弍 暮れ六つの禁
弍ノ一、ひぎゃぁあああ死んでるぅぅーーーっ!
ビシャリと音を立てて地面に潰れる。おそらく首に巻かれていたであろう
「ひぎゃぁあああ死んでるぅぅーーーっ!!」
「きゃあああーーーーーぁっ!?」
一磨が耳元であげた悲鳴のあまりの大音量に、兵之進は耳を両手で押さえて悲鳴をあげた。二人揃って逃げまどう。
だが、相手が訳もわからず動き出す
十手で、倒れた木戸番をつつく。反応はない。
「いや? 待て? 何だこりゃ?」
「本物の死体とか、僕はそういうのは、あ、あ、あんまり得手では」
兵之進は怖気付いた。一磨の大きな背中にぴたりとしがみついて、びくびくと首を突き出す。
一磨は、難しい顔で唸った。何が気になるのか、木戸番を突いたり、ひっくり返そうとしたりして様子を調べる。
「どうなんです?」
兵之進が気後れして尋ねると、一磨は、鼻息を荒く吹いて、それから首を横に振った。
「こいつはホトケじゃない。ただの泥人形だ」
「はい?」
「
一磨は、潰れた泥の塊を、恨みがましげに睨みつける。
「そ、そ、そうなんですか……?」
兵之進は情けない顔で深呼吸した。胸を手で押さえる。まだどきどきしている。動悸がおさまらない。
「一磨の悲鳴のほうがよっぽど怖いですよ。口から心の臓が飛び出るかと思った。ここはもういいでしょ、早く行きましょう。いつまでも放っておくと、あの人絶対に自分のことは棚に上げて怒り出しますよ……」
言いかけたとき。
番小屋の裏戸を引き開ける音がした。やけに鼻につく、粘っこい風が吹き寄せてくる。黴びた泥の臭いが広がった。
ビチャリ、と。今度は、濡れた藻を引きずるような音。
床がわなないて軋む。壁のすぐ向こう側にまで近づいてくる。
戸が揺れ出した。ガタガタと動く。
無理やり押され、たわんだ引き戸の下から、黒い水がドロリと染み出した。腐敗の悪臭となって広がる。
直後。
引き戸が中から叩き割られた。へし折られる。倒れた戸板の裏には、ベッタリとヘドロめいた手形。
奥には、全身真っ黒の泥を被ったヒトガタの群れ。蠢き、犇めき、這いずり、押し潰し合う、その真っ黒い顔に。
死んだ魚のような目玉が、ギョロリと浮いた。
▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます