51.総当たり攻撃 - レンズ色選定、一色目

 スタッフさんはまず、透明・うっすら灰色・灰色・濃い灰色のレンズを机に並べ、私に論文のコピーを差し出したわ。

「どのレンズが一番読みやすいか、目に当てて試してみてください。端から全部試していきます」

 全部試していきます。

 うん、そう。まさかの総当たりだった。


 もちろん明らかに読みにくい色はどんどん切り捨てていたけどね。ほとんど全色目に当ててみた。一色あたり四、五種類の濃淡があったから、割と気の遠くなる作業だったわね。目に当てて、今のレンズより見やすいものを選んで、次の候補が並べられて、目に当てて、今のレンズより見やすいものを選んで……。

 目まぐるしく移り変わる色とりどりの視界。その度に文字が見えたり消し飛んだり、共感覚が強まったり弱まったり。色をかけるだけでこんなに文字の読みやすさが変わるなんて知らなかった。どの色を当てても新鮮だったわ。


 比べて比べて比べ続けて、最後に手元に残ったのは、濃い桜色のレンズだった。

 桜色に染まった視界で、これが私のアーレンレンズ……と感慨に浸っていたのも束の間。

「はい、二色目いきます」

 そう言ってスタッフさんは桜色レンズに灰色のレンズを重ねたわ。

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