第70話 あ~…落ち着く~

「ふ~…たまには外に出るのもいいな~」


ぽかぽか陽気の、暖かい日差しの下。

色とりどりの草木や花が、至るところにその姿を見せているこの場所。


涼羽の自宅である高宮家から、割と離れた公園。

この地域で作られ、管理されているこの施設。


公園とは言っても、遊具の関連はほぼなく…

その割には、結構な敷地面積がある。


出入り口は東西南北の四ヶ所に存在しており、それぞれの出入り口付近にはファンタジーのゲームや創作物ではよく出てくる四体の霊獣…

青龍、朱雀、白虎、玄武を象ったレリーフが展示されている。


そして、その四体の霊獣である四神がそれぞれ象徴する季節…

その季節に合わせた植物が、東西南北それぞれのエリアスペースで管理、育成されているのだ。


道は、その東西南北の出入り口を結ぶように菱形に作られており…

その菱形を中心で割って、四分割するように、さらに道が作られている。


なので、それぞれのエリアには普通に行き来することができ、そのルートも非常に単純明快に作られている。

公園の中心となる位置には、円形の溜池があり、その池の中心には、噴水がある。

その池の水は濁りなどもなく、まるで自然の清流のように澄んだものとなっている。


もちろん、心無き人間がゴミなどを捨てていく、といったことはあるのだが…

この公園全体をこの地域の公的組織が厳正に管理しており…

この公園へのゴミのポイ捨て、公園内で育成されている植物の損壊に関しては条例として非常に厳しく取り締まられている。


その為、公園内は警官立ち寄り場として、一定間隔で常に周囲の交番から警官が巡回してくるのだ。


その甲斐あって、この公園の中はまるで周囲の町の中からは断絶されているかのような澄んだ空気に満ちている。

そして、町の外れの方にあるため、騒音らしい騒音もなく…

その、まるで時の流れがせき止められているかのようなゆるりとした雰囲気が非常に好評となっており…

自然を好む人や、静けさを求めてくる人、心の癒しを求めてくる人が後を絶たず…

この町の名所として、人々に愛されることとなっている。


そんな、自然に溢れた人々の癒し空間とも言える場所を、この高宮 涼羽も愛しており…

一人でいたくなった時は少し足を伸ばして、この公園まで散歩に来たりするのだ。


そして、世間的に休日となっているこの日…

ここ最近で多くの人と交流を持つこととなり…

さらには、あの怪我の件もあって、家族である父と妹がこれまで以上にべったりとしてくるようになった為…

以前よりも一人でいたくなる頻度が高くなったのだ。


もちろん、周囲の人間が嫌いなどとは決して思うことなどないのだが…

根本的に一人を好む性質なので、どうしてもこうした一人でゆったりとする時間が欲しくなってしまう。


休みの日は、父、翔羽も妹、羽月も比較的遅くまで寝ていることが多く…

休みの日も普段と変わらず早起きであることを利用して…

三人分の朝食と、二人分の昼食…

それと、これから出かける自分の昼食用の弁当をこっそりと作り…

一人で朝食を済ませ、歯磨きと洗顔を終えると、少し出かけてくることを記したメモを残し…

そのまま、一人気ままな散歩に出かけていったのだ。


ちなみに、あの左頬の怪我は、涼羽自身がしっかりとケアしてたことと…

涼羽の回復力が周囲が思っていたよりも高かったこともあり…

今では、まるで何事もなかったかのように完治している。


その背中を覆うほどに長い髪は、普段と同様に飾り気のないヘアゴムで一つに結ばれており。

その華奢な肢体を包む衣服は、烏の濡れ羽のような黒一色の、ゆったりとしたサイズの薄手のトレーナーとジーンズとなっている。


ただ、さすがにここ最近で付けることを義務付けられているヘアピンはなく…

以前のような、その顔を前髪で覆う野暮ったいスタイルとなっている。


「あ~…いつ来てもここはいいな…」


公園内の中心となる、溜池のあたりまで来ている涼羽。

そのそばに、公共施設として置かれているベンチに腰を下ろし…

まるで、その身を自然に委ねるかのように力を抜く。


休みの日の、比較的朝早い時間帯ということもあり…

周囲には自分以外の人間はおらず…

この、ある意味では周囲と隔絶されている空間に自分一人ということ…


それが、涼羽の心に多大な癒しを与えてくれる。


ちなみに、涼羽が残したメモには出かけるとは記しているものの、どこに行くのかは記してはいない。

しかも、涼羽自身この公園のことを周囲に秘密としているため、父も妹も涼羽がここにいるということはまず分からないだろう。


公園自体の存在はこの町の住民として知ってはいても、涼羽がこの公園によく来ることは、涼羽自身が誰にも教えていないのだから。


「空気は澄んでておいしいし…池の水も綺麗で、本当に心が洗われるみたい…」


もともと、建造物などが敷き詰められた場所を好まないため…

こういった自然に囲まれた場所を好む涼羽。


まして、そんな場所に一人でいられるということが、涼羽の心に安らぎを与えてくれるのだ。

だから、涼羽はこの公園が心底大好きで…

常日頃から、というわけにはいかないが、こうして時間に余裕があったり、一人になりたくなった時にはこうして、この公園に姿を現すのだ。


今の涼羽の顔は、本当に癒されているということが分かるほどに…

普段見せることのない、満面の笑顔になっている。


「さあ、ちょっとこの公園の中を歩き回ってこよっと」


ベンチから腰を上げると、弁当などが入ったバッグを肩にかける。

そして、その緩やかな時の流れを思わせるかのようなゆっくりとしたテンポで、公園の中を歩き始める。


その一歩一歩が愛おしい、と言わんばかりの、天使のような笑顔で。


「あ、ゴミ落ちてる」


条例として厳正に取り締まり、厳正に管理しているといっても…

やはり、こういう感じで道端にゴミが捨てられていることもあるのだ。


もちろん、その絶対数は非常に少ないが…

やはり、完全に防ぐことはできない、と言える状態なのだ。


この公園を愛する人間から見れば、非常に残念と言えるのだが。


今も、涼羽が歩いているその先に、明らかにポイ捨てされたであろうパンの空袋が落ちている。


「こんなに綺麗な公園なのに…こんなことして汚くするなんて、だめだよね」


躊躇うことなく目の前のゴミを拾い、すぐそばにあるゴミ箱へとそのゴミを投下する涼羽。


この公園によく来る人々は、この美しい公園が汚されることを非常に嫌っているため…

自分で出したゴミは自分で処分するし、人が捨てたゴミも、目に付けば即座に処分する。

この公園を管理、運営している公共の組織だけでなく、この公園を愛している住民達のこうした努力もあるからこそ、この公園はこの美しい姿を保つことが出来ているのだ。


そして、涼羽もその一人であり、こうして歩きながらも目に付くゴミは必ず拾って処理している。


もともと掃除が好きで、普段から自宅の掃除をしていることもあり、目ざとく見つけては処理しているのだ。


「うん。他にはないかな」


周辺を見渡し、ゴミがないことを確認すると、またその足を動かし、この自然に満ち溢れた公園内を堪能するように歩き出す。


この時間が本当に愛おしく思えるのか…

涼羽の顔から、笑顔が絶えることなく…

その嬉しそうで、幸せそうな雰囲気が消えることなく、公園内を歩き続けている。


そんな時だった。




「あ!おねえちゃんだ!」




涼羽にとって、聞き覚えのある幼い声がその耳に聞こえてきたのは。


「ん?」


その声のした方へと顔を向ける涼羽。

そこには、ピンク色のトレーナーと紺のオーバーオールに身を包んだ、可愛らしい顔立ちの幼い少女がいた。


自分にとって、大好きで大好きでたまらない存在に会えた嬉しさを笑顔としてその顔に貼り付けて。


「おねえちゃあ~ん!」


そして、その幼く小さい身体を目いっぱい動かして、大好きなお姉ちゃんの元へと走っていく。


「あ。かなちゃん」


その声の主の姿を確認した涼羽の顔に、優しげな笑顔が浮かぶ。

そう、声の主は自分の学校の音楽担当の教師である四之宮 水蓮の一人娘である香奈だったのだ。


とある出来事から涼羽に非常に懐くようになり、今では涼羽のことが大好きで大好きでたまらない…


そして、その想いをその小さな身体全てを使って表すかのように、涼羽の華奢な身体目掛けて飛び込んでくる。

そんな香奈を、衝撃のないように優しく受け止める涼羽。


「えへへ~♪おねえちゃ~ん♪」


大好きで大好きでたまらないお姉ちゃんにべったりと抱きつき…

その胸に顔を埋めて、幸せそうな笑顔を惜しげもなく晒しながら…

ひたすらに、涼羽に甘える香奈。


鈴の鳴るような可愛らしい声が、静けさに満ちた周囲に響き渡る。


「かなちゃん、おはよう」

「おはよう!おねえちゃん!」

「うん。ちゃんと挨拶できて、かなちゃんはいい子だね」

「えへへ~♪」


自分の胸の中でべったりと甘えてくる香奈に挨拶する涼羽。

そして、その挨拶に元気よく挨拶を返す香奈。


そんな香奈が可愛くて、いい子いい子と褒めながら、優しく頭を撫でる涼羽。

そんな涼羽の撫で撫でが嬉しくて、その天使のような笑顔をさらに綻ばせて喜ぶ香奈。


「かなちゃんも、この公園に来てたんだ?」

「うん!かな、このこうえんすきなの!」

「そっか。かなちゃんもこの公園好きなんだ」

「!おねえちゃんも、このこうえんすき?」

「うん。大好き」

「!えへへ♪かなといっしょ♪うれしい♪」


香奈が大好きな、慈愛に満ちた涼羽の笑顔。

そんな笑顔で、自分と同じようにこの公園が好き、と言ってくれたことが嬉しくて…

香奈の笑顔が、さらに綻んでしまう。


そして、もっと涼羽の胸に甘えるように頬ずりをしてしまう。


そんな香奈が可愛くてたまらないのか…

涼羽も、優しく、それでいてしっかりと香奈の小さな身体を抱きしめると…

優しく、その小さな頭を撫で続ける。


「おねえちゃん、きょうはなんでおはなのぴんで、かみのけとめてないの?」

「!あ、あれは…今日は忘れちゃって…」


そんな優しい涼羽の顔をふと見た香奈から、純粋な疑問。

以前と違って、涼羽の前髪が、あのヘアピンで留められておらず…

せっかくの可愛らしい顔が、野暮ったく隠されてしまっていること。


もともとの涼羽は、この状態が標準だったのだが…

香奈が涼羽と初めて会ったのは、クラスメイトである美鈴に無理やり女装させられて、あのヘアピンでその野暮ったい前髪も留めて、その顔を露わにしていた時。


だから、香奈としては、その状態が標準という認識になってしまっているのだ。


この日は自分的にはあまり好ましくないヘアピンをせずに出てきた涼羽。

その涼羽の姿が、香奈から見ればおかしいと思えてしまうのだ。


だから、子供ながらに気になってしまった。

加えて――――


「おねえちゃん、せっかくのかわいいおかお、かくしちゃだめ」


香奈自身が非常にお気に入りである、涼羽の美少女顔。

それが、その野暮ったい前髪で覆われて、よく見えない状態。

それが、香奈にとっては残念でたまらないのだ。


だから、その顔をちゃんと見えるようにして欲しい。


そんな、純粋な香奈の想い。

純真無垢な想いを込めた視線が、涼羽に突き刺さる。


「え…で、でも今は…」


とはいえ、この日はヘアピンなど、するつもりもなかったため、涼羽の手元には何もない状態なのだ。


「おねえちゃんのかわいいおかお、い~っぱいみたいの」


だからといって、香奈の純粋な想いからなる追求が止まることはなく…

涼羽の胸の中から、じっとおねだりをするように上目使いで見つめてくる。


「ご、ごめんね。今日はヘアピン持ってないの。だから…」


そんな純真無垢な幼子の願い…

だが、今手元にそれができるものがない以上は、どうすることもできない。

どうにか、言い聞かせようとしどろもどろになりながらも言い訳をする涼羽なのだが…


「だめなの。おねえちゃんは、そのかわいいおかおをちゃんとみせてくれないと、やなの」


そんな涼羽の言い訳など、許すつもりもない香奈の、ピシャリとした一言。

香奈が大好きで大好きでたまらない、とっても可愛くて綺麗なお姉ちゃん。


そのお姉ちゃんの、可愛い美少女顔。

それを、ちゃんと見せないとだめ。


こんなにも可愛いんだから、見せてくれないなんて、いや。


まさに、香奈はそう言っているのだ。


「え…えっと…」


どうしよう。

どうしよう。


こんなことなら、ヘアピン持ってくるべきだった。


という思考に陥るあたり、涼羽が本当に優しいということが分かるのだが…

後悔、先に立たず。

こんなにも甘えて、すがってくる香奈に悲しい顔をさせたくない。

でも、どうしよう。


まさに、涼羽が思考を巡らせて困り果てているその時だった。




「ああ~、やっと見つけたわ~」




その、年輪の多さを感じさせる、落ち着いた声が聞こえてきたのは。


その声の主は、初老の女性だった。

顔には、その老いを感じさせる皺が細かに刻まれてはいるものの…

その顔立ちそのものは整っており…

若い頃は、確かな美人であったと言えるものである。

実際、今でも十分に美人だと言えるものである。


背丈は成人女性のほぼ平均。

髪は、染めているのか、自然なのかは別にして、黒々とした艶のよさを保っている。

年齢相応の落ち着いた、ベージュのストールにカーディガン、膝より下の丈のロングスカートという装いだ。


「あ!おばあちゃん!」


涼羽の腕に抱かれたまま、首だけを声の方に向けた香奈の、彼女に対する呼び名。

それが、彼女と香奈の関係を表すものとなった。


「え?この人が、かなちゃんのおばあちゃんなの?」

「うん!」


この初老の女性は、四之宮 永蓮(しのみや えいれん)。

今ここにいる、水神 香奈の母方の祖母にあたる人物であり…

この香奈の母親である、四之宮 水蓮の実の母にあたる人物だ。


「あらあら、すみませんね。孫娘が…」


目の前にいる孫娘が自身の見知らぬ人物にべったりと抱きついている様子を見て、慌てて引き取ろうとするも…

香奈の人見知りを知っている人物からすれば、異常ともいえる光景に、その言葉が止まる。


「(…そういえば、水蓮が言ってたわね。あの人見知りの香奈が、ものすごく懐いている子がいるって)」


つい最近、その人物に会いたいとだだを捏ねた孫娘を、娘が教師として就業している高校に連れて行ったことを思い出す。

その翌日、会いに行った孫娘の、本当に幸せそうな笑顔。




――――おねえちゃん、す~っごくやさしくて、す~っごくかわいいの――――




下手をすれば、実の両親よりも懐いているのではないかと思えるほど。

そういって、娘である水蓮がヤキモチを焼いた風な言葉を出していた。


もしかして、この子なのだろうか。


そう思い、それを確認してみることにした。


「…ねえ、香奈」

「?なあに?おばあちゃん?」

「香奈が言ってた『おねえちゃん』って、もしかしてこの子のこと?」

「!うん!そうなの!」


確認の為に聞いてみた孫娘の反応は、非常に分かりやすいものだった。

現に、今この時においても、香奈は目の前の子の身体にべったりと抱きついて離れようとしない。


やっぱり、この子なんだ。

可愛い孫娘が、これでもかと言うほどに懐いている子というのは。


しかし、身体つきは確かに女の子のようだし、背丈も女子として違和感のないもの。

それに、艶のいい、背中まで真っ直ぐに伸びた和風美人を印象付ける黒髪。


だが、その幼い造りであろう顔を隠すその前髪。

それが、聞いていた印象とは遠い印象を受けてしまう。

それに、非常に女の子っぽい身体つきではあるが…


この子は、男の子ではないのだろうか。


すでに孫娘もいる身であり、人よりもそれなりに長い年月を生きている永蓮。

その年月の間に、多くの人と出会い、多くの人を見てきたその目。

その目が、そういう認識を彼女に与えてしまう。


だが、孫娘である香奈は、この子のことを『おねえちゃん』と呼んでいる。


それは、どういうことなのだろうか。

そんな、疑問に満ちた思考に陥っているところに、声がかかる。


「あ!おばあちゃん!おねがいがあるの!」


他でもない、孫娘の香奈から。

その声に、ハッとしながらも、落ち着いて答えようとする永蓮。


「え?な、何かしら?お願いって」

「かみのけとめるぴん、おばあちゃん、もってる?」

「髪の毛を留める…ああ、ヘアピンね。ええ、持ってるけど、それが?」

「ふたつ、ある?」

「二つ?…ええ、あるわよ」

「!ありがとう!おばあちゃん!」


一つ一つ投げかけられる孫娘の問いに、一つ一つ答える永蓮。

その祖母の答え…

自分が期待していた答えが出てきたことに、満面の笑顔を浮かべる香奈。


「これで、いいの?」


そして、孫娘の望むもの――――シンプルなデザインのヘアピン二つ――――を、手に持っていた手提げバッグから取り出し、それを香奈に渡す。


「うん!ありがとう!」


そして、それをどうするのかを見ていると…


「はい!おねえちゃん!」

「え?」

「これで、おねえちゃんのかわいいおかお、みせて?」


天真爛漫な笑顔で、涼羽にお願いをする香奈。

そんな香奈に、抗う理由も、言い訳をする必要もなく…

ただ、そんな可愛らしい香奈の言うことを聞いてあげたくて…


「……はいはい」


その慈愛に満ちた雰囲気、そして笑顔。

それをそのままに、一度香奈を自分の足元に降ろすと…


香奈の小さく可愛らしい手に握られたヘアピンを手に取り、一度永蓮の方へと顔を向ける。


「あ、すみません。これ…お借りしますね?」


柔らかで、丁寧な言葉使い。

そして、耳当たりのいい、ソプラノな声。


まだ声変わりの済んでいない少年なのだろうか?

でも、この子は高校に通っているはず…

その年頃の男の子で、こんな可愛い声なんて…


そんな目まぐるしく疑問に襲われる思考をどうにか抑え…


「え、ええ。どうぞ」


どうにか、当たり障りのない返事を返す。


「ありがとうございます。かなちゃん、ちょっと待っててね」

「うん!」


そうして、自分の顔の左側にある分け目に合わせて、その顔を覆うカーテンのような前髪を左右に開いていく。

そして、その開いた髪を、二つあるヘアピンでそれぞれ、留めていく。


「どうかな?かなちゃん、おかしくない?」

「だいじょうぶ!す~っごくかわいい!」

「そ、そう…ありがとう」


小さい香奈に目線を合わせるようにしゃがみこみ、開いた前髪から見える、顔の左半分を見せる。

裏表のない、まっすぐな香奈の反応に、思わず苦笑いを出してしまう。


ちなみに、今の永蓮の位置からは涼羽の顔の右半分しか見えていないため、その素顔を見るまでに至っていない。


「(一体…どんな顔してるのかしら?)」


さすがにここまで来れば、その野暮ったい前髪の下に隠された涼羽の素顔が気になってしまう。

だからといって、自分から覗き込むのもはしたなく思えてしまう。


どうにかならないか、と思っている矢先に、その興味の対象である涼羽の顔が、自分の方へと振り向いていく。

そして、開かれたカーテンの下に隠されていたその顔を見て、思わずほうっと溜息をついてしまう。


「あらあら…本当に可愛らしい顔…」


到底、男だとは思えないその美少女顔。

どう見ても女の子な涼羽の顔を見て、思わず声が漏れてしまう。


「えへへ~♪おねえちゃんかわい~♪」

「あ、はは…」


そして、嬉しそうな顔でべったりと涼羽に抱きついてくる香奈。

苦笑いしながらも、膝をついた状態でしっかりと香奈を抱きしめる涼羽。


まるで歳の離れた姉妹のような…

そのほんわかとしたやりとりに、永蓮はしばし、心を奪われることとなった。

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