19:大ボリュームのシナリオ

 90年代頃はスキップしたら1時間、2時間程度で終わってしまうフルプライスのエロゲなんてものはザラにあったものだが、最近ではそのくらい長さの作品はロープライスかミドルプライス規模で、フルプライスで売られることは少ない。

 00年代あたりから10時間、長ければ20時間、30時間と遊べる作品が増えてきて、現在でも最低10~15時間くらいのボリュームが基準であり、90年代のように短い作品を出したら、ユーザーに「あまりにも短い」と怒られてしまう。

 作品内容にかかわらず一定以上のボリュームがあることが評価の大きな基準になっているユーザーはとても多く、低ボリュームの作品はたとえシナリオが非常によくても、ゲームシステムが凝りに凝っていても低評価になってしまう。

 高級料理のように、「とても上質な食材を使用し腕の良いシェフが作っているので、少量だけど値段ははります」なんて売り方はできないわけだ。

 質と量を両立しなければ、高評価は得られない。


 だいたい2MBくらいを目安にするメーカーが多いだろうか。

 ライトノベル1冊がだいたい150~200kb程度らしいから、単純計算でエロゲ1作品につきラノベ10冊分くらいのボリュームとなる。

 ラノベ1冊あたりだいたい500円程度だから、文章量のみで考えるとエロゲには5000円程度の価値があることになる。

 そこにCG、背景、BGM、ボイスなどなどもあるから、エロゲ1つ約1万円になってしまうのもなんとなく納得できないだろうか。

 コンシューマーはもっと開発費かかってるのに安い! というのはもっともな指摘だが、エロゲはコンシューマーよりもラノベよりもはるかに市場規模が狭いから、どうしても割高になってしまう。それらと同規模になれば値段も下がる……かもしれない。

 もしかしたらシナリオが増えればコストも増大するという部分にピンと来ていない人もいるかもしれないが、シナリオが増える=セリフが増える=声優に払うギャラが増えるということであり、開発費のかなりの割合を声優へのギャラが占めるといえば、シナリオ量がコスト増大にいかに影響を与えるかをわかってもらえるだろう。

 特に質を重視するために著名な声優に依頼を出すと、1人でン百万とかコストが増大する。大御所を2人、3人と起用すれば……。かの大作『真剣で私に恋しなさい!』が声優へのギャラだけで億単位かかったという逸話も納得できるだろう。


 別に「エロゲの値段は適正だ、だから文句言わずに買え」と言いたいわけではなくて、どうしても高くなってしまう理由があるということを今回は伝えたい。

 質と量の両立は、本来非常に難しい。

 量を増やせばコストも増えるし、質を上げればコストもそれに応じて上がる。しかし一定以上の量がなければユーザーの満足度は下がるし、量を維持するために質を下げれば当然ユーザーから批判される。でも予算には限界があるし……。

 このように、00年代の調子がよかった時期に大ボリュームの作品を作りまくりユーザーに「それが当たり前」という感覚を植え付けてしまったために、今の業界はなかなかにどん詰まりというわけだ。

 2MBものシナリオを1人で書き上げられるライターなんて滅多にいないし、そもそも開発期間に余裕もないから複数ライターにして短期間でシナリオを仕上げてもらうしかない。

 イラストも同様で、100枚規模のCGを1人で、なおかつ決められた期間内に描き上げられる原画家はそうはいない。だから複数に仕事を頼むことになる。

 その結果、ゲームのクオリティコントロールが難しくなり、√ごとのシナリオ、CGの質に差ができてしまう。メインライター・原画家が関わっている√は面白いけどそれ以外は……という感想を抱いたことは、エロゲユーザーなら1度や2度ではないだろう。

 単独ライター、単独原画家の作品は、メーカーが十分な制作期間を設けられているか、あるいはライター、原画家の手が非常に早く、その他のスタッフも有能である場合に限る。

 つまり、余裕か実力のあるメーカーしか無理というわけだ。


 質と量を両立しなければユーザーに満足してもらえないという現状は少なからず業界内で問題視されていて、少しでも負担を減らすためにロープライスやミドルプライスにシフトしているメーカーも出始めている。

 それだけフルプライスの作品を作り上げるのが大変になってきたわけだ。

 特に抜きゲーと呼ばれるエロに特化したジャンルは、1000~2000円程度でクオリティも高いエロ同人というライバルがいるだけに、低価格帯で攻めるケースが多くなってきた。

 多くのメーカーが、質を維持するために量を抑える選択をとり始めている。いつか景気が上向けば大ボリュームの作品も増えてくるのだろうが……しばらくそんな日は来ないようにも思える。

 ロープライス規模の作品を出すとユーザーをがっかりさせてしまうことが多かったりもするのだが、大好きなメーカーがある人はどうか買い支えてあげて欲しい。

 不景気すぎる今、あなたが買う1本が本当に貴重なのだ。

 こちらも感謝を忘れず、手に取るに足る1本を作り上げる努力を続けていきたい。

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