第15話 涼羽ちゃん可愛すぎ~

「さて、と」


何やらいろいろとあった玄関から場所は変わり。

今時の組み込み式となる『システムキッチン』などとはかけ離れた…

必要な物が、必要なところに置いてある『台所』といった方がしっくりとくる空間(スペース)。


ごく普通のステンレス製の流し。

そこから向かって右側に必要な物を置くキャビネットがあり。

その上には、家族用としてそれなりの量を炊くことのできる、オーソドックスな電気式の炊飯器。

そのさらに右側には、これまた昔懐かしの、二口&グリルのあるガスコンロ。


そこから反対側の壁際に向かい合わせるように、食器棚と、必要な物を保管する背の低いキャビネット。

背が低く、それでいて横に広いキャビネットの上に、電子レンジとオーブンが置かれている。


電子レンジはやはりこの家のイメージに相応しい、必要最低限の機能のもの。

オーブンも、同じように必要最低限の機能の、今時としては古いもの。


この空間の奥、ちょうど二つの並びの中間に位置するところに、2ドアの冷蔵庫が置かれている。


横長の長方形の空間に、面の広い部分に物を置き、その並びで挟み込むような配置を取っている。


流しのある側に窓と換気扇があり、空気の入れ替えなどはここから行う形になる。


出入り口はその反対側の面にあり、そこはリビングとつながっている。


今、この空間にいるのは二人。


一人は、この家の住人で、この台所を自身の庭としている涼羽。

もう一人は、その涼羽に料理を教わらんが為にこの場所にいる美鈴。


二人共、制服であるブレザーを脱ぎ、上半身は真っ白なブラウスのみになった状態で、エプロンを着用している。


涼羽は、普段から使っている胸まで覆うタイプで、無地に優しい感じの淡い緑のエプロン。

美鈴は、同じく無地の胸まで覆うタイプで、ほんのりとした桃色のエプロンだ。


ちなみに、涼羽は伸び気味の髪をヘアゴムで一つに束ねている。

そのおかげで、涼羽の白く細いうなじが丸見えになっており、そこからなぜか妙な色気をかもし出している。


「じゃあ、始めるけど…って、どうしたの?柊さん?」


いざ、ここから今日の夕食の準備を始めようとした涼羽が、ふと美鈴に問いかける。


なぜなら、美鈴の視線が涼羽の方――――正確には、涼羽のエプロンの帯に締められた腰の方――――に集中していたからだ。


「…………」

「?柊さん?」

「やっぱり…」

「やっぱり?何が?」


一人ごちるように声を出しながらも、決して視線は動かない。

一体彼女が自分の何に視線を集中させているのか。

一体何がやっぱりなのか。


涼羽にはさっぱり分からなかった。


分からなかったが、この直後、否応なしに分からされることとなる。


なぜなら――――




「!!ひゃあっ!!」




――――美鈴の手が、涼羽のその細い腰を鷲掴みにしてきたからだ。


まさに不意打ちと言える美鈴の行動に、涼羽の口から思わず甲高い声が漏れ出てしまう。

普段は意識して低くしているが、自然にしているとどうしても少女然としたソプラノになってしまう涼羽の声。


それが、さらに甲高く飛び出てしまっている。


そんな涼羽の声、そして反応に、仕掛けた美鈴の方が驚いてしまう。


「わあ…」


自分の出してしまった声、そして思わず素でしてしまった反応。

それらが涼羽の羞恥を際限なく煽り続ける。


羞恥を煽られてどうしようもない涼羽の可愛らしい顔が、朱に染まってしまう。


そんな涼羽を見て、思わずといった感嘆の声が、美鈴の口から音となって台所に響く。


「~~~~~………」


不意を突かれたとはいえ、自分としては絶対に見せたくない反応を見せてしまったのだ。

普段から抱きついたりしてくる羽月に対しては、これほどの反応を見せることはそうそうないのだが…


それでも、もともとが人に触れられることを極端に嫌う理由として、涼羽の身体そのものが非常に敏感というのがあるからだ。


しかも、他の人なら特になんでもないような部分さえ、思わず声をあげてしまうほど。


そして、涼羽にとって腰は非常に敏感な部分のひとつ。


そこをいきなり触れられたりなんかしたら…

どうしてもこんな反応になってしまうため、触れられることそのものを嫌うようになってしまったのだ。


そんな、自分にとって絶対に見せたくない部分を見せてしまった涼羽。

もはや恥ずかしさに身体を縛られ、その羞恥に染まった顔を伏せて少しでも見えなくするくらいしかできなくなってしまうのだ。


「わ~…涼羽ちゃんったら、ほんとに可愛い~…」

「!!~~~~~~~~………」


涼羽のそんな反応が、美鈴にはあまりにも可愛く見えてしまっている。

実際、男とは思えないほど可愛らしい容姿をしているのだ。


学校での無機質、無表情で人を寄せ付けない刃のような雰囲気がそれを覆い隠していたのだが…


今は、そんな涼羽の自衛のための防護壁(メッキ)が全て剥がされてしまっている。

そのため、その美少女然とした容姿、そしてその可愛らしさが全面に押し出されてしまっている状態だ。


普段の学校での涼羽を知っているため、今の涼羽と比べると天と地ほどのギャップを感じてしまう。


そして、そのギャップが恐ろしい破壊力を秘めている。


美鈴がまた、涼羽の可愛らしい部分を知ってしまうこととなる。


そして、自分が鷲掴みにした、目の前の羞恥に打ち震えているクラスメイトの腰についても…


「そう!涼羽ちゃんの腰!なにこれ!びっくりするくらい細いよ!」


そう、一言でいうと本当に細い涼羽の腰。

それも、ただ細いだけではなく…


「しかも、ただ細いんじゃないし!しっかりと柔らかい感じがして、でも摘めそうもなくて!しかも、男の子なのに、くびれてるよ絶対これ!」


そう。

いくら細くても、所詮男の腰は、真っ直ぐにすとんとした細さなのだ。

だから、男の体で極端に細い腰は、むしろ不健康だったり痩せ過ぎた感じがして、いい印象がしないのだ。


しかし、涼羽の腰は違う。

ぶっちゃけると、女の子の腰なのだ。


ほどよい肉付きをしつつも、決して無駄がない。

しかも、ただ真っ直ぐに細いのではなく、くびれている。


性別は確実に男なはずの涼羽なのだが、その顔や声も含め、体つきはなぜか全く男とはいえない状態となっている。


しかも、下手をすれば本物の女子である美鈴よりも細いのだ。

美鈴が思わず涼羽の腰に手を伸ばしたり、触った後声をあげてしまうのも無理もないことだった。


「……し、知らないよ…そんなの……」


一人で勝手にヒートアップしつつある美鈴に対し、ようやく涼羽は言葉を返す。

若干恨みがましい、睨みつけるような目つきで。


しかし、頬は羞恥という名の朱に染まり…

眼光鋭く睨みつけているつもりなのだが、実際には少し潤んでおり…

自分の体を抱きこむようにし、外敵から護るような仕草…


どう見ても、頂かれる直前の儚い抵抗の姿にしか見えない、という。


そんな涼羽の姿は、美鈴にとっては…

いや、誰が見てももうたまらないくらい可愛いものとなっている。


「~~~~~~~~も、もう!!可愛い!!超可愛い!!」


ついに我慢ができなくなった美鈴が、涼羽を独占するかのように抱きしめる。

これまでの学校でのイメージが強い分…

今の涼羽とのギャップがより、彼の可愛らしさを引き立てるものとなってしまっている。


「!!ひゃっ!!…ちょ、柊さん…また…」

「涼羽ちゃんってば、ほんとに可愛すぎ!!可愛すぎて許せない!!」


そんなギャップも含めて、破壊力抜群なその可愛らしさに、もう美鈴は完全にやられてしまっている。

その犯罪的な可愛らしさを自分だけのものにしたい。


まさにそんな意思表示をするかのように、涼羽の華奢な身体をその脇の下から自分の両腕を潜り込ませ、ぎゅうっと抱きしめる。

そして、その幼げな頬に自分の頬を擦り付けていく。


「ひ、柊さん…は、離して…」

「うわあ~、涼羽ちゃんのほっぺ、す~っごくすべすべで柔らかくて気持ちいい~♪」

「や、やめ…!!ひっ!!…」

「それに、お尻も男の子なのに大きめでむっちりな感じ…すご~い!」


抱きしめた涼羽自身をとことんまで味わうかのようにまさぐり続ける美鈴。

人に触れられるのが非常に苦手な涼羽は、美鈴の手や頬が自分の身体をまさぐる度に、びくんびくんと、その身体を震わせてしまっている。


男である自分の身体を、まるで同性に触れるように興味津々に触れてくる美鈴に羞恥を煽られ、恥ずかしさに満ち溢れた表情を隠せない涼羽。

異性である涼羽の身体を、まるで同性に触れるように、興味津々に触れる美鈴。


花をも恥らう美少女と言っても過言ではない今の涼羽。

好奇心に満ち溢れた天真爛漫な笑顔の美少女の美鈴。


そんな二人がこうしていちゃついている様子は、まさに美少女達がゆりゆりしているようにしか見えないだろう。


「ひ、柊さん…お願いだから…」

「えへへ~♪涼羽ちゃんったら可愛すぎ♪もう、食べちゃいたくなっちゃう♪」


いやいやをしながら離れようとする涼羽を、そうはさせないと言わんばかりに抱きしめて離さない美鈴。

そして、そんな涼羽のすべすべで柔らかな頬に、ついばむかのように唇で触れる。


「!!~~~~~~~ひ、柊さん!!それはだめ!!だめだから!!」

「ん、んっ。涼羽ちゃんのほっぺ、おいし~い♪」

「ほ、ほら!!早く料理始めよう!!柊さんが大好きな!!」

「うん。でも、その前にも~っと大好きな涼羽ちゃんをい~っぱい食べたいな~♪」


このままではまずい。

非常にまずい。


背筋に感じる、自分を狙う肉食獣が迫る感覚。

その感覚が、涼羽にそう伝えている。


その感覚に従い、脳が身体に危険を伝え、行動を起こさせようとする。

しかし、それよりも早く、美鈴の行動が涼羽の身体を無力化する。




――――美鈴の口が、涼羽の左耳を覆い、甘く噛むという行動が――――




「!!ひっ!!」

「ん~、あむ…」


文字通り捕食される形になった涼羽の身体が、飛び上がるかのようにびくんと震え上がる。

そんな涼羽の身体を抑え込むかのように強く抱きしめ、極上の料理を味わうかのように甘噛みを続ける。


「や、やっ…やめ…」


ぞくぞくと、背筋を震わせる感覚から逃れようとするも、すでに身体に力が入らず、どうすることもできない。

逃れることができなくなっている涼羽を、思う存分といった感じで味わい続ける美鈴。


「ん~、はあ…涼羽ちゃん可愛すぎ~♪それに、おいしすぎるよ~♪」


そっと涼羽の耳を甘噛みから解放すると、耳元に息を吹きかけるように囁く美鈴。

そんな美鈴の行為に、またしても涼羽の身体が震える。


「!!ふあっ…や、やめてぇ…」

「や~♪涼羽ちゃんが可愛すぎるのがいけないの~。だから、もっともっと涼羽ちゃんのこと、はむはむしたいの~」

「や、やらぁ…」


どう見ても男女の配置が逆転しているであろう光景。

それどころか、美少女同士の甘く背徳的なやりとりにしか見えないであろう光景。


どこか幼児退行した感じで、しかし表情は恍惚に色づいている美鈴の捕食は、涼羽が耐え切れずに膝を崩して座り込んでしまうまで、続くこととなった。

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