断層

作者 あんどおひふみ

6

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★★★ Excellent!!!

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物語の最後でようやく、自分がそうなってしまった原因についてちらりと思いを馳せはするものの、それ以外の時間、自分がそうなってしまいそれが続いている間、「私」という意識存在はこの原因についてほとんど考えない。そうなってしまった原因が「理解しようもない」とわかると、「私」は「晴れて世界へと漂流」し始める。この迷いのなさ、状況をただ楽しむ心というものに、ぼくは魅了された。

そもそもそうなることを、そうなる前から望んでいたのではないかという推測すら成り立ちそうだ。それくらい、実体をもたない者となった後でも生き生きしている。饒舌な語り口は「私」の気分の高揚、すなわち「私」自身そのものの興奮を示している。その場で起きていることを筋道立てて説明できていることが不思議なくらいの興奮だ。非常に抽象的な部分はあるものの、それでも読んでいると何となくわかる。それもまた不思議な現象である。

人の想像力はすごいというのを再発見した思いがする。だが、我々自身、人間という肉体存在一般の助けを借りてしか、それらを介してしか思考できないというのは、当たり前っちゃあ当たり前なのだが、不幸だとも思える。思考自身になれたらとも思うのだが、そうするとそれを表現する媒体がなくなってしまうので、結局何にもならないということになる。これを幸福と思えないところもまた不幸である。するとこの物語は二重の幸福で成り立っているように思う。「私」は思考そのものに昇華したけれども、きちんとそれを表現できる場が備わっているのだから。