第224話 番外編_涼羽のバレンタイン

「ふふ…できたっと」




春に近づいてはいるものの、まだまだ寒さ厳しい二月。


そんな頃の高宮家のキッチンでは、その寒さなど、まるでないと思えるような、優しく温かな笑顔を浮かべている、この家の長男、涼羽の姿がある。




すでにこの日の夕食も、その後片付けも終えている状態なのだが、にも関わらずこの家のキッチンの主は、未だリビングにも自室にも戻らず、さらに何かを作っていた。


そして、それがちょうど終了し、その出来を見て、笑顔を浮かべていたのだ。




この時、涼羽が作り上げていたのは、ビターテイストとミルクテイストの二種類のチョコでそれぞれ包まれた、しっとりとしていて、それでいてさくさく感のあるクッキー。


それと、非常に可愛らしくできていて、食べるのがもったいないと思わせるほどの、猫と犬の形をしたチョコレート。


それらが、このキッチンに所狭しと大量に作られ、クッキーと猫、犬のチョコレートのいくつかをワンセットにして、その一組一組を綺麗に、可愛らしくラッピングしている。




「うん…これなら、みんな喜んでくれる、かな…」




料理上手な涼羽が、しっかりと味見までして作っていたものであるだけに、その味も誰もが美味しいと認めるであろうものとなっている。


そして、それだけではなく、形やラッピングにまでこだわって作ったのだから、受け取った人が本当に喜んでくれそうな出来栄えとなっている。




「ふふ…これでみんなが喜んでくれたら、嬉しいな」




自分のしたことで、人が喜んでくれることを思うと、涼羽のその童顔な美少女顔に、本当に幸せそうな笑顔が浮かんでくる。


これらを作るために、何日も前から準備を整え、できるだけ新鮮な状態で食べてもらいたいと思い、その渡す当日の前の日、つまりこの日に一気に作り上げたのだ。




世間的なイベントに疎いところがある涼羽なのだが、明日のことは一応は認識はしている。


ただ、世間の女子にとってはその勇気を出して、思い人にその思いを伝えるためとする日であり、世間の男子にとってはそれを待ち望んで、そわそわと落ち着きなく過ごしながら、もらうことができれば大喜びとなり、そうでなければ非常に残念な思いとなってしまう、そんな日ではある。




だが、涼羽の認識としては、普段からお世話になっている人に感謝の思いとして、こういった手作りのお菓子を渡す日だという、そんな認識となっている。


以前までは、実の妹である羽月と、ごく一部の、交流の深い教師くらいしか渡してはいなかったのだが、その交流の幅が大きく広がっている今となっては、その作る量もまるで違ってきている。


しかし、そんな手間を惜しむどころか、その一手間一手間すら、そのお世話になっているみんなが喜んでくれると思うと、本当に愛おしく思えて、とても幸せそうな笑顔を絶やさずに、ずっとその作業を続けていた涼羽なのである。




そんな明日は、バレンタインデー。


世間の男女には、その恋を成就させる、もしくはその恋をより深める、年に一度のチャンスとも言える、そんな日である。








――――








「ん~…おはよう、涼羽」


「おはよう、お父さん」




夜があけ、バレンタインデーの当日となる二月十四日の朝。


この日も、普段通りの高宮家の一日の始まりと、なっている。




この寒さ厳しい日が続く時期でも、変わらず早起きをして自分を含む全員の分の朝食に昼食の弁当、そしてアルバイトから帰ってきてすぐに出せるように、夕食の仕込みをしている涼羽。


その涼羽に寝ぼけ眼をこすりながらも、最愛の息子の姿が目に入ったその瞬間から非常に嬉しそうな笑顔で朝の挨拶をする父、翔羽。




涼羽も、そんな父、翔羽の朝の挨拶に、優しい笑顔と可愛らしい声で、しっかりと返す。


そして、挨拶を返したと思うと食事の準備をしていたその手を止めて、何かを大量に格納していることが一目で分かるボックスの中から、包みのようなものを一つ取り出す。




「…?」




そんな涼羽の行動に、一体なんなのだろうかと疑問符を抱きながらも、翔羽はただ黙って見つめているだけの状態と、なっている。




「はい、お父さん」




そんな父、翔羽に、本当に幸せそうで、嬉しそうな笑顔で手に持ったその包みを差し出す涼羽。


昨日までずっと、この日のために準備して、作ったこの一品を手渡したかったことが、その笑顔からも見て取れる。




「?え?これは?」




この日が一体何の日なのかも、まだその機能が覚醒しきっていない脳ではすぐに出すこともできず、翔羽はそんな息子の差し出してくれる包みにも、疑問符しか浮かばないでいる状態だ。




「お父さん、いつもいつもありがとう」


「え?え?」


「俺と羽月のこと、いつも優しく大切にしてくれて…いつもお仕事頑張ってくれて」


「りょ、涼羽?」


「今日って、バレンタインでしょ?だから、いつもお世話になってるお父さんに、お礼の気持ち」


「!!…」




嬉しそうに、父、翔羽に日頃の感謝の気持ちをつらつらと述べてくる涼羽の言葉。


そして、その言葉の中にある、バレンタインという言葉。


それを聞いた瞬間に、目の前の最愛の息子が一体何を渡してくれているのかを理解することができた翔羽。




会社ではその容姿と将来性ゆえに常に異性を魅了しており、以前までもこのバレンタインデーとなると、こぞって翔羽に本命の意味合いとなるチョコを、多くの女性が渡してきたのだ。


ただ、今は亡き最愛の妻である水月一人だと決めている翔羽からすれば、それはありがた迷惑でしかなかったのだが。


なので、ここ最近は意図的に、バレンタインデーと言う日を自身の意識から排除していたのだ。




ところが、長い単身赴任を終え、この我が家に戻ってきて初めてのバレンタインで、まさか最愛の息子である涼羽から、こんなにも純粋な感謝の想いに満ち溢れているものをもらえるなんて。


そのことを理解できた瞬間、翔羽の普段からも天元突破している涼羽への愛情が、また一段とその上へと突き抜けていってしまう。




「涼羽お~~~~!!!!お前はなんて可愛くて、なんていい子なんだ~~~~!!!!」


「!わっ!」




もうどうにも止まらなくなってしまったのか、最愛の息子である涼羽のことを、その自分の身体で包み込むかのように抱きしめ、その愛おしさを表すかのようにその頭を優しくなでてしまう。


いきなりぎゅうっと抱きしめられて、涼羽は驚きの声をあげてしまうが、それでも抵抗らしい抵抗もできず、ただただ、父、翔羽のしたいようにされている。




「お父さん、こんなにも嬉しいバレンタインなんて、お前のお母さん以来だよ~~!」


「も、もう…お父さん、喜びすぎだよ…」


「何を言うか!こんなにも可愛くて、こんなにも愛おしいお前がこんなことをしてくれて、お父さんもう嬉しくて幸せでたまらん!」


「…そっか…えへへ、お父さんが喜んでくれて、よかった」




翔羽にとってはいつだって世界一可愛いと断言でき、世界で一番愛していると断言できる存在である、息子の涼羽。


そんな息子が、こんなにも可愛くてこんなにも嬉しい贈り物をしてくれるなんて…


もう本当に嬉しくて、目の前の息子が愛おしくて、こうして抱きしめずにはいられなくなってしまっている。




そして、父である翔羽に、ぎゅうっと抱きしめられてしまっていることで、その頬が恥じらいに染まってはいるものの…


自分の作った贈り物でこんなにも喜んでくれている父を見て、本当に嬉しそうで、本当に幸せそうな笑顔を浮かべる涼羽だった。




「ん…ふあ~~~…おはよ~…お兄ちゃん…お父さん…」




そこに、寝ぼけ眼をこしこししながら、朝の挨拶をしてくる眠たげで可愛らしい声が響く。


翔羽の娘であり、涼羽の妹である羽月が、起きていつものように降りてくると、キッチンにその姿を現したのだ。




この寒い時期は、さすがに寝起きのいい方ではない羽月はなかなか起きることができず、暖かい時期と比べるとやはり降りてくるのが遅いのが、明確となっている。


しかしそれでも、兄、涼羽と触れ合う時間を少しでも多くしたいがために、眠い目を擦ってでも起きてくるのが、最近の羽月なのだが。




「おお!おはよう!羽月!」


「おはよう、羽月」




そんな羽月に、朝から非常にご機嫌でテンションの高い挨拶を返してくる父、翔羽と、いつも通りおっとりとしていて、優しげな笑顔でふんわりとした挨拶を返してくる兄、涼羽。


二人共、羽月のことは本当に可愛いと思っているから、自然に笑顔が浮かんでくる。




そして、羽月の姿を確認した涼羽は、べったりと抱きついてくる父からやんわりと離れると、先程と同じように、父に渡したものと同じ包みを、例のボックスから取り出す。




「はい、羽月」




そして、こうするのが本当に幸せで嬉しいと言わんばかりの笑顔を浮かべながら、妹である羽月に、その包みを差し出し、手渡しをする。




「?………!お兄ちゃん!これ…」




それを見て、毎年恒例でもらっている羽月はすぐにぴんときたのか、寝ぼこ眼をこしこしして、まだ眠たげな様子が嘘のように意識が覚醒し、途端に嬉しそうな笑顔が、浮かんでくる。




「いつも俺のこと、大好きでいてくれてありがとう、羽月。お礼のバレンタインプレゼントだよ」




いつもいつも兄である自分のことを大好きでいてくれる可愛い妹にお礼だと、その優しい口調と可愛らしい声を響かせて、妹に向ける涼羽。


羽月は、涼羽のバレンタインプレゼントを毎年楽しみにしているため、いつも本当に嬉しさと幸せ一杯な、天真爛漫な笑顔が浮かんでくるのだ。




そんな妹のそんな笑顔を見られたら、本当に嬉しいと、幸せだと思うことが出来る涼羽。


だからこそ、このバレンタインプレゼントを作る手間ひまも、このためだと思えば全てが愛おしく感じられてしまう。




「わ~~~い!!ありがとう!!お兄ちゃん!!」


「ふふ、よかった。喜んでくれて」


「だってだって、だあい好きなお兄ちゃんが手作りしてくれたお菓子だもん!!嬉しくて、幸せでたまらないもん!!」


「ありがとう、羽月。そんなにも喜んでもらえたら、本当に嬉しいよ」




最愛の兄から、心のこもった手作りのプレゼントをもらえて、この世の幸せが全て来たかのようなとびっきりの笑顔を浮かべて大はしゃぎする羽月。


羽月のそんなにも喜んでくれる姿を見て、涼羽も本当に幸せそうに、嬉しそうに微笑んでいる。




そして、嬉しくて眠いのも忘れて大はしゃぎしていた羽月が何かを思い出したかのように、とてとてと冷蔵庫に向かい、そのドアを開けると、中から丁寧にラッピングされた二つの包みを取り出す。


そして、幸せ満開の笑顔のまま、父、翔羽と兄、涼羽のそばまで、とてとてと近寄っていく。




「はい!お兄ちゃん!お父さん!」




手に持ったその包みを、羽月は二人に無邪気で嬉しそうな笑顔で差し出してくる。




「バレンタインのチョコだよ!」




一瞬、それが何なのか分からなかった翔羽と涼羽だが、羽月のにこにこ笑顔からのこの台詞で、ようやく理解することとなった。




さすがに料理ができない羽月は、涼羽のように手作りというわけにはいかなかったため、店で買った既製品となっている。


だが、それでも二人のために、普段はあまり使うことのない小遣いを奮発して、結構ないいものを買ってきたのだ。




「うわ~~!!今年は涼羽からだけでもすっごく嬉しいのに、羽月からももらえて、お父さん本当に嬉しいぞ~~!!」


「えへへ~♪お父さんが喜んでくれた~♪」


「ありがとう!羽月!お父さんはこんないい子達に恵まれて、本当に幸せだ~~!!」




バレンタインというイベント自体を近年は意識的に排除していた翔羽なだけに、こんなにも幸せ一杯に気持ちにしてもらえるバレンタインは、水月が生きていた時以来だと、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、その思いを露にしている。




そんな父、翔羽を見て、羽月も嬉しいのか、その天真爛漫で可愛らしいにこにこ笑顔を絶やすことなく、幸せな思いを感じている。




「ありがとう、羽月。本当に嬉しいよ」


「わ~い♪お兄ちゃんが喜んでくれた~♪」


「だって、こんなにも可愛い羽月がくれたんだから、嬉しいに決まってるよ」


「えへへ~♪お兄ちゃんのは、わたしの本命チョコだからね!」


「?本命?……よく分からないけど、ありがとう」




涼羽の方は、まるで幼い娘に親孝行してもらえた母親のような、本当に慈愛と母性に満ち溢れた、優しい笑顔を浮かべながら、その感謝の思いを優しい口調で音にする。


毎年恒例ではあるのだが、それでもこうして羽月が自分にバレンタインのプレゼントをしてくれるのが嬉しくて、幸せ一杯になってしまう。




そして、この年になって初めてなのは、兄である涼羽のことが本命だという羽月のこの台詞。




バレンタインの買い物に出かけた羽月が、その店で自分と同じように買い物に来ていたお姉さん達がしゃべっているのを、横で聞いていたのだ。


その時に、『本命』と言う言葉が耳に入り、一体どういうことなんだろうと思った羽月が、その人見知りな性格であるにも関わらず、思い切ってそのお姉さん達に聞いてみた。




その時に返って来た答えが、『自分が付き合いたい、恋人にしたい、一番大好きな人』と言うものだったのだ。


それを聞いて、羽月の頭に真っ先に思い浮かんだのが、最愛の兄である涼羽。


自分が一番大好きな人が本命と言うんだ、と、羽月はそう思い、その本命として兄を思い浮かべると、本当に幸せで嬉しい気持ちになってくる。


だから、自分の本命は兄で間違いないのだと、羽月は確信してしまった。




幼さの色濃い美少女な容姿の羽月が、本命ってなんのこと、とか聞いてくる様子や、その本命を思い浮かべて、天使のような可愛らしい笑顔を浮かべている様子を見て、周囲のお姉さん達が本当に心が癒されるかのような思いになれて、羽月のことが可愛くてどうしようもなくなって、ついついもみくちゃにするように可愛がってしまったのは、また別の話。




だから、羽月は今年はバレンタインのプレゼントを兄である涼羽に渡す時に、その『本命』という言葉を付け加えたのだ。


そして、羽月のことが可愛くてたまらなかった店員が気を利かせて、涼羽の分には恋人に贈る用のメッセージカードまで用意してくれたので、それに直筆で、最愛の兄への、大好きで大好きでたまらないその想いをありったけでこめたメッセージを書いて、包みに入れた。


さらには、父、翔羽に渡すものと同じハート型のチョコに可愛らしい丸文字で『最愛のあなたへ』などと入れてもらえたため、どう考えても実の兄に渡すものではないものとなってしまってはいるのだが。




しかし、本命と言う言葉が一体どういう意味なのかを知る由もない涼羽は、少なくとも悪い意味ではないと思い、妹がくれる言葉に素直に感謝の思いを告げる。




「お兄ちゃあ~~ん♪」




そんな兄が可愛すぎて、愛おしすぎてたまらないのか、羽月は兄、涼羽の身体にべったりと抱きついて、その胸に顔を埋め、いつものようにすりすりと頬ずりをしながら甘えだす。


いつものことではあるのだが、もう本当にそれだけで、この世の幸せを独り占めできているかのようなとびっきりの笑顔が、羽月の顔に浮かんでくる。




「ふふ…どうしたの?羽月?」




そんな妹が本当に可愛いのか、涼羽はその小さな身体を壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめ、自分の胸にすりすりと頬寄せている頭を優しくなでなでする。


こんな涼羽の反応も、いつも通りのもの。




「お兄ちゃん、だあ~~~~~い好き♪」




そして、もうその愛情を抑えきれなくなってしまっているのか、兄、涼羽の童顔な美少女顔に背伸びをして自分の顔を近づけていき、兄のその唇を独り占めするかのように、優しく奪う。




「!んっ…」


「ん~…」




奪われた涼羽の方は驚きを隠せずに、逃げるように後ろに下がろうとしてしまうものの、妹、羽月がそれを許さないと言わんばかりに兄、涼羽の身体をぎゅうっと抱きしめて離そうとしない。


そして、幸せ満開の笑顔で、兄の唇を堪能すること、数分…


ようやく、といった感じ、羽月は涼羽の唇を解放する。




「えへへ…お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんだから、わたしだけがこんな風にお兄ちゃんにちゅーしてもいいの♪」


「も…もう…羽月ったら…」




可愛らしさに満ち溢れた、嬉しそうな笑顔を兄、涼羽に向けながら、兄は自分だけのものだという独占欲満開の台詞を、その鈴の鳴るような可愛らしい声でこの場に響かせる。


いきなり唇を奪われてしまった涼羽は、恥ずかしそうに頬を染めながら、少し恨みがましい感じで、妹をたしなめるような声をあげる。


もちろん、そんな様子の涼羽も本当に可愛すぎて、羽月がますます涼羽にべったりとしてしまうのだが。




「ああ~~もう!!お前達はどうしてこんなに可愛いんだ~~~!!」




そして、どこまでも、どうあがいても可愛すぎるやりとりをひたすらに続けている涼羽と羽月の兄妹があまりにも愛おしくなりすぎてしまい、とうとう二人の父である翔羽が、べったりとくっついたままの涼羽と羽月をもろともにぎゅうっと、包み込むように抱きしめてしまう。




「!わっ!…お、お父さん…」


「えへへ~♪お父さんもぎゅ~ってしてくれてる~♪」




いきなり、愛情に満ち溢れた雰囲気から始まったバレンタイン当日の朝。


妹、羽月にこれでもかと言うほどに愛され、父、翔羽にもこれでもかと言うほどに愛され、恥ずかしがりながらも抵抗らしい抵抗など、できずにいる涼羽。




チョコのように甘く、陽だまりのように温かく優しい雰囲気から、高宮家の朝は始まるのだった。








――――








「はい、美鈴ちゃん」




そして、バレンタインデーと言うことで、どの生徒も非常に浮き足立っている様子を隠しきれない雰囲気に満ち溢れている、学校の昼休み。




本当に嬉しそうで、幸せそうな笑顔の涼羽が、明らかに手作りと分かる、それでいてきちんとした包みを自分に手渡してくるのを見て、きょとんとしてしまう美鈴。




「?涼羽ちゃん?」


「美鈴ちゃん、いつも俺と仲良くしてくれてありがとう。お礼の、バレンタインプレゼントだよ」


「!!涼羽ちゃん、これ、私に?」


「うん、そうだよ」




いきなり包みを渡されて、一体それが何なのか分からなかった美鈴だが、涼羽がいつものお礼のバレンタインプレゼントだと言うと、まるで飛び上がるかのように驚いたと思えば、すぐにその美少女顔に幸せ一杯の笑顔を浮かべることとなる。




「もしかして、涼羽ちゃんの手作り?」


「うん。美鈴ちゃんが喜んでくれたら、嬉しいな」


「!!~~~~わ~い!!すっごく嬉しい!!ありがとう!!涼羽ちゃん!!」


「えへへ、美鈴ちゃんがそんなにも喜んでくれて…俺もすっごく嬉しい」




美鈴にとっては、この世の誰よりも大好きで大好きでたまらない涼羽からもらえたというだけでも、天にも昇るかのような幸福感なのに、さらにそれが手作りだと聞かされて、さらにその幸福感が膨れ上がっていく美鈴。


まるで、本当に欲しいものを与えてもらえた子供のように無邪気に、素直に喜んでしまう。




そんな美鈴を見て、自分の贈り物でこんなにも喜んでもらえて本当に嬉しいと、涼羽も負けじと幸せそうな笑顔を浮かべてしまう。


そんな涼羽に、すでにメロメロにされている心をさらにメロメロにされながらも、美鈴は自身の鞄の中から、少々形は歪であるものの、それゆえにそれが手作りだと、すぐに分かるような包みを取り出す。




「はい!涼羽ちゃん!」


「?美鈴ちゃん?」


「私からも、涼羽ちゃんにバレンタインのチョコ、あげる!」


「!わあ…これ、手作りなんだね。ありがとう、美鈴ちゃん」


「えへへ♪私の本命チョコなんだから、絶対食べてね!」


「本命?……よく分かんないけど、ありがとう。ちゃんと食べるね」




美鈴も、涼羽に当然のように用意していたバレンタインのプレゼントを、目の前の涼羽に手渡す。


涼羽に料理を教わってからそれなりに経つこともあって、このバレンタインを機に、お菓子作りもしてみようと思い立った美鈴。


幾度となく失敗を繰り返しながら、ようやく形にすることができた、その想いの結晶とも言うべきチョコ。


形は少々歪にはなってしまったものの、味の方は自分のみならず、家族にも協力してもらっているので、問題なしと言えるものとなっている。




そして、それが自分へのものだと分かると、本当に嬉しそうな笑顔で、美鈴にお礼の言葉を贈る涼羽。


そして、今朝妹の羽月からも言われた『本命』と言う言葉がここでも出てくることとなるのだが、結局涼羽はその意味を知らないままで、しかしそれが悪い意味ではないのだと思い、素直に重ねてお礼の言葉を述べる。




しかし、年頃の女の子が、意中の男の子に本命のチョコを手渡しするという、まさに一大イベントとも言うべきやりとりであるにも関わらず、まるで非常に仲良しな女の子同士で贈り物をし合っているかのような、ほわほわとしたやりとりにしか見えないのもまた、この二人ならではと言えるだろう。




「えへへ、涼羽ちゃんだあ~~~~い好き♪」




嬉しそうに、幸せそうに笑顔を浮かべている涼羽が本当に可愛くて、愛おしくてたまらなくなってしまい、いつものようにべったりと涼羽に抱きついてしまう美鈴。


そして、涼羽の露になっている左頬に、自分の頬を摺り寄せ、涼羽の抱き心地を堪能しながら、その幸せを噛み締めている。




「!!ひゃ…み、美鈴ちゃんってば…」




そんな美鈴のいつも通りの行動に、いつまでも慣れない様子で驚いたようにびくりとしながら、ついついたしなめるかのような口調になってしまう涼羽。


これもまた、いつも通りの光景となっている。




「お、なんかいつも通りだな。二人共」


「ほんとにもう、この二人ったら…(美鈴ちゃんばっかり、ずるいわよ…もう)」




そんな二人のところに来るのは、志郎と愛理の二人。


もはや当然のように涼羽のところに来るようになっている志郎は、完全に常連扱いとなっているので、またいつものこととしか思われなくなっている。


愛理は、そこまで頻度は多くはないものの、美鈴と仲良くなっていることもあり、以前と比べると頻度は確実に多くなっている、とは言える。


加えて、以前よりもさらに雰囲気が柔らかくなっていっている愛理は、他の男子からの人気がうなぎ上りの状態となっており、実際に愛理がここに来ただけで、男子達の視線が愛理の方へと向かってしまっている。




「あ、志郎に小宮さん」


「あ!鷺宮君に愛理ちゃん!」




非常に仲良しな様子を見せ付けるかのように、美鈴が涼羽にべったりと抱きついたままの状態で、今となっては昔からの馴染みかのように仲良しになっている志郎と愛理の二人に気がつく、涼羽と美鈴。


普段から仲良しな二人が、自分達のところに来てくれたおかげで、涼羽も美鈴もほんわかとした笑顔を浮かべて、二人を迎える。




「あ、そうだ」




そして、何かを思い出したかのように、自分にべったりと抱きついたままの美鈴から一旦やんわりと離れると、涼羽はこの日、普段は持ってこないであろう大きなバッグの中から、美鈴に渡したものと同じ包みを二つ、取り出す。


そして、これまた嬉しそうで幸せそうな表情を浮かべながら、志郎と愛理のところに寄って行く。




「はい、志郎と小宮さん」




その手に持った包みを、まるで自分が本当に欲しいものをプレゼントしてもらえたかのような嬉しさと幸福感に満ち溢れた笑顔を浮かべながら、志郎と愛理にそれぞれ差し出す涼羽。




「?涼羽、これは?」


「?高宮君、これって…」




いきなり涼羽にそんなことをされて、一瞬何が何だか分からなくなってしまい、きょとんとした表情を浮かべて、少し間の抜けた反応を返してしまう志郎と愛理。




「いつも俺と仲良くしてくれてありがとう。志郎、小宮さん。俺からの、バレンタインプレゼントだよ」


「!涼羽……」


「!高宮君……」




そんな、純真無垢な天使のような笑顔で、自分達に普段から仲良くしてくれるお礼だと言って、その包みを差し出してくる涼羽の台詞が、その場に響く。


そんなことを言われて、しかも一目で手作りだと分かるそれを手渡そうとされて、きょとんとしていた志郎と愛理の表情が、驚きの表情に変わってしまう。




しかし、それも一瞬のことで、すぐにその表情も本当に嬉しそうな表情に変わってしまう。




「うわ~マジか、これ……涼羽!ありがとう!すっげー嬉しいぜ!」




根が素直で、さっぱりとした性格の志郎から、その嬉しさが本当に伝わってくるであろう反応が返って来る。


その様子が、本当に母親に欲しいものを買ってもらえた幼い子供のようで、妙な可愛げも生んでしまっている。


そして、それだけでは抑えられなくなっているのか、涼羽の身体を自分の身体で包み込むかのように抱きしめてしまう。




「!わ……ふふ、志郎が喜んでくれて、よかった」




自分のつたない贈り物で、本当に喜んでくれる親友の姿が本当に嬉しくて、いきなり抱きしめられたことに驚きつつも、優しげで幸せそうな笑顔が、涼羽のその美少女顔に浮かんでくる。




「……………」




愛理の方は、涼羽がくれた贈り物にじっと目を向けたまま、無言の状態でたたずんでいる。




いくら今は本当に仲良しと言える関係を築いているとは言え、その出会いそのものは、もう愛理の中では最悪と言えるものだった。


しかも、そんなひどいことをしてしまった自分のために、下手をすれば一生消えないかも知れない傷を負わせることにまで、なってしまったのだから。


でも、涼羽はそんな自分に対しても、本当に優しく包み込んでくれて、そのうえ、本当にいつも自分のことを気にかけてくれた。


本当なら、自分がもっともっと、こんな堅物で愛想のない自分にこんなにも優しくしてくれてありがとうと、その想いを言葉としても、行動としても伝えていかなければ、と思っていたのだから。


ただそれも、なかなか素直になれないその融通の利かない性格が邪魔して、うまくできずにいるのだが。




先程、涼羽がこの包みを取り出したバッグの大きさからすれば、結構な数を手作りしてきたことが容易に想像できてしまう。


しかも、このとことんまでお母さんな性質の涼羽のことだから、本当に受け取った人が喜んでくれることを考えて、本当に幸せそうな笑顔でひたすら作っていたと、確信が持ててしまう。




そんな風に作ってくれたものを、こんな自分に、いつも仲良くしてくれるお礼だと言って、本当に嬉しそうに手渡してくれる涼羽のその姿が、本当に嬉しくて嬉しくて、言いようのない幸福感に満ち溢れてきてしまう。




「……高宮君!」


「?なあに?小宮さん?」




嬉しさのあまり、少し震えた声で涼羽を呼びかける愛理。


その愛理の声に、疑問符を浮かべながらも笑顔のまま反応する涼羽。




そんな涼羽の身体に、ふわりと優しく、柔らかな感触が広がるかのように感じられる。




愛理が、涼羽のことを本当に大切な宝物にそうするかのように、ぎゅうっと抱きついてきたのだ。




「!え?え?小宮さん?」


「ありがとう!すっごく嬉しい!こんなにも嬉しい贈り物してくれる高宮君、大好き!」




そして、今までずっと言葉にできなかった想いを、本当に今までの苦悩が一体なんだったのかと思えるくらいにすんなりと言葉として涼羽に伝えてくる愛理。


涼羽の方は、他の女子達と違って、今までこんなことをしてこなかった愛理にいきなりこんなことをされてしまい、その思考を混乱の渦に落とされてしまっている。




涼羽が本当に純粋に相手に喜んで欲しいという想い、そして、本当に純粋にいつも自分と仲良くしてくれてありがとうという想い…


その想いが込められたその贈り物は、愛理にとっては本当に嬉しくて嬉しくてたまらないものとなったのだ。


そのおかげで、今までずっと素直に言えなかった想いをこんなにもすんなりと言葉にできてしまった。


それほどに、涼羽の贈り物は愛理にとっては、これまでの人生で一番嬉しいものであり、この日が、愛理のこれまでの人生でもっとも幸せだと言える日となった。




「もう!ほんとに高宮君ったら、いつもいつも私が嬉しくなることばっかりしてくれるんだから!」


「あ、あの…」


「いつもいつもこんな私に優しくしてくれるし!私が嬉しくなったら、高宮君もすっごく嬉しそうな顔してくれるし!」


「こ、小宮さん…」


「私、いつもいつももらってばっかりだから、私も高宮君に少しでもお返ししたいのに!」


「そ、そんなこと…」


「許せない!いつでも私を幸せにしてくれて!こんなにも可愛くて!大好き!」




もうその想いを抑えることができなくなっているのか、普段の落ち着いた雰囲気は一体どこにいってしまったのかと思えるほどに、愛理は涼羽にべったりと抱きついたまま、すごい勢いで普段から涼羽にどれだけ嬉しくしてもらっているのかを伝えてくる。


いきなりそんなことを伝えられて、おたおたと戸惑うことしかできない涼羽に構うことなくその想いをつらつらと言葉でぶつけてくる愛理に、周囲の生徒達はもちろん、他と比べて交流の深い志郎や美鈴までもが、驚きを隠せない表情のまま、固まっている。


しかし、その口調がまるで涼羽を責めているかのような、ツンツンとしたものなので、一体涼羽のことを持ち上げたいのか、怒りたいのかがよく分からない感じになってしまっている。




さらに、一度涼羽の身体から離れたと思うと、その手に持っていた、涼羽にもらったものとはまた別の、手作りの可愛らしげな包みを涼羽に差し出してくる。




「はい!」


「え?」


「私からの、バレンタインのプレゼントなんだから!」


「!……」




いきなり愛理から差し出された包みに対して、一体何が何だかといった様子になっている涼羽に、ツンツンとした口調のまま、それがバレンタインのプレゼントであることを告げる愛理。


そして、半ば無理やり、といった感じで愛理からその包みを手に渡される涼羽。




「いい!?勘違いしないでよね!!」


「え?え?何が?」


「私がこんなことするの、高宮君だけなんだから!高宮君が、本命なんだから!」


「そ、そうなんだ…」


「べ、別に高宮君がどうでもいいとか、嫌いとかなんて、ぜ~~~~ったいに思ったりしないし、してないんだからね!か、勘違いしないでよね!」




ツンツンとした口調のまま、今までからは考えられないほどに素直にその想いを涼羽にぶつけ続ける愛理。


もう、恥ずかしさよりも嬉しさの方が強いのか、自然とその大人びた美少女顔が緩んでしまうのを抑えられないでいる。


そんな愛理がくれた包みと、言葉で伝えられているその想い…


それを受ける側となっている涼羽は、一体愛理が何を言っているのかはよく分からないものの、自分のことをよく思ってくれているということだけは、その心に染み渡るように伝わっている。


それが嬉しくて、呆気にとられていたその顔に、今度は嬉しさと幸せさが一杯に出ている、花が咲き綻ばんばかりの眩い笑顔が、表情として浮かんでくる。




「えへへ…小宮さん、ありがとう。俺、すっごく嬉しいし、俺も小宮さんのこと、大好きだよ」




本当に純粋で素直な想いを、そのままその笑顔にのせて、愛理に言葉として伝える涼羽。


その笑顔は、それを見ている人間の心に本当に癒しを与えてくれるであろうことが、すぐに分かってしまうものと、なっている。




「!!もお!ずるい!」


「え?」


「高宮君、こんなにも喜んでくれて!嬉しいって言ってくれて!大好きって言ってくれて!」


「こ、小宮さん?」


「なんで高宮君は、こんなにも私が喜ぶことばっかりしてくれるの!?ふざけないで!」


「え、ええ~…」


「こんなの、私もっともっと高宮君のこと、大好きになっちゃうじゃない!どうしてくれるの!ほんとに!」


「え~…で、でも…小宮さんが好きって言ってくれて、俺、嬉しいよ?」


「!!~~~~~もお~~~!ほんとに高宮君って、大好きすぎて許せない!」




どこまでも自分にとって嬉しいこと、幸せになれることばっかりしてくれる涼羽のことを、まるで悪いことをしているかのように責める口調で、しかしそれでいて涼羽のことが大好きで大好きでたまらないという想いをひたすらに言葉で伝えてくる愛理。




またしても我慢ができなくなってしまったのか、涼羽のその小柄で華奢な身体にべったりと抱きつき、涼羽は自分だけのものだと言わんばかりの独占欲を見せ付けるように、ぎゅうっと抱きしめてくる。




「…あ、あの、いいんちょ?」


「…あ、愛理ちゃん?」




愛理が涼羽のことを本当に大好きだと思っていることを知っていた志郎と美鈴の二人が、目の前の人物は一体誰なんだろうというような目で愛理を見ながら、間の抜けた声で、愛理を呼びかけてくる。




「なに?……………!!!!!!!!!!!」




せっかく大好きな涼羽と、こんなにもいちゃいちゃ(?)できているのに、それを邪魔されたと言わんばかりの不機嫌な表情で、二人の呼びかけに反応する愛理。


だが、その瞬間に、ここまで自分が涼羽に対してどんなことをしていたのか、どんなことを言っていたのかを自覚してしまうこととなる。


そして、その顔全体が、まるで熟れた林檎のように一瞬で真っ赤に染まってしまう。




「あ……あ……」




周囲の視線が、全て自分と涼羽に向いていることに気づいてしまい、ここまでのやりとりを全て見られていたことにも気づいてしまう愛理。


もうその思考が混乱と言う名の暴風雨にかき乱されてしまっている。




「ち…違うの!……こ、これは……違う…の!……」




そして、普段の落ち着いた雰囲気が嘘の様に、わたわたと慌てふためきながら、ただただ、何をどう言いたいのかもよく分からない弁解を始める愛理。


しかし、その弁解もただ、違うと言うだけのものとなっており、よほど混乱しているのだろうということが、嫌と言うほどに分かってしまう。


加えて、そんな風に弁解をしようとしているくせに、涼羽の身体にべったりと抱きついたままの状態なので、ただでさえ説得力どころか、説得そのものが始まっていないのにこの状態では、どう見ても自分が涼羽のことを独り占めしたくて、そんなことをしているようにしか見えない。




さらに、先程の台詞でどれほどに愛理が涼羽のことを想っているのかが、もうここにいる人間にはモロバレの状態となっているので、今更何を言っても無駄、と言える状況なので、ある。




「うわ~~~…小宮さん、めちゃくちゃ可愛いな…」


「ツンのままデレるとか、なんというテクを披露してくれるんだ…しかも可愛いし」


「しかも、高宮に渡したあれも手作りとか…あ~…小宮さんマジでいいなあ~…」




普段の落ち着いた、理知的な雰囲気に併せ、気を許した相手にだけ見せる優しい笑顔、そして、恥ずかしがりやで素直になれなくて、ついつい思っていることと違うことを口に出してしまうその姿…


見ていて飽きることなどなく、綺麗さと可愛らしさを見事に共存させていて、そのギャップがまたいいと言えるものなので、必然的に愛理の男子人気はうなぎのぼりの状態と言える。


そこに、もはやどうしようと可愛いとしか言いようがないこんな姿を見せられて、ますます愛理のことが可愛らしく見えてきてしまう。




愛理はこの場で涼羽に事実上の告白をしているのだが、それも相手が涼羽ということで、美鈴と同じように異性として見られていない状態であることが自ずと理解できてしまい、さらには涼羽自身、美鈴や愛理と言った、校内でもトップクラスに位置づけられる美少女達と比べても見劣りどころか、むしろ勝っているといってもおかしくないほどの美少女っぷりがあるので、結局のところ同性同士の可愛らしい友情にしか見えないという状態である。




「ち…違うの…違うの…」


「こ、小宮さん?…」




今の状況を否定したくて、それを表す言葉を儚い声で呟くものの、結局涼羽にべったりと抱きついたまま、決して離れないのでは、何を言っても無駄なのだが、そのことに愛理が気づく様子はない。


それほどに、涼羽にべったりとするのが、お気に召してしまっているようだ。




壊れたレコードのようにただただ、違うとぶつぶつと繰り返しながらも、自分から離れるどころか、よりぎゅうっと抱きついてくる愛理に、涼羽はただただ疑問符しか浮かんでこない状態となっている。




「…えへへ♪愛理ちゃん、なんだかすっごく可愛い♪」




そんな愛理を見ていて、本当に可愛らしく思えたのか、美鈴が恥らいながらも涼羽にべったりと抱きついたままの愛理のことを、涼羽もろともぎゅうっと抱きしめてくる。




「!み、美鈴ちゃん!?」


「愛理ちゃん、ほんとに可愛すぎだよ~。それに、ほんとに涼羽ちゃんのこと、大好きなんだね~」


「!!あ…そ、そんなこと…」


「違うの?」


「!!~~~~~~……」




まるで三人の美少女がきゃっきゃうふふと戯れているようにしか見えない、ゆりゆりしいそのやりとり。


普段はしっかり者のイメージで、いつも誰かに頼られている愛理が、涼羽に対してはどことなく甘えているような感じを見せていることを知っている美鈴。


だから、美鈴としては別に愛理がこんな風に涼羽のことを大好きだと言ったり、べったりと甘えたりしても何の不思議もないと、思っている。


先程は、こんな大勢の目の中でいきなりだったので、さすがに驚きはしたのだが。




そして、そのことを美鈴に言葉にされた愛理は、それを否定しようとしてしまうものの、でもそれをすると自分が涼羽のことを嫌っていると思われてしまうため、結局のところ、何も言えずにただただ、恥らってしまう。




そんな中、涼羽が思い出したかのようにクラスのみんなに、自分が作って持ってきたバレンタインプレゼントを、普段から仲良くしてくれているお礼だと言って、その可愛らしさ満点の笑顔で手渡していく。


当然、普段から涼羽のことが大好きで大好きでたまらない女子達はもうこの世の幸せがいっぺんに来たかのような喜びを見せ、自分達の方が普段から涼羽にはいつも幸せな気持ちにさせてもらっているからと、それぞれ用意してきたチョコを、本当に嬉しそうにお返しとして手渡していきながら、べったりと抱きついては涼羽のことを可愛がろうとしていく。




男子達の方は、この校内のアイドル的存在とも言える涼羽に、手作りのバレンタインプレゼントをもらえたことで、もうだらしのないニヤケ顔が止まらない状態となってしまっている。


校内でも屈指の美少女に、手作りのバレンタインプレゼントをもらえたような気がして、この日は彼らにとっては本当に幸せな日となったので、ある。




そして放課後に、涼羽はわざわざ職員室にまで行って、いつもお世話になっているお礼だと言って、その手作りの包みを笑顔で手渡していく。


担任の京一はそんな涼羽が可愛くてついついその頭をなでたりしてしまい、他の男性教諭達はその美少女然とした容姿の涼羽にそんなことをしてもらえたので、もうこの世の幸せがすべてきたかのような喜びを見せてしまっていた。


さらに、女性教諭達も涼羽のそんな行為が嬉しくてついつい可愛がってしまい、特によく涼羽に接している莉音や水蓮は、もう嬉しすぎてむちゃくちゃに涼羽のことを可愛がってしまっていた。


さらに水蓮は、永蓮と香奈の分まで渡されることとなり、それを水蓮から受け取った二人が声をあげて喜んだのは、その日の夜のこととなる。




そして、放課後のアルバイト先である秋月保育園で、日頃からお世話になっている祥吾や珠江を始めとする職員の人達にも、涼羽は幸せそうな笑顔でその手作りの包みを手渡すこととなる。


もちろん、そんな涼羽の贈り物が嬉しくて、祥吾や珠江を始めとする職員全員で涼羽のことをめちゃくちゃに可愛がってしまったのは、言うまでもない。




行く先行く先で、相手の喜ぶ顔が見たくてその手作りの贈り物を渡していく涼羽の姿は、本当に人に幸福を与えようとする座敷わらしのようで、それを贈られた誰もが、そんな涼羽に、心から嬉しそうで幸せそうな笑顔を見せてくれた。


この年のバレンタインは、涼羽にとって多くの人に喜んでもらえた、とても幸せな日となったので、あった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る