18:所属ライターのお給料

 先日、ふと気になってアクセス数を調べてみると、『シナリオライターになるには/なってから』の話が頭一つ抜けていることに気がついた。

 実は「自分はシナリオライターになれるだろうか」という相談メッセージが何件か届いていて、その都度「目指すのならば応援するよ、けれど金銭的にきついよ。よく考えてね」と答えていたのだが、今回はシナリオライターを目指そうかな、どうしようかなと悩んでいる人のために、その「金銭的にきつい」という部分について、以前書いた『シナリオライターの収入』の内容をさらに掘り下げる形で書き綴ってみようと思う。


 お約束の通り俺が業界に入った当時は景気が良かったという断りから入るわけだが、それでも給料は非常に安かった。

 入社してすぐは試用期間となり、社員ではなくバイト扱いだった。

 給料は確か12万か13万くらいだったと思う。求人には初任給18万と書いてあったのにとがっかりしたのをよく覚えている。

 そして試用期間は3ヶ月と面接で聞いていたのだが、実際は半年だった。俺が無能だからだろうか……と当時は社員になれないことを悩んでいたのだが、なんのことはない。全社員が半年間はバイトで過ごしていたのだ。

 そして試用期間が終わりようやく正社員――とはならず、俺は契約社員になっていた。

 給料から保険料やらなんやらが引かれるようになり、手取りは約10万円になった。

 まあバイト時代も給料からそれらは払っていたわけだから実際のところ収入はあまり変わっていないのだが、ランクアップしたにもかかわらず手取りが12万から10万に減ったことに当時は愕然としたものである。

 そして試用期間が終わったら正社員と嘘をついた社長にも殺意がわいた。

 俺が正社員になれたのは、さらに半年後のことであった。


 どこのメーカーでもたぶん同じだとは思うが、作品が売れるとボーナスが出る。

 しかし試用期間中、そして契約社員の間、俺にはボーナスが出なかった。1年間の間、手取り10万で凌いでいかなければならなかったのだ。

 家賃は5万程度。電気代、ガス代、水道代、携帯代、食費などなど、必要最低限の出費だけで給料は飛んでいき、手元にはほとんど残らない。

 これも正社員になるまでの辛抱だと思っていたのだが……最悪なことにそのときにはエロゲ業界に、そしてうちのメーカーに陰りが見え始めていた。


 給料は手取り15万ほどになり随分と楽になったが、安いことにはかわりない。貯金も十分にできない生活が続いた。

 徐々に売れ行きも怪しくなりボーナスも出なくなった。

 ディレクターとなると通常は給料が上がるはずなのだが、社長が渋ったため「なんで俺だけ安い給料で他のディレクターと同じ仕事をしなければならないんだ」と直談判してようやく2万だけあがった。

 他のディレクターは20万ほどもらっていたようだが、まあ一番下っ端だしと我慢をした。

 賃上げ交渉などを直接するような性格だったから先輩ディレクターは俺を目の敵にしてあんな陰湿なことをしていたのか? とふと思ったが、まあそれは別の話だ。今はやめておこう。


 その後何年かそのメーカーに勤め、それなりの成果を出しもしたが結局給料は上がらず、気づけば「同年代より圧倒的に残業して働いているのに絶望的に給料が低い自分」がいた。

 人間関係にも嫌気がさしていたし、「退職しよう」と決断するのにそれほど時間はかからなかった。

 退職願を出し、特に止められることもなくスムーズに受理され、俺はフリーになった。


 しばらくは少ない貯金をやりくりしながら、使えるツテすべてを使い仕事を得て、なんとか食いつないでいた。

 報酬はすぐには支払われないことが多いので、「やべぇ今月家賃が払えないかも」と本当にギリギリの生活をしていた。

 今では安定して仕事を得ることが出来ているので、どうしても収入のない月は出てきてしまうものの、食うには困らず、貯金も出来て、そして趣味にお金を使う余裕すらある。

 しかしフリーになった直後、俺がヘマをしてメーカーの信頼を得ることができなかったのなら、おそらく今ごろ実家に帰って親に泣きついていたことだろう。

 まさに綱渡りの生活で、ライターを続けられるかどうかの瀬戸際だった。

 フリーというのはいつ仕事を失ってもおかしくない、危うい立場であることを強く認識したものである。


 そういう不安定さが嫌な人はメーカーに所属するべきなのであるが、このご時世、俺が経験した以上のひどい目にあうかもしれない。

 うちの社長は平気で嘘をつき、コストを削減することに必死であった。

 十分な給料を受け取っていたのは古参の社員だけで、下っ端は消耗品だった。

 エロゲ制作のいろはを学びたいのであれば所属すべきとは以前に書いたが、そこまで安くこき使われたらたまらないという人には、やはりフリーをお勧めする。

 もし現在なにかしらの職業についているのならば、辞めずに兼業ライターになるのが金銭面ではもっとも賢い選択だろう。


 エロゲメーカーなんてどこもブラックで、弱小メーカーほど人使いが荒くなる。こちらを人間とも思っていないような対応をされることもある。

 大手メーカーに入らなければボーナスも出ないだろう。20万にも満たない、下手すれば10万程度の給料で、毎日終電間近まで、あるいは泊まり込んで働けるかどうか。

 同僚に恵まれればまだいいが、クソ野郎ばかりだったらどうか。

 精神を病んでしまって退職した仲間もいた。

 俺もよく続いたものだとしみじみ思ってしまう。


 エロゲ業界とはそういう場所だということを、ライターを目指す人たちは知っておいて欲しい。

 エロゲに対して強い情熱を持っている人以外は絶対にやめた方がいい。

 きっと長くは続かないだろうから。

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