カクテルとジャズピアニスト大江千里

 『横浜アニバーサリー』を書く前、たまたま友人に、赤レンガ倉庫内のモーション・ブルー・ヨコハマのライブに誘われました。

 スタート前に食事を済ませておくため、軽くアルコールと、フィッシュ&チップスを。

 鱈が分厚くて、ふっくらとしていて美味しく、かなり食べ応えがあるので、お得です。


 イギリスではファーストフードとして有名ですが、鱈が取れなくなってきていて、フィッシュ&チップスが危機に!?

 イカが取れるそうなので、取って代わってイカリング&チップスになるかも知れないだとか、ニュースで見ました。


 話を戻しますが、おかしなカクテル——いえ、ちょっと趣向を凝らしたカクテルを見付けました。

 モーション・ブルーのオリジナルで、「フュージョン」という。

 ドラゴンボール好きであり、ジャズ・フュージョン好きな私が、これを避けられるはずがありません。

 友人は、特に、私のような理由ではなく、チャレンジャーなので注文したのかと。


 以下、モーション・ブルーのメニューページからの抜粋です。


「生姜の香りにアマレットの甘みを寄り添わせ

 山椒の風味をアクセントに加えた大人の一杯

 くせになる後味が魅力のカクテルです」


 アマレットとは、アンズの核などから抽出したオイルから作られたリキュールで、アーモンドとかアプリコットの香りがします。

 たまに、これを使ったカクテルがあるくらいなので、レア物です。

 生姜も山椒も好きですが、そこにアンズの甘みって……?

 素敵な紹介文でしたが、まったく味の検討がつきません。


 写真を、UPしてもいいのですが……

 ロックスタイルの茶色っぽいカクテルに、きゅうりと生姜の薄切りが、青じそで包んであり、山椒が香る。


 一口飲むと、アマレット・リキュールの、品の良い甘い味に、「そうそう! これこれ!」と、うっとりしました。


 直後、喉がピリピリしました。


 なぜピリピリするのか?

 生姜のせい?


 そして、後味は、青臭い……。きゅうりとか青じその……でしょう。

 身体には、良いカクテルだと思います……。

 ほら、カンパリとか、薬臭い薬草リキュールのカクテルもあるしね。

 あれよりは、飲みやすい……かな……。人によるかな……。


 それぞれは好きなんですが、混合すると、こんなことになってしまうのか。

 混ざり合うというより、それぞれの主張のまま?

 嫌いではない。

 だが、どうせなら、青じそを香菜(シャンツァイ=パクチー)にして、エスニックなカクテルにしてはどうだろうか?

 と、友人と私は、もっと受け付けないであろう血迷った提案をし合っていました。

 (香菜、最近流行っているようですね)


 ですが、この斬新な組み合わせを考えた、モーション・ブルーのバーテンダーさんには、敬意を表したいです。

 甘〜い後に草の味。

 実に衝撃的でした。

 (こんなこと書いたら、誰も試したくなくなるかな……。営業妨害のつもりはありません)


 さて、メインイベントであるモーション・ブルーのライブとは、大江千里さんので。

 友人が昔ファンで。

 私も、曲のアレンジが好きでした。

 アレンジャーの清水信之さんの方のファンで。(千里さんのファンとは違う?)

 正直、彼の声や歌い方が、あまり好きではなかったので……。


 大江千里さんは、47歳でアメリカに渡り、ジャズの学校で勉強し、NYでジャズピアニストとしてデビューしました。

 今でも、アメリカで活動し、CDを制作して、お一人で販売しているらしくて。


 衝撃でした。

 いろいろなミュージシャンがNYに行き、何かを掴んで戻って来ますが、47歳で学校で本格的にジャズを学んだとは!

 年齢は関係ない。

 その事実だけでも、勇気をもらえます!


 聴いた印象は、彼の曲らしい、きれいな和音が奏でられていたなぁ、と。

 あれ? ジャズじゃないの? とも思った部分もありましたが。


 あまりコテコテのジャズという感じではなかったけれど、きっと、誰が聴いても、心地良い感じなのでは?

 小学生くらいのお子さんを連れて来ているお父さんもいました。子供でも、聴きやすかったんじゃないかと思います。

 それと、セッションであっても、ちゃんと曲の構成を考えて、エンディング等はアレンジされていました。


 若い外国人の男性ベーシストと、時々、若い女性ボーカリストが加わり、半分くらいは、彼のソロ(ベース付きの時も)でした。

 後半、彼の昔の曲をメドレーで、ソロで演奏すると、涙している女性がちらほらいました。

 (かなり年配の男性客もいて、彼らが泣いているようなことはなく、逆に楽しそうでしたが。)


 彼の音楽は、泣いていた彼女たちの青春だったのでしょう。

 そう思うと、音楽って、記憶を呼び覚ます力もあるのですね。

 その時考えていたことや感情、場合によっては、匂いや味まで思い出せるかも知れません。


 そんな大江千里さんの本『9番目の音を探して 〜47歳からのニューヨークジャズ留学〜』が、BOOK☆WALKERより出版されています。

 KADOKAWAではないですか!


 まさに、ずっと探し求めていた、こんな本が欲しかったんです!

 『J moon』主人公もNY行くし、それ系のTVがあると録画予約していたのですが、もっと細かいところも知りたかった!

 私の想像で書いて行くには変わりありませんが、確認のためです。




 「9th Note」「13th Note」シリーズを一冊にまとめたそうです。

 ちなみに、この 9th やら 13th というのは、コードに使われる音ですが、いわゆるテンションといって、ジャズではよく使われます。

 ジャズじゃない曲でも、使うと「おっ?」と、お洒落な感じがするので、オススメです。


 帯には、『のだめ』の作者、二ノ宮知子さんが「これはまるで“のだめ”だ(笑)」と書かれています。

 まだ始めの方しか読んでいませんが、私も、そういう印象を受けました。

 更に、帯の言葉を引用すると、

「世界中から集まる才能の中で茫然自失! そこからあきらめず、プライドをかなぐり捨てて這い上がる大江さんの姿に感涙!」

 そうなんです! 泣けます!

 (『のだめ』も泣けます!)


 ポップス界で成功していた彼が、ジャズピアニストへ。

 ポップスからの転向なら、とっつきやすいだろうと思われますが、読んでみると、最初から苦労の連続で。

 ちゃんとした学校なので、クラシックの授業もあるんですね。(選択?)

 ジャズ奏者には、楽譜の苦手な人も読めない人もいますし、コードに慣れていることからすると、初見でバッハやショパンとは、かなりハードル高いと思います。(楽譜を見るだけで楽曲分析して弾くので、曲を理解していないとバレます。)


 ピアノという楽器は、本当に大変で。

 ざっと説明すると、右手の小指はメロディーを奏で、左手の小指はベース音、残りの指は、和音で伴奏となるので、右手では、メロディーを目立たせ、メロディックな表現に専念しながらも、同時に、伴奏部分は別の楽器が担当しているように、しかも、左手と弾き方を揃えて(タッチの強さ、弾き方を変え、どちらの指で弾いているか悟らせず)……となるので、曲の全てをプロデュースして弾くことになるのです。

 つまり、オーケストラだったり、カルテットやトリオだったり、ドラムやベースの入るものであったり……を、1人で演じる、という。 


 弾き語りなら、鍵盤は伴奏に徹するので、まだいいです。(ピアノの面だけでいえば。)

 他の楽器とのセッションやアンサンブルの方が、弾きたいことに専念出来る面では、マシだと言えます。

 なので、千里さんとしては、相当な苦労をしただろうと、検討がつきます。




 拙作『J moon』でも、初期に、主人公奏汰が、初めてジャズを弾いた時に、ベテランミュージシャンから指摘され、ジャズのノリというものが課題になった場面があります。

 ジャズは聴いているととても楽しい音楽ですが、弾いてみようとすると、ノリを掴むのに苦労します。

 また、クラシック出身者にとっては、左手の奏法が全然違い、ベース+和音であることと、良く出て来る 7th で押さえることが多いのが、ネックです。

 1オクターブが、例えば、ドから上(または下)のドまでが8度(8th)なので、それは押さえやすい、というか、それに慣れているため、7度(7th)というのは、それよりも少し幅が狭い押さえ方になるのが、慣れないのです。


 それで、「9番目の音」というのは、 9th のことで、1オクターブ+1音という意味なので、例えば、ドから数えたら、1オクターブ上のド+1音なのでレの音を指します。

 いちいち数えるのも面倒なので、ドならレ=次の音と思っておけばいいです。

 (間に他の音も、もちろん入ります。)


 『J moon』でも、ところどころ簡単に説明はしていて、千里さんの本でも、専門用語は説明がありますが、ちょっとだけ説明しておきました。


 ポップス出身の千里さんが、ポップスで使うコード(和音)に、さらに、テンションを加えたジャズのコードを押さえるところで、まず苦労し、ノリで苦労していたところは、本当に良くわかります。

 学生の頃に覚えてしまえば楽ですが、わかった風であっても、演奏の仕事をするようになってからの方が、より理解出来ることも多いと思います。


 47歳で初めてジャズに挑戦するということは、やはり、かなりハンデがあります。

 技術的には、まだ私が留学した方がマシだったのかも知れない、と思えるほど、読んでいて、始めの方は痛々しかったです。

 ジャズのコードじゃない、ジャズの弾き方じゃない、ジャズがわかっていないと同級生等から厳しい言葉を受けながら、誰しもが、諦めてしまうだろう、そんな状態から這い上がり、デビュー出来たのですから、その苦労は相当なものだったと想像出来ます。


 それがあってのデビューであり、ライブであったのか。(現在は50代)

 ポップミュージシャン時代の彼のコンサートには行ったこともないので、比較は出来ませんが、とても明るく、楽しい、人を楽しませたい、自分も楽しみたいという気持ちと人柄が現れていて、おそらく、そこは変わらないのではないでしょうか。


 そして、始まる前に飲んだカクテル「フュージョン」。

 今思うと、千里さんと被るところもあるのかも知れない。

 NYの学校に行った時、異色な生徒だったのが、青臭い草の香りの部分で。

 彼の演奏が、コテコテのジャズじゃなく、きれいな和音を鳴らしていた彼らしさも健在だった辺りがアマレット。


 混ざり合うというより、それぞれの主張のまま——


 好きな人は好き、受け付けない人は受け付けないかも知れない。


 だけど、そういうのも有り。




 あれ? 計算してなかったのに、うまくまとまった……のかな?




【引用】

『9番目の音を探して 〜47歳からのニューヨークジャズ留学〜』

 BOOK☆WALKER。

 カドカワ・ミニッツブックで連載した「9th Note」「13th Note」シリーズが一冊に。

 電子書籍で、各電子書籍ストアにて配信中。

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