇ、やだな、気持ち悪いんですけど……」
恋町は凄味のある眼の細め方をした。眼の奥に怜悧な光が伝い走る。
「死道不覚悟なり。それでも妖刀使いか。《
「ううむ、やっぱり、さっきの案山子と同じにしか見えんがなあ。おぬしは違うのか?」
一磨は、困惑の面持ちで
兵之進は答えようとして、声が出ないことに気づいた。
どこかから、くすくす笑う声がした。誰かが騒いでいる。聞こえるはずのない音。夕暮れ。赤い陽。烏の声。子供たちの遊ぶ声。
子ぉとろ 子とろ
どの子が欲しい
あ の こ が ほ し い
風が、遠い昔の音を運んでくる。見えない何かが、カラン、コロン、下駄の音をさせて走り抜けた。
「コホゥウ……トウョゥ……コトヨゥ……ド……」
破れ障子の向こうで、猫が鳴く。手毬の跳ねる音が、遠くに、逃げる。空は、まるで血を流したような夕暮れの色。
「ノ……コァ……ァ……ホォ……スィイ」
泥人形が、デロリ、と。崩れながら身じろぎした。
血走った眼球がふたつ、真っ赤な糸蚯蚓を絡みつかせて、浮かび上がった。ギョロリと動いて兵之進を見る。
「……鬼乃様が、欲しい」
ふいに、はっきりとした人の声を発した。
泥を破って、黒い手がくねり伸びた。兵之進の顔をビチャリと鷲掴む。
生々しい音が脳裏に響き渡った。何かが、意識の壁を押し破って、無理やり
息ができない。幻影の中で宙づりになった足が、じたばたともがく。入る。入ってくる。
ヌルリと。
何かが。
腹に収まった。
冷たいとぐろを巻いている。
兵之進は身をこわばらせた。
身体の中から、聞きなれぬ声が聞こえてくる。
今なら。まだ。
こっそり、黙って、殺してもバレレねえよなァァ……
何気なく刀柄に手を掛ける。薄ら笑いで舌を舐めずる。
目の前が血の色に変わった。
まずは邪魔なこいつらをブブブブブッ殺せばァァァその後はアハハハハハハアア鬼乃さまか何か知らんが臓物ビチビチ喰い放でえェェェグビャビャビャハハァァァ……!!!!
「……丸聞こえだ、クソ」
背後から声をかけられた。はっとする。
「盛りの付いた野良猫じゃあるめえし、ちったあ時と場合を考えろ」
恋町は、うんざりしきった顔で、耳をほじりながら吐き捨てた。
「あーもーめんどくせー」
帯に吊り下げた矢立を掴み、筆先に墨を含ませた。空中に、漆黒の一文字を描き出す。
墨が走る。何もなかった間隙から押し出されるように、
妖刀、
「てめえがよう、そうやって毎度毎度、要らんもんを
恋町は落ちてきた
現れた黒染めの刀身が
墨色の冷気が、刃紋に沿って流れくだった。
切っ先の描く弧に沿って、墨色の霧が、ゆるりとたなびく。
「こっちはそのたんびに、
言うなり。
恋町は、身を入れ替え、前に踏み込みざま振りかぶった。ばっさりと兵之進を斬る。
首が転がり落ちた。
中身が、熟柿を押し潰すかのように吹き出る。
兵之進の上半身、首から上と、肩から胸にかけてが。
墨で塗り潰されて消えている。
「ひぎxエアぁぁくぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!」
一磨が肝を潰した声を上げた。尻込みして腰を抜かす。
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