戯れ事と思う人
「そんな嬢ちゃんが相手とはな、ワシも耄碌扱いされたもんだ」
ワシは剣の天才として名を馳せていた。
若いころは一騎当万、戦場不敗と恐れられ、幾度も強い相手を倒し続け、剣の高みを目指していた。
しかし、幾千、幾万、幾億と剣を交えて研ぎ澄ませておった。
そうして、幾十年にもかかって研鑽につぐ研鑽によって"極地"に至った時に、まるで何物も手に取って理解するという、そんな極意ともいえる境地。
それはまるで、この世界と一つになれた様な心地よいものでもあったが、それとも、自分だけの世界というものとでもいうのか・・・
いつしか、そんな極地に入る事すら容易くなると、剣の頂きという物がとても小さく感じてしまっておった。
そう思えてからは、どんな相手を相手にしようとも、目を瞑ってすら相手が何をしようかすらわかり、あとはソレをどうするかの為に、剣を添えるのみだった。
たったそれだけで、決着はいともたやすくついてしまうものになってしまった。
その頃からじゃろうか、剣の天才として"剣才"、または"剣神"や"剣聖"など、色々と呼ばれる様になったが、
つまらん。
本当につまらんと思った。
弟子をとり、育てるという事もやってはみたが、ワシの頂きにとどく者がてんで現れる気配が無かった。
やれ剣の才能が、やれこの者は、と、自称他称される輩もおったが、それらも全く話にならんものだった。
やはり、つまらん。
このワシと命を賭けて殺し合いをしくれる者はこの世にはもうおらんのか?
剣の頂は、この程度のものなのか?
今もつまらない食客としての細事をこなすだけである。
目の前に対峙している小娘もしかり。いや、見た目はデカいから大娘といったところか?
この大娘も、剣の腕には自身があるようだが、その立ち振る舞いからは何も感じない、ただ強いと回りがはやし立てるだけの大娘といったところだろう。
邪魔する者は排除しても良いといわれとったが、こんな大娘の命を取らなければならないと思うと、少し不憫じゃろうとは思ったが、これも殺し合いとするならば致しかたない。
せめてもの慈悲、痛みも無く逝かせてやろうぞ・・・
その大娘は、ワシに対して走ってくる事もなく、ただただ歩いてきおった。
ほぅ、ワシの極地という世界の中で、大娘は臆する事も無く普通に歩いてくるとは対したものだ。
観念したのか?それとも何か策があるのか?それともただたんに馬鹿なのか?
そう思えたワシ自身、少し期待を持った。そう持ったが故に驚いた。
大娘が極地の間から消えた。
そう、消えたのだ。
極地を使える様になってからは、一度としてなかった経験である。
そう認識した矢先に、ワシの胴に"痛み"が走った
ぬぉ!?なんじゃ!?何がおこった!?
飛ばされながらも、とうとう耄碌したものか?と感覚を研ぎ澄ませるが、やはり、いままでと変わらぬ極地の間そのものであり、そして大娘が先ほどの場所に存在していた。
研鑽をつんでいる最中の若かりし頃には、極地が途中で切れてしまうなどの事もあったが、ここ、ここに至ってからはその様な恰好になる事はなかったのにだ
しかし、目の前の大娘は、こちらに向かって再び歩いてきている
今更ながらに気付いたが、先ほどから大娘は"剣を持っていない"ではないか。
ワシの極地の中、無防備すぎるにも程があるぐらい、殺し合いを行っているというのに、普通に歩いてきている大娘は"剣すら持っていない状況"が異常である
ワシの別の感覚ともいえる"感"が、今度は危険という警鐘を発してくる
極地から咄嗟に肉眼にて意識にしてみた時には、大娘の大剣が目の前に振り下ろされている途中であった。
「んなっ!?」
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