入城行進
何もかもがアルカスの指示通り上手くいった。
最後の切り札、が無ければ成立しない作戦だった。
「まさか、ネゴさんが水属性の魔法使いだったとはねえ」
クンセイが言った。
そう、ネコババの魔法で岩の竜の動きを止めた後、ネゴの魔法により完全に氷化。アルカスの右腰の剣、赤の魔法石の力で高熱を帯びたその剣で首を切り落とした。
もちろん、その前にパトラ姫の矢が、竜の喉を貫き、火炎を吐き出せなくした事があっての成功だ。
しかし、旅のはじまりからの不安要素だった魔法使いが、ここに来て充実してきた。
魔物の森で集めた魔法石のおかげで、二人の魔力が上がった。
クンセイは煙を自由に移動できるようになり、それに火を付け誘爆できるようになった。実演してみたら、かなりの火力だった。煙には何か引火性の成分が含まれているらしい。
バン・ソーコは、擦り傷を治すだけだった治癒力が、多少体力を回復出来るようになった。
そして、ネコババの土属性魔法。これは問題無し。
パトラ姫は矢の強化のみの魔法なので、ここには入れないでおこう。
最後にネゴだ。彼の水属性の魔法は心強い。城の攻略に役立つはずだ。但し、使える回数に制限があるようなので、慎重に検討しよう。
ネゴが何故魔法が使える事を今まで黙っていたのか。気になるがもう構っている余裕がない。
視界に魔王の城が現れた。
一行の緊張が高まる。
「魔王なんか、さっさと倒して帰ろうぜ。な、アルカス」
そう言って、上目使いで微笑むパトラ姫。
口調に色気はないが、その目はやめろ。
みんなが気を使い距離をとって歩いている。その優しさが迷惑だ。
全員が隠れられる位の岩山。
そこに一旦身を潜め、少し休憩をとることになった。
バンの回復魔法で疲労が和らぎ、再び作戦会議となった。ここまではネゴの持つ地図と情報で順調な旅だった。しかし、さすがの彼も城内の事は知らないらしい。
さて、どうしたものか・・・・
「俺が魔王なら、侵入者の体力や魔力を奪う仕掛けを用意するな。城内魔物だらけにする手もあるな」
ネコババが言った。
その可能性は高い。正々堂々と勝負、なんてことはまず無い。となると、最短距離で魔王のいる部屋まで行くのが得策だが、城内の地図が無い。
「勇者一行のスパイ魔法使いから、城内の情報を入手できないのか?」
アルカスがネゴに問う。
「実は二日前にその情報を送る手筈になっていたのですが、連絡がないのです。何かトラブルが発生したのかもしれません」
スパイ行為がバレた、とか。
「ここは夜を待って、城に入るのが妥当じゃねえか。闇にまぎれてよう」
そうだな。今はそれが一番の策かもしれない。
全員がネコババの意見に賛同した。
それまでに体調を万全にしておくことにしよう。
交代で見張りをしながら、夜中まで順番に眠ることにした。
草木も眠る何とか。
そんな時間にアルカス一行は魔王の城に到着した。
「魔王ってさあ、夜寝ないんじゃないの。それに、何か夜の方が強そうだし」
みんなの恐怖心が高まっている時にそれを言うか、バン・ソーコ。
お前、空気読め!
おそらく彼以外の全員がそう思ったに違いない。
城の周りには、地獄まで繋がっていそうな程の深い堀があったが、どの入口にも橋が下ろされていた。
荷物持ち二人を岩山に置いてきて正解だった。
大声出して逃げだしたい気分だ。
怖すぎる。
何処から入ってこようと、お前達に勝ち目はない。そう言っているようだった。
さすがに正面から入る勇気はなかった。
先頭にアルカス。その後ろにパトラ姫とネゴ、クンセイ、バンを固め、最後尾にネコババを。正門から左に四つ目の橋を渡った。
下を見ると闇に飲み込まれる気がしたので、少し上を向いて歩いた。
石畳の城内はひんやりと肌寒く、静かだった。
何処から何が襲ってくるか分からない。とにかくバラバラにならないように、それぞれの位置を確認しながら進んだ。
だんだん歩幅や足運びまで揃ってきた。
まるで軍隊の入場行進だ。いや、ここでは入城行進か。
アルカスが手を上げて一行を止める。
彼が指差す方向を見る。
城の上空。
何かがゆっくり円を描いて飛んでいる。 鳥? ではない。黒いローブを身にまとい、両手に持つのは月夜に光る大きな鎌(カマ)。
実物を見るのは初めてだが、多分あれは死神。本物かどうかは分からない。分からないが、なるべく関わりたくない。
こちらも不安だが、近くの入口から城の内部へ。
そこは長い通路だった。前も後ろも果ては闇で閉ざされている。明り取りの小さな穴から差し込む月の光が、所々床を照らしていた。
「どっちに進む?」
ネコババが聞いた。
「城の中心だとこっちだな。勝手な想像だが、城の主は一番高い所にいる気がする」
全員アルカスの意見に同意する。
一行は城の中心を目指して進んだ。しばらく道なりに、通路には一行の足音だけが響いた。
やがて通路は終わり、広い部屋に出た。
円筒形の天井の高い部屋だ。上の果ては見えない。壁に沿って石の階段が闇に向かって続いている。
登ろう。
アルカスが手だけで合図を送る。
その時だった。
壁に設置された灯蓋(とうがい)に火がつき、辺りが明るくなった。
打ち合わせしたように、ネゴを含む三人の魔法使いを、アルカス、ネコババ、パトラ姫で囲んだ。
緊急時の戦闘体制だ。
さて、何が出てくる?
死神だけは怖いから勘弁して欲しい。
『ようこそ 勇者諸君』
どこからか声がした。
『私は上にいる 遠慮なく登ってきたまえ』
もしこの声の主が魔王だとしたら、恐らくそうなのだろうが、初めて聞く声ではなかった。どこかで聞いた気がする。
そのモヤモヤは、横にいるパトラ姫の様子で晴れた。
そうか!
しかし、何故?
「・・・・お父様?」
そう、この声はまさしく国王。何度も広場の演説で聞いた声だ。
「似ているだけかもしれません」
ネゴが言った。
確かに彼の言う通り、似ているだけかもしれない。そうでないかもしれない。
「そうだよ。国王が魔王なんて、有り得ないぜ」
クンセイの言葉に頷くバン。
「行こう」
アルカスが言った。
自分の目で確かめるしかない。
一行は石の階段を登り始めた。いつ、何が襲ってきてもいいように、警戒は怠らずに登る。
一歩一歩、真実へと近づいていく。
やがて広い通路が表れ、灯蓋の明かりがそちらに続いていた。
全員、顔を見合わせ、意思を確認する。
一行は通路へと足を進めた。
ここは何か特別な場所のようで、壁には様々な模様が彫り込まれていた。文字なのか絵なのか。初めて見るものだった。
ゆらめく炎が不気味な明暗を演出している。
『ようこそ 我が城へ』
目の前の男が言った。手の凝んだ装飾がされた椅子に座っている。
何か言おうとしたパトラ姫を、男の手が制した。
『お前をさらった時は別の姿だったが、これが本来の私だ』
着ている服が違うせいか、少し違う気がする。一行の様子で察したのか、男は笑みを浮かべながら言った。
『私は国王ではない 奴の”弟”だ』
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