第40話 2087年12月23日 午後一 東京都大江戸市 高輪世界復興記念聖堂
横須賀新港より、やや道なりに進む厳重に守り守られる黒塗りの公用車ルノー製車両一群、そして復興未だ入口の大江戸市に分け入り、高輪の丘の上の聖堂をへと徐行しながらも
そしていよいよ、丘の先の高輪世界復興記念聖堂前に横付けされる称号も所属名も目隠しテープに貼られたルノー製の海外仕様の4トントラック、各黒塗りの公用車ルノー製車両から軽やかに居出る黒スーツの一団が、4トントラック周辺に集い厳重にも囲う
その4トントラックの強力リフト音が唸り、ただトランクルームより厳重なる搬送にて、慎重に運び降ろされる低温治療カプセルとコンソールと電源部のオールユニット
視線を最大限に配慮する厳かな黒スーツに赤と黄色のストライプネクタイのスペイン近衛騎士団、それに倣う黒スーツの階上と久住が、共に野次馬がいないか念の為に警戒しながらも伺う
嘉織、低温治療カプセルに一瞥するも
「オールユニット、こんな大袈裟にもか、いや、それでも電源持つかな、もし宗家いなかったらどうしよう、」
オールユニットのコンソール部席の黒スーツ黒ロングスカートの渋谷、尚もコンソールを慎重に見つめながら
「電源は大丈夫、サンタ・ピアドソ号のエレクトロン砲の予備電源から、抜いて来たわ、」
嘉織、あんぐりと見つめ
「これがそのブラックボックス、こんなハイブリッド見た事無いよ、本当でかいな、」
渋谷、はきと
「そうね、順調ならクリスマスの深夜越えまで間に合うわ、」
嘉織、ふと宙を見上げるも
「とは言え、寂れた低陸橋只管回避しての横須賀新港からこの高輪までで2時間だよ、道なり知ってると言え長かったよ、さてか、」
久住、無形の位のままに
「嘉織さん、それ、宗家いなくて帰る前提になっていませんか、ここは白鴎さんと永遠さん連れて来るべきでしたよね、」
嘉織、凛と
「いや久住、宗家捕縛は一切無しだ、永遠だと全力で陰陽術使って、掛かる事態に干渉しかねない、それと、白鴎は私が散々愚痴ってるから、宗家もお怒りだよ、謁見しなくて結構、」
久住、うんざり顔で
「宗家にも苦手あるのですね、頼りになるお二方が選りに選ってですか、そうですか、宗家のご機嫌損ねたら、二度目は無いのですよね、」
嘉織、くしゃりと
「いざそれ言われるとね、宗家一度目も厳しくもあるけど、そこはやや成り行きに任せつつの、そう、深作にも主戦場の道南海域に向ってくれとは言ったけど、どうしても見透かされるし、そしてだよな、乗り上げの祈念会だって横須賀新港でバルセロナ・グラン・コメドールにどんどん皆集まって来ては溢れ返ってさ、深作の熱い訓示と、皆から奇跡をお祈りしますのを切に祈られたら、全然隠密行動のやんわりさじゃないだろ、本当にさ、私でもつい泣いちゃったよ、」ただ鼻をぐずる
渋谷、ゆっくり頷き
「階上さん、サンタ・ピアドソ号の停泊は、純ちゃんの万が一もの事態です、それに海戦に向った所で、エレクトロン砲の艦砲射撃が少なかったら、参戦する向きも有りませんからね、」
嘉織、ただオールユニットを悠然と眺め終え
「何と言うべきか、このオールユニットの呆れる程の設備、それさ、聖堂のコンセントから引き込めないものなの、」
渋谷、はきと
「嘉織さんなら、大江戸市の貧弱過ぎるインフラご存知ですよね、過電供給で地区の配電所が間違いなく発火しますよ、配電所丸ごとパーツ、この日本国の御時世で、どこから仕入れるのですか、」
嘉織、さてもお手上げに
「ああ、そうだよ、この大江戸市、全く修繕の目処無しだね、本当凄いよ、低温治療カプセルのそれさ、」
久住、丁寧に荘厳な高輪世界復興記念聖堂を見渡しては
「嘉織さん、一連のお話、純ちゃんが眠ったままの前提ですよ、」
嘉織、自らの両目を指差しては、皆に注視と
「分かってるって、」厳かな聖堂を右手で指し、左手で皆を隈無く仰ぐ「良いな、ケーブルに絡まるなよ、慎重にだ、」
スペイン人で構成されるスペイン近衛騎士団一同、はきと
「Sí señor.」
低温治療カプセルと連なるオールユニット、高輪世界復興記念聖堂の回廊に電子ローラー音が図らずも響き渡り
遠くからのローファーの駆け抜ける音が近くなり、祈祷中にも堪らず飛び出て来る紺色の修道着のシスター唯子
「何事です、この集団は、何処のカチ込みですか、まず私が…、」どうしても視線が中央の女性へと「えっつ、その黒スーツ、身なりは良いですけど、階上さんかな、」ただ首を振り切り「いえいえ、これはどうしたのですか、明日はミサです、今度は一体何を持ち込んでるんですか、」
嘉織、さもご機嫌にも
「ほほう、この新調いけてるかな、そうシスター唯子、階上嘉織だよ、顔馴染みなら結構だよね、宗家、いるんでしょう、まずそこだから、」
シスター唯子、スモークガラス膜でシールドされた巨大カプセルを窺っては、ただ息を飲み
「これはまさか、あの、低温治療カプセルなのですか、持ち出せるものなのですか、階上さん、よろしいですか、尚更お聞きしなくてはいけません、これは一体何がどうしたのですか、せめて説明の為の電話をして貰えないものですか、」
嘉織、その間合いを一切詰めず
「だからね、シスター唯子、毎度の事だけど、ここいらの港湾地区の電話って、大江戸市役所高輪分署に呼び出すんでしょう、用件とても言えないって、そう、これは秘跡に関わる事だから、迂闊に呼び出せないよ、答えになってるよね、」
シスター唯子、躊躇うも
「秘蹟ですか、まさに宗家ですね、ああ、察します、いいえ、そうではなく、」
嘉織、余裕の笑みで
「シスター唯子、どんどん察して、以前にクリスマスで見た宗家のあの佇まい、前乗りしてるんでしょう、そうでしょう、今日もで正解だよね、」
シスター唯子、徐に右足を後ろにすり上げ
「ええと、」
久住、両手そのままに柄に伸ばそうかも
「嘉織さん、先鋒務めます、」
嘉織、久住を左手でどんと跳ね上げ
「焦るな、久住、この先の宗家をびびらすな、」
渋谷、コンソールを見つめたまま
「生命維持装置に問題無し、でも大声は止めて、」
シスター唯子、ただ立ち塞がろうと、摺り足のままに
「答えははこれです、何人たろうと、駄目です、」ただ過り「ああ、そうじゃない、私らしくも無い、でも嘘はつけないし、そう、手順が有りますから、ちょっと待って下さい、かなり難航するでしょうが、宗家と相談してみます、」
嘉織、左手で一団を仰ぎながら
「だって、皆、良いから進んで、」
スペイン近衛騎士団一同、躊躇無く電子ローラーを転がすも
「Sí señor.」
シスター唯子、一際声を張っては左足を大きく踏み出す
「ですから、階上さん、私の話のどこを聞いているのですか、」
嘉織、右手を大きく開きまた閉じ
「シスター唯子、大丈夫、私の勘は、宗家もご存知、万が一でも逃げられたら困る、判るよね、私のこの決意、」尚も手で指示しながら
シスター唯子、とうとう聖堂の扉の前に立ち塞がり
「いけません、ですから、今はちょっと、階上さん、お待ちください、」
嘉織、手で一団に一旦ストップ掛けるも、目を見張り
「良いから、良いよね、シスター唯子、私の答えは出きってるよ、」
シスター唯子、ただ聖堂の扉の前で大きく手で塞ぎ
「やはり駄目です階上さん、何人も通せません、その覚悟は譲れません、そして、本当に良いのですか、私は手強いですよ、」
嘉織、はきと
「シスター唯子、知ってるよ、あの最上をけっちょんけちょんにしたんだ、一通りシスター刈谷唯子を調べ上げたよ、全く外務省海外移籍考察部で漸くなんて、何で二つもパスポートも持ってるの、刈谷唯子別名亘理唯子、シスターの身分で半年海外渡航は分からないでも無いよ、でもね、海外移籍考察部の身分照会でも全部黒塗りなんて、それ何、ねえ、シスター唯子、これ聞いて良いんだよね、」
シスター唯子、凛と立ち塞がったまま
「黒塗りなら、察して下さい、」
嘉織、尚も
「ああ、察するよ、察するに余り有るよ、うちらの南部様が、黒塗りの亘理家なら、徳川幕府の置所加判家筋だろうって、それでも続けちゃう、」
シスター唯子、ただ困り顔に
「あっと、それは、階上さん、困ります、」
嘉織、不意に
「まあ、ここまで話が上がったら、ついでに言っちゃうけどね、置所加判家、実の所、徳川幕府の金食い虫の透波衆の寄合、そりゃあ代々実動部隊なら凄い強い訳だよね、」
シスター唯子、忽ち余裕の笑みで、不意に両手の人差し指を組み上げ
「ふふ、その透波衆なら、消えましょうか、」
嘉織、半開きのままに
「うっつ、本気の透波衆かよ、実物の忍者なんて、そっちの対策考えてなかったよ、」
シスター唯子、不意に両肘を引き身構え
「さて、透波衆もどろんぱも、何れも冗談です、消えるなんて、せめて瞬殺ですよ、」
嘉織、それでも前に進み出ては
「シスター唯子、結果、一戦止む得ずか、その瞬殺、最上の接戦でインプット済だよ、私が本気出したら、聖堂の扉毎吹き飛ばすからね、うっかり胸骨折っても、そこはごめんで済ますからね、」
シスター唯子、不意に手を下げ無形の位に
「本気ですのね、階上さん、」
嘉織、大仰に手で仰ぎ
「決意は勿論、置所加判家筋だろうが何だろうが、押し通るよ、」
シスター唯子、肘をゆっくり回し、型を一手二手と循環させ
「階上さん、誤解が有る様ですが、今もの置所加判家筋は徳川幕府親藩より抜粋の単なるお抱え集に過ぎません、深くは言えませんが付き添いで止む得ず海外に赴く事も多くなります、」
嘉織、一歩進み出ては
「まあ、そう言う止ん事無きなら、深くも聞きはしないさ、でもね、ここで純の未来が掛かってるんだ、私も引けない、」
シスター唯子、瞬時に止め、深く息を吸っては
「疑念が晴れても、尚もですか、」
嘉織、神妙にも
「そうだね、どうしても押し通るよ、そういうシスター唯子も、その先の聖堂内で無作法はしないでしょう、落とし所そこで良いよね、」
シスター唯子、緊張を解き
「躱す事無く、敢えて猪突猛進、さすがの入口の鋼鉄扉も歪みますね、」姿勢を律しては十字を切り「階上さん、止む得ません、例え中で何かを見られても、驚きはしないで下さい、その瞬きもお導きですよ、」
嘉織、こくりと頷き
「まあ、クリスマス前だし、敬虔にもなるさ、」丹念に十字を切る
スペイン近衛騎士団一同、嘉織に倣っては、十字を切る
シスター唯子、緊張の面持ちで
「皆さん、そのままよろしいですね、開けます、」ただ厳かに聖堂の鋼鉄の扉を開けては、ドアベルが調音正しく響き渡る
ドアベルが鳴ったのを境に、不意に教会の鐘の音がゆっくり鳴り響いて行く、聖堂内、日差しが差し込むステンドグラスの中、白い羽ばたきのまま宙より降り立つ黒の長い紐リボンに白いクラシックなハイネックロングワンピースの若き女性、黒のロングブーツから漸く穏やかな靴音の響き、降り立つと同時にゆっくりとガブリエルの羽根が朧になりゆっくり閉じて行く
ただ厳かな輝きの中、我に返り、一斉に跪く黒スーツ一同
嘉織、呆然としては漸くも
「えっと、天使、」目を見張っては忽ち跪く
緑のロングコートに肩迄伸びた髪の年齢不詳の草上、聖堂の長椅子より漸く振り向き
「階上か、一通り見えたよな、」
嘉織、足元が朧げも漸く進み出て
「いや、いや、まさか、あっと、でもな、やっぱりそういう事って、あるんだよね、その為にラテラノ大学に通ったし、そうだよな、」
草上、くすりと
「それなら良い、」
嘉織、ただ神妙に
「ああ、その、見目麗しいお姉さん、そういう言い方もどうなのだけど、どなたなんでしょう、せめて今日のお祈り際に、感謝を捧げないと、」
クラシカルな様相に、小顔で東洋にも西洋にも見える面立ちの女性、ただくすりと
「よくいる天使よ、階上さん、私を初めてかしら、」
シスター唯子、窘めながら
「先達、ここはちゃんと名乗って頂けませんか、聖事の前に迷える仔羊を増やす事は穏やかでは有りませんよ、」
クラシカルな女性、ただ剥れては
「もう、シスター唯子は、ここ、突っ込んでほしいところなのに、」
嘉織、きつく困り顔で
「あっと、七つ程思いついたけど、いやね、どなたなのかな、白い羽根だから、やばい方じゃないよね、ああもう、遠い記憶がそうじゃないって、宗家、助けて、」
クラシカルな女性、がばと草上に向き直り
「えっつ、幸一に振るの、まさかの私を素通り、これって、時代なのかしらね、」
草上、神妙に
「ガブリエル、ここはどうやら火急の用です、さあ、控えの間にどうぞ、」慇懃に手を差し出す
聖堂中に、言葉にならない嘆息が漏れ響く
嘉織、ただ目を見張り
「あっつ、あのガブリエルって、美青年じゃないの、えっつ、」
クラシカルな女性ガブリエル、事も無げに
「そうよ、あのガブリエルよ、それも時代を経てなのよね、女子そのままの格好なら行脚もままならないでしょう、」
仕舞いには一斉に咽び泣く黒スーツ一同
渋谷、声を荒げては
「低温治療カプセル血圧増加中、皆弁えて、それでもよ、」
嘉織、振り向き低温治療カプセルにかぶりついては
「純、大丈夫か、いや、動脈静脈が浮かんでる、渋谷、」
渋谷、コンソールのレッドアラートに動揺しては
「体温も上昇中、何故、鎮静剤は一定なのに、」
草上、がばと長い髪をくしゃりと
「ガブリエル、何をしたい、良いから控え室に行け、」
ガブリエル、いつの間にその包み込む両手の中のセントエルモの光をゆっくり手で閉じて行くと
「いいえ、ここは見届けないと、ミカエルとラファエルにお話できないでしょう、」
シスター唯子、ただ窘めては
「先達も、お行儀が悪いですよ、儀礼もここまでです、どうかお下がり下さい、」
嘉織、地団駄しては
「えーと、三大天使出されたら、ここは、うっつ、突っ込みたい、」
久住、嘉織の腕をただ引いては
「嘉織さん、今は純ちゃんですよ、」
ガブリエル、くすりと
「ふふ、階上さんは、その立ち位置なのね、まあいいわ、」
嘉織、ふと我に返り
「ガブリエル、純の、これ、どうなってんだよ、」
ガブリエル、凛と
「低温治療カプセルはどんなに安全とは言え、純ちゃん、いつまでも眠っていたら可愛そうよ、それだから高輪世界復興記念聖堂に豪快に乗り込んだのよね、」
嘉織、一歩一歩、祭壇の前へと
「これって、ガブリエルが助けてくれるのか、ねえ、」
ガブリエル、はきと
「私は伝聞係、宗家が判断を下すから、後はお任せね、」
嘉織、長椅子の草上に擦り寄っては
「宗家、純を助けて、何でもするよ、頼むよ、」
草上、長い上を掬い上げ
「同門でそこまでお願いされてもな、階上、気にするな、純ちゃんは、付きっきりでもヘマじゃないんだろ、」
嘉織、力無くも
「いや宗家、ヘマだ、私が極道の吾妻組長に鴆毒の仕込み杖で右腕擦られたら、全身に回って、純が治癒して背負い込んだ、」
草上、事も無げに
「鴆毒か、ああ、噂には聞くが、やはり致死に至るものだな、」
嘉織、とくとくと
「そう、今の純は鴆毒の成分ないものの背負っちゃって、念の為鴆毒の抗体当たってるけど、この日本国にはどうしても無いんだよ、どこまで後退してるんだよこの国、それで東儀がバーゼルインターファーマシーと交渉してサンプリング送付で来年の酵生になるって、そんなの待ってられるかよ、」
草上、漸く長椅子より立ち上がり
「しかし、純ちゃんもよく背負い込んでショック死しないものだよ、渋谷さん、純ちゃんを起こして、」
渋谷、ただあんぐりと
「でも、草上さん、それは、」
久住、声の限りに
「草上さん、純ちゃんにそこまで負担を負わせる意味が分かりません、お答え願えますよね、」
草上、凛と
「あの久住も一人前か、それなら良い、」
嘉織、目を丸くしては
「ちょっと、宗家、久住の良いって、まだ早いよ、もう、」
草上、中央通路のまま歩み
「まあまあ、慌てない事だよ、大丈夫、純ちゃんは階上に会いたいから、ぽっくり死ねないんでしょう、そこは尊重しよう、」
渋谷が次々手順を踏み、コンソールは冷蔵解除モードへ、低温治療カプセル内の霜が漸く降り、医療ジェルが内部排水されては、黒スーツの介添えの介抱で抱え起こされる低温治療カプセル着の純
渋谷、丹念に純から医療ジェルを拭き取っては、黒スーツの介添えで敷かれた簡易マットに移される純、そして純の体温が仄かに循環し始める
溜息も意を決した渋谷が、純の腕の鎮痛パッチを次々外して行く、その針の痕もただ生々しく
ガブリエル、にじり寄っては興味津々に覗き込み
「ねえ、低温治療カプセルと言えど、こんなにパッチ貼ったら、ショック死しないの、」
渋谷、甲斐甲斐しくも純のパッチの跡に止血絆創膏を貼りながら
「ガブリエル様、純ちゃんもギフトです、万が一、不意の再生があっては低温治療カプセルも対処しきれません、」
ガブリエル、ただ思案顔のままに
「成る程、階上さんの言う通り、この日本国では、手の施し様が無いってことね、」
渋谷、尚も止血絆創膏を貼りながら
「ご察しの通りです、最悪の際は、ユーロへの搬送を考えていました、」
草上、様子を窺った、ままに
「最悪か、命って儚いものだな、」
ガブリエル、事も無げに
「ねえ、幸一、頑張ってよ、」
嘉織、つい声を荒げては
「いや、ちょっと待った、ここは、大天使が何とかするんでしょう、順序合ってるよね、」
シスター唯子、ただ階上を促しては
「階上さん、ですから大天使に突っ込みは控えて下さい、かなり恐れ多いのですよ、」
嘉織、草上に向き直っては
「って、宗家、本当に大天使なのかよ、やたらフランクだろ、階上村の近所のお姉さんかよ、」
草上、神妙に
「いや、ガブリエルは本物だよ、良いから細かい事は気にするな、下天に降りた天使は大凡に無邪気なものだ、」
ガブリエル、健気にウインクしては
「そうそう階上さん、怒っちゃ駄目よ、」草上に頬笑んでは「だからね幸一、本気出してよ、」
渋谷、低温治療カプセルから伸びた三つの管をそのままに
「草上さん、純ちゃんの生食は外せませんが、徐々に鎮静剤が引きます、意識が戻ってショック状態になる前に、ここはお任せします、」
嘉織、涙声で
「頼む宗家、純さ、どう見ても可哀想だよ、何で純が死ななきゃいけないんだよ、助けてよ、お願い、」
忽ち草上の両腕の赤いリングが灯り、右手を天空より引くと
「まず、これか、」
天空から一本の銀のリボンが舞い降り、純の右腕に絡むと、純のリングが強制発動、仄かに青く灯る
嘉織、その銀のリボンに萎縮するも
「この銀のリボンって、一回、二回、三回か、見た事あるよ、」
草上、両腕の赤いリングそのままに
「ああ、純ちゃんはよくある機能不全だね、良いかい、痛みを掬い上げるなんて土台無理な思い込みなんだよ、ここは階上嘉織に聞こうか、そのギフトは何の為にあるんだい、」
嘉織、漸く繰り出し
「それ、ラテラノ公開審判の際に聞かれたよね、私は家族を守る為だよ、」
草上、こくりと
「階上はそうだったな、いや、それで良い、」溜息も深く「さて、組成に時間が掛かる、その間、俺の話が長くなるが良いか、」長椅子の出口側に腰掛け
階上、対面の長椅子に滑り込み
「宗家の話って、まさか、第七次東南アジア事変なの、行ったの、ねえ、」
草上、困り顔も
「まあな、どんな噂聞きつけたか、あの天上にそのまま拿捕され、ジェットヘリに放り込まれては、グレートティモール直行だよ、貴重なけつねうどん、お揚げ残したままなんてな、」ただくすりと
嘉織、鬼気迫っては
「それって、きっと大直行だよね、大悪党たる、玉座パイソンパレスは大火災で素任大佐始め残党行方不明ままって、まさか見逃したのかよ、」
草上、凛と
「まさか、上家衆の天上最上、アンダー40の里中春川、後衛にはサンクトペテルブルク公国の大鳥に虎の子のスペツナズ9まで投入だ、隙は無いよ、それで持って、ぶちきれた天上の本気度は世界一、びびる残党は止む得ず逮捕したが、そこは天上の事、当事者の素任大佐生きていると思うか、」
嘉織、溜息混じりに
「まあか、何か凄え面子、本気度マックスか、」不意に首を傾げるも「でもさ、アンダー40の里中はツーカーだけど、春川って誰だ、」
草上、嘉織を見据えたままに
「ああ、アンダー40期待の新人だ、白鷺最高司祭自らスカウトしてきた、何れ手を組むと思うから、合わせ技はインプロビゼーションにしておけ、」
嘉織、思案顔も
「含み無しの何れね、ままいるよな、秘匿ファイリング、まあいいか、」
ガブリエル、草上の一列前の長椅子に座り込み、ぽつりと
「春川さんね、私は、暫く合いたくないわ、堕天使でも敵わないかも、」
草上、窘める様に
「ガブリエルもそう言うな、春川はまだ迷い子だ、」
ガブリエル、ただ悩まし気に
「まあ、そっちの方もよね、春川さんの出自もさてよね、」
嘉織、尚も
「それで、グレートティモールはさぞかし大騒ぎだったんでしょう、何で玉座が大炎上なんだ、」
草上、はきと
「そこは天上の必殺技だよ、皆がいる、ここまでにしよう、」
嘉織、くしゃりと
「まあ、そこね、もはやアジアでは、天上さんのアジア班自体が秘匿条項だし、そう言う事で、皆いいね、」皆にぐるりと目配せしつつ「それでさ、グレートティモールって、所詮は麦秋中華帝国の傀儡政権だろ、新名君の佇まいも麗しいのに龍舜女帝って温いんだな、そっちは片付けないのかよ、」
草上、首を横に振り
「いや、麦秋は一切関係無い、グレートティモールは中華人民共和国の終焉でそのまま支援関係も切られ、暴走せざる得なかったそうだ、龍舜女帝は伝え聞く限りかなり理性的だよ、」
嘉織、思わず拳を固め
「ふん、旧中華の悪知恵そのままに、それが牧場経営か、今でも国家、いやグレートティモール絡みって信じられないよ、何がしたかったんだよ、素任大佐、」
草上、凛と
「グレートティモールでの恐怖政治が困難と見ると、見せかけの平和国家への開放、歴史上よくあるだろ、警察の威光そのままにお目こぼし有りの快楽主義へまっしぐらさ、」
嘉織、堪らず固めた拳を太腿に落とし
「ふざけるな、それが拐かしなのかよ、牧場経営なのかよ、なあ、」
草上、従容も
「まあな、若いうちにさっさと拐かし、何かしらの能力者は権力者づての客家に、美貌が評判の児童は男子女子共に飼いならす、素任大佐始め独裁者の趣味と実益を兼ねた采配だよ、」
嘉織、堪らず声を張り、
「待てよ、宗家、その言い方は酷過ぎるだろ、って、それが現実なのかよ、全くさ、」
ガブリエル、ぽつりと
「そうねグレートティモール、第七次東南アジア事変に至る迄が本当に酷いけど、ねえ、ここはちょっと話が古くなるけど良く聞いて、バビロンもエジプトでの奴隷も、いいえ数々の奴隷の歴史は、決してでっち上げの歴史じゃないのよ、よく聞くでしょう、歴史は繰り返すって、」
嘉織、いみじくも
「いきなり奴隷って、ガブリエル、ちょっと例え古いって、それ紀元前の話でしょう、まあ何と言うか、大天使に強く言えない、見たとか、伺ったとかなのかな、」
草上、ゆっくり頷き
「生証人の話は、よく聞いておけ、為になるぞ、」
ガブリエル、豪快にも右腕を上げ
「いやー、重労働のあとのビールは身体に染み渡るわよね、おかげでぐっすりよ、」
嘉織、身を乗り出しては
「良いよね、労働の後のビール、田酒も最高だよ、」勢いで右手を差し出す
ガブリエル、ただ嘉織がっちりと握手
「そうそう古城錦の地酒、一揆って興奮するわよね、津軽藩も安易に重税課す事無いじゃない、ざまあみなさいよ、」
シスター唯子、ただ目を覆い
「先達、すいません、毎度の事ながら、その溢れ出る光景に、私、ちょっと目眩が、」
草上、くすりと
「まあ、シスター唯子、個人情報は出て来ないけど、面白いじゃないか、」
嘉織、ふと我に帰り、ガブリエルから怖々と手を離しながら
「ええと、まさか、ガブリエルも嚙んでるの、グレートティモールの一件、」
ガブリエル、はたと居住まいを正し
「階上さん、ここは仕方無いのよ、聖書で散逸するルシファーが商人として玉座パイソンパレスに上がっている以上、私も素任大佐の侍従として牽制しないとね、」
嘉織、憤りも激しく
「くっ、って、天使と悪魔もいて、グレートティモール、まるっきりの放任かよ、」
ガブリエル、尚も
「その素任大佐、ただ堕落で天寿全うと言う時に、天上に乗り込まれたら、私でもがっくり来ちゃうわ、」
嘉織、ただ怯み
「うっつ、凄いよ、天上さん、天使と悪魔出し抜くなんて、」
草上、切に
「それ褒め言葉になってないからな、俺はもうお腹いっぱいだ、あの素任のおばさん、道連れとばかり、連なる小性達全員に、綺麗なままの美貌で逝ける酵素不完全凝固カプセル持たせてたからな、自意識を伴わない殉死を芸術と勘違いしてるなんて、正に大悪党そのものだよ、」
ガブリエル、視線そのままに
「そう、素任大佐、徹頭徹尾、それはそれは凄いハーレム作って呆れるわ、あんな魅惑的な大浴場に大寝室、どれだけ泡銭注ぎ込んだものかしら、そりゃあね、毎晩飽きもせず快楽に浸れるわよね、」
草上、寂し気にも
「まあ、小性も若いうちから仕込まれたら、これから先、男として決して機能しないな、」
嘉織、堪らず吠えるも
「男女問わず、貪るなんて絶対許さねえ、」必死に、灯った右腕の赤いリングを抑え込む
草上、尚も
「許すも何も、所謂追い詰められて自ら火を被って自害しては、そのまま玉座パイソンパレスの大炎上で灰燼と化したよ、まあその行いも、何れはスポークスマンを通じて公になるだろ、潔く自害したとあっては非常に困る、」
ガブリエル、徐に立ち上がり
「幸一、それも如何かしら、公にしていいの、」
草上、はきと
「児童の名前は必ず控えるが、公にするさ、中華人民共和国の終焉で、グレートティモールの軍事政権のたがが緩んだら、この非人道的な不逞さ、恐怖政治で抑え込めないなら、一般市民をとことん享楽の果てに押し込んで頭の中を麻痺させるしかあるまい、よくも思いついては実行もするものだ、良いかな、真実が朧だと、一般市民も悪夢から決して冷めない、」
嘉織、ただ右手の赤いリングを抑え込んでは歯を食いしばり
「待てよ、児童をだしに享楽の果てなんて、罷り間違って東南アジアの覇王になるつもりだったのかよ、あのおばさんがそこまで出来るのかよ、」
草上、ゆっくり頷き
「現に素任はアジア各地に牧場作っただろ、軍事政権に些細な事でも異を唱える者の末路は決まって、死だ、直属の兵隊と言えどな、」
ガブリエル、赤いリングを必死に抑え込む嘉織の背中を優しく撫でては、ブーム音と共に嘉織の赤いリングが静まる
「階上さん、まだ、クリスマス前だから、壊されてもね、」
嘉織、右手をじっと見つめては
「普通にリングが解消されるなんて、やっぱり、ガブリエルなのか、」
草上、くすりと
「ガブリエルはガブリエルだ、名を語る知識豊富な綺麗なお姉さんじゃない、」
ガブリエル、くすっと
「幸一、褒め言葉並べられてもね、」不意に真顔に「そうね、素任大佐、せめてグレートティモール国民軒並み牢の刑なのに、どれだけ血に慣れたものよね、その毎日の血祭りでは、ルシファーも冷やかしに来るものよ、」
嘉織、あんぐりと
「えっつ、ルシファー、それって、まさか、」
ガブリエル、はきと
「ああ深く心配しないで、ルシファーはただの太鼓持ち、ただのよいしょよ、牧場始めグレートティモールの政には直接も間接も関わっていないわ、」草上に向き直ってはやんわりと「幸一、この先くれぐれもルシファーの話は抜きね、階上さんを興奮させる癖をつけたくないわ、」
草上、切に
「勿論、ガブリエルも失楽園に潜入とあらば、世界はコンクラーベ騒動になるよ、そうなるとまた手順踏まないといけなくなる、」
嘉織、拳を何度も振り抜きながら
「宗家、誰が悪なんだ、全部読み上げろ、生死を問わずそいつらの残った骨残らず、砕いて、この世から消し去ってやる、」
ガブリエル、溜息混じりに
「これが人間なのね、」
草上、はきと
「ガブリエル、天上と最上はあれでも理性的だろ、」
嘉織、不思議顔で右手を見ては
「あれ、リングは、ガブリエル、何かしたのか、」
ガブリエル、はきと
「階上さんのリングは、30日間封印したわ、上家衆ならそれでも余りあるわよね、」
嘉織、憮然とするも
「まあ、小競り合いも少ないし、銃器で何とかしちゃうけど、まあ、それも修練かな、」
草上、はきと
「階上、今回の悪党の名前読み上げたら、鬼が笑ってしまうから無しだ、」
嘉織、怒りも露わに
「だから宗家、天上さんもだよ、本当甘いよ、何でグレートティモールを放任するんだよ、」
草上、とくとくと
「第三次世界大戦以降、誰が悪か、それは誰も分からない、互い名分が生じて勝ち残った方に正義があると思うか、それが拗らせての素任大佐の素行と結末だろ、俺はともかく、天上を悪く言うな、」
嘉織、ただ太腿を握りしめ
「もう駄目だ、怒りが収まらない、本当話が長くなりそうだよ、」
草上、窘める様に
「そう言う事だ、当面第七次東南アジア事変のあらましは天上に任せておけ、階上はもう怒るな、」
嘉織、顔を上げては視線そのままに
「いや、天上さんと最上に合流する、戦端を切ったのは緑川邸女子児童誘拐事件なんだから、私にも言う権利はある、」
草上、切に
「駄目だ、階上不在の日本国、誰が殿になる、これまでの数々の事件、階上抜きで解決出来たと思うか、」
嘉織、ただ苦々しく
「この日本国、どこまで落ちぶれているんだよ、なあ、」
ガブリエル、神妙にも
「この手のお話は、本当飽きないわね、」
シスター唯子、合いの手を入れる様に
「先達、草上さん、階上さん、そして皆さん、ここは聖堂ですので、耳障りの良い説話に接して頂けませんか、」
ガブリエル、不意に銀のリボンの先を見上げては
「幸一、」
空から一本の銀のリボンが、未だにきらびやかも
草上、両腕の赤のリングが灯ったまま
「まだ組成に時間が掛かるか、階上、懺悔とかしてみないか、」
嘉織、どぎまぎするも
「そんなの、多分、無いよ、そう、ちゃんとお祈りは欠かしてないって、」
草上、ただくすりと
「神に誓ってとか言わないが、沢山あるんだろ、吐いとけ、人を殺めたのも何とかなるさ、」
嘉織、神妙にも
「そんなの、そこまでは、後の事よく知らないけど、そう、無い筈だって、」
草上、尚も
「いいや、過失、そして致命傷で寿命縮めた奴もいるんだろ、」
嘉織、はきと
「だけどさ、そこまで面倒見切れるか、皆悪人でしょう、出鱈目でしょう、そうでしょう宗家、日本国の滞在長いなら分かるよね、ここかなり大切だよ、」
草上、ゆっくり頷き
「まあ、それもそうなんだが、のさばらす訳にも行かないし、神様も大目に見るか、」視線をガブリエルに送る
ガブリエル、草上と視線合わせたまま
「何で私を見るの、まあいいわ、全能神にはとくと言っておくわ、」
嘉織、声を震わせながら
「その前に、純を、私なら、どんな地獄でも、無惨な死に方でも構わないから、ここは純を助けてよ、」
草上、従容と
「階上、地獄とか、安易に逃げるな、痛みが分かるなら死に急いではいけない、皆悲しむぞ、」
嘉織、大手に振り
「悲しむって、これが私のお役目でしょう、上家衆、いやローマ全員、使命を分かってるよ、」
草上、凛と
「いやまだだ、心と体、一体となってこそのギフトだよ、階上の場合、順序はやや違えど信仰もしっかりな、」
嘉織、はたと
「信仰って、いや、ある、奇跡はあるよ、だから宗家、」ただ純を見据える
草上、諭す様に
「焦るな、階上、まだ結線している、無理に純ちゃんを起こすな、」
嘉織、床に伏せる純に歩み寄っては
「純、」堪らず純の腕を摩りながら「冷たいな、何で冷たいんだよ、」
渋谷、純の左腕の脈を尚も測りながら
「階上さん、無理に起こさないで、この状態の純ちゃんにウルトラAEDは使えないわ、」
嘉織、堪らず落涙も
「何でだろう、何で純を巻き込むんだよ、まだ弱いのかよ、私さ、」そのまま立ち上がっては意気もそのままに
草上、尚も
「そう言うな、階上、このお役目には、貯金目当てもあるんだろ、どうだ貯まったか、」
嘉織、両目を手の甲で拭い終え
「それ、全然だよ、まだまだ無菌リンゴ農園なんて夢だよ、原爆の放射能完全除染の技師さん達を呼べるなんて、とてもとても、」
草上、頬笑みながら
「そんなの良い旦那見つけて、強請れよ、」
ガブリエル、綻んでは
「でも、現在の階上嘉織さんの旦那さん候補は、チューニングエンジニアさんですよね、」
嘉織、はっとしては
「ふえ、って、いや何で、」
ガブリエル、くすりと
「そこは大天使ですからね、噂位は自ずとね、」
嘉織、逡巡するも
「いや、確かに箸木は付き合い長いけど、待て、ここは候補、まだ候補、そう、無菌りんご農園が夢なんだよ、まずそっち、」
草上、思わず綻び
「まあ、今から決めうちするな、階上村に拘るのも程々だぞ、」
嘉織、口を尖らせては
「そもそもさ、私に旦那って、誰が純の面倒見るんだよ、それだよ、放っておけないよ、」
草上、はたと
「それなら聞くが、純ちゃんが良い人見つけたらどうする、あれこれ難癖付けるんじゃ無いのか、」
嘉織、久住を一瞥するも
「そんなの、宗家に関係無いだろ、純の旦那候補も階上村べったりは有り得ないだろう、」
草上、神妙に
「そう、関係ないな、それは階上もだ、実の妹だからって構い過ぎだ、二十歳前とは言え、自由にするべきなんだよ、」
嘉織、声を張っては
「自由って、一族の血も守らないと、この厳格な分別あればこそのギフトの受け渡しでしょう、ねえ、宗家、」
草上、ふと
「どうかな、心配しすぎた結果が、その純ちゃんの治癒と聖痕にまつわる数々じゃないのか、」
嘉織、いみじくも
「そう、純の背中の右上の聖痕、宗家にも写真見せた事があったよね、純本人は見えないけど、一緒に温泉入ると痛々しくてさ、」
草上、厳かに
「階上、決して忘れるな、聖痕には意味はある、秘跡を重んじるんだ、」
床に伏せる純の左小指がぴくりと
渋谷、決して見逃さず
「純ちゃん、意識が戻るのかしら、まずいわ、万が一のリジェクションを起こしたら、」手元の医療ボックスを確認しては無針鎮静剤を二つ手繰り寄せる
嘉織、ただ茫然と
「純、」
ガブリエル、事も無げに
「幸一、頃合いかしらね、」
草上、徐に両手を組むと両腕のリングが赤から白へと変わる
「そうだな、呼び戻そう、」
天空から一本の銀のリボンが輝き増しながら、ゆっくり宙へと巻き戻るも、聖堂に純発の光りが隈無く注がれる
渋谷、堪らず両手で目を覆っては純より止む得ず距離を置き
「駄目、眩しいわ、」
嘉織、手を仰ぎ伏し目がちに
「駄目だ、純が眩しい、宗家、何がどうしたの、」
草上、両腕の白のリングが次第に収束してゆく
「よくある現象さ、奇跡、」
純発の光りが一気に収束し、束の間の沈黙
床に伏せる純、目を瞑ったまま咄嗟に仰け反り
「ああっつ、」そのまま上半身を揺り起こす
右肩の肩甲骨から透明な羽根が羽ばたく
ただ声を失くす、黒スーツの一同
嘉織、ただ強ばり
「純に、何が起った、宗家、何をしたんだよ、」
草上、透明の片翼の純を見つめたまま
「良いから、ここは見届けるんだ、」
純、無意識にも目を開けられぬままに
「痛い、嘉織ちゃん、痛い、」着衣の中から、もう片方の左肩甲骨周辺から聖痕がうっすら浮かび上がると、ゆっくり透明な羽根が開いて行く
嘉織、震える膝を必死に堪えては
「左も、まさか、純が、天使、」
ガブリエル、神妙に
「現世で現身なんて、余程の事なのよね、」
嘉織、ただ振り払い
「純、死ぬのか、酷いよ宗家、酷いよガブリエル、」
ガブリエル、訥に
「純ちゃんは死なないわ、天使に転生も誉れ高い事なのよ、」
嘉織、怒号そのままに
「絶対言うな、転生したら、純じゃなくなるんだろ、記憶とかも無くなるんだろ、それじゃあ、死んだのと変わらないよ、」
ガブリエル、困り顔も
「そうね、そこまで言われると、私でも困っちゃうわ、」
草上、もはや天使のそれかの純を見つめたまま
「それも純ちゃん次第なのかな、」
嘉織、声高にも
「宗家、散々、施して他人事かよ、どうなってるんだよ、なあ、」
草上、凛と
「階上、今は羽化している、ここは純ちゃんを見届けるんだ、」
嘉織、自らの胸を何度も叩いては
「純、私はここだ、私を見ろ、」
純、漸く目を見開き
「嘉織ちゃん、」
刹那、純の低温治療カプセル着の背中が破れ散り、強烈に具現化した純白の小天使の羽根がはばたき広がると、はたと止まり、純白の羽根が一気に散っては聖堂の中を軽やかに舞い広がる
背中を丸出しの純、羽根が散っても、両肩甲骨には尚も聖痕
「痛いよ、純ちゃん、とても痛い、痛い、」そのまま前のめりに気を失う
久住、透かさず純の元へ
「純ちゃん、」堪らず自らの黒スーツを純に被せ背中をさする
嘉織、漸く繰り出し
「渋谷さ、痛いって、血は出てないだろ、どうすれば良いの、」
渋谷、純に詰め寄り左腕を取り
「脈は有るわ、」今迄の光景に涙しながら「聖痕、そう、発現には痛みが伴うって聞いているから、大丈夫よ、死なないわ、」
未だ、白い羽根が舞う聖堂内、黒スーツの一同漸く我に返ると、思い思いに祈りを捧げて行く
嘉織、鎮まり始めた聖堂を見据えては、はたと
「ガブリエル、これって、何なの、」
ガブリエル、溜息も深く
「何か、残念ね、折角のお友達が出来そうだったのに、」
草上、はきと
「ガブリエル、そう言うな、階上にべったりの小天使も如何だったぞ、」
ガブリエル、思い倦ねては
「それもそうなんだけど、天国の門で、何があったのかしらね、」
草上、くしゃりと
「さあ、純ちゃんが言うかな、」
嘉織、ただ翻筋斗打っては
「かー、何言ってるかわかんないけど、これ、散らばってるこれさ、これは天使の羽根なんだろ、こんな光景、鳥小屋でもここまで酷くないぞ、純にとって致命傷じゃないのかよ、奇跡って、ここまで壮絶なのかよ、」
ガブリエル、諭す様に
「それより、シスター唯子、この小天使の羽根は一切伏せて、聖堂に誰も入れないで貰える、」
シスター唯子、動じる事無く
「先達、そこは大丈夫です、高輪世界復興記念聖堂全員に厳命しています、この天使の羽根もちゃんと回収します、」
嘉織、一歩踏み出しては
「だから、まず純だって、判ってるの、」
ガブリエル、ゆっくり頭をもたげ
「それね、人間で有る事を選ぶのって、ミカエルから産業革命時のお話を聞いただけだから、私でも困っちゃうわね、結局修道院に入って敬虔な人生だったわよね、」
嘉織、思わず目を覆い
「うわ、そっちか、」
草上、くしゃりと
「まあ、純ちゃんの素養から、何れはからが早かったが、ここは、主の思し召しと言いたいが、詳しい事は純ちゃんに聞かないとな、そこから皆と今後を話し合おう、」
嘉織、吐息混じりに
「小天使か、」
ガブリエル、くすりと
「ねえ、階上さん、純ちゃんより、私の方が先なのに、何畏まってるの、」
嘉織、素早くも
「こんな、フランクな天使いるのかよ、って、大天使ガブリエルなのか、ああ、もう、」丹念に十字を切る
時が再び流れ始めては、純の天使の羽根が、勝手知ったるシスター達に一つ残らず集められ、控え室に運ばれて行く
そして教会の鐘が16時の時を告げ、ただ純の目覚めを待つ一同
純、ゆっくりと瞼を上げ、目を覚ます
「あれ、ここ、帰って来れたの、」
嘉織、ただ伏せる純をがばと抱き
「純、起きたか、良かった、帰って来れたって、」
純、そのままにくすりと
「いきなり、嘉織ちゃんだよね、そう帰って来たよ、夢にしては覚えているよ、あのね、天国の門で、いかつい門番さんいたんだけど、本当長く話しかけたのだけれども何も喋らないかから、素通りしようかと思ったら、若いケルビムさんとかが出て来て、“ちょっと待って、嘉織ちゃん泣いてるけどよく考えましょう“だって、でもここ天国なら、先を見て見たいでしょう、兎に角進んだの、右の背中が痛くて痛くて気が付いたら羽根が生えちゃってて、ケルビムさん、慌てては備忘録広げては悶絶して”純ちゃんあなた来る所が違います“だって、それ何かしらね、」右ひじを支えに上体を起こそうと
嘉織、純の上体を丁寧に掬い上げながら
「えっと、右の羽根、その話は確かに合ってる、それで、純、進めて、」
純、深く息を吐いてほ、とくとくと
「そうそう、いきなり上司とかで、温和な全能神さんが現れて、床がガラス張りになったら、“純ちゃん、天国に入って朧げでしょうけど嘉織ちゃんが泣いてますよ、どうします”ですって、下の聖堂で泣いてる嘉織ちゃん見えたら、逡巡して、確かに嘉織ちゃん一回泣いたら泣き止まないよねって、そうしたら不意に、ガラスの床がごっそり落ちて、ひたすら落下しながらどうしようと考えたの、もう片方に翼あったら飛べるかなと思ったら、激痛と共に左の背中にも羽根が生えて、踏ん張りながら飛んだのだけど、落下速度早過ぎて、そのまま下の聖堂で漸く着地、衝撃で全身に激痛走ったと思ったら、ふわって全部の羽根が抜け落ちて、それより嘉織ちゃんだよと思いつつも、疲れて果てて眠っちゃったのよね、この話退屈だったかな、」
嘉織、がばと立ち上がり
「宗家、あの銀のリボン、天国に繋がっていたのかよ、ふざけるなよ、往生させる気だったのかよ、って天国、本当にあるのかよ、あるんだよな、」ただ愕然と
草上、神妙にも
「良いか、俺の奥義の一つをあれこれ言うな、純ちゃんの話の辻褄は合ってるだろ、総じてそんなところだ、階上、例え天国の門に行っても無茶するなよ、」
階上、ただ、はっと
「いや、そう、その純だよ、天国の門乗り越えて、天国って、行けるものなの、」
純、ゆっくり頷き
「うん、見えたよ、エデン、あの先、両方に羽根があったらひとっ飛びだったかな、でもね、朧げに嘉織ちゃん思って踏み止まったら、行きたくても行けなくて、近くて遠かったし、また今度でも良いかなって、それにエデンまで行ったら中々階上村迄帰って来れないのかなと思ったら、寂しくなっちゃって、うん、帰って来て良かったよ、」止めどなく涙が溢れる
草上、はきと
「そうだね、純ちゃん、その疲れ切った足では、エデンでの佇みは難しいね、まだまだこちらにいるべきだよ、」
嘉織、やっとまとまった髪の毛を掻きむしり
「天国か、純が行けるなら、まあ、功徳は何とか積むよ、それだ、」
ガブリエル、くすりと
「天国もね、純ちゃんのお話の通りだけど、でも、そう簡単に門は開かないのよね、我慢強く修練を怠らない様にね、」
嘉織、あんぐりも
「具体的じゃないなと思いつつ、説話ならそんなものか、」
ガブリエル、ただ笑みが溢れ
「ふふ、その屈託の笑顔と激情、懐かしいやら何やら、どうしても思い出して来たわ、」
嘉織、首を傾げるも
「へえ、私に似ているネゴシエーターって、いたっけ、」
草上、たまらずほくそ笑み
「まあ、ガブリエルの話を聞けって、」
ガブリエル、近くの席の自らの年季の入った鞄から、分厚い見開き4枚の写真帳の最初の方のページを捲りながら
「あるある、因みにこれね、」
嘉織、恭しく写真帳に両手を合わせ見つめた先には
「やけに懐かしい写真だね、真ん中ガブリエルで、この三人共ごきげんだな、ふむ、」
ガブリエル、ただ嬉々と
「それは、報奨金の砂金たんまりで、一等船室での船旅ですもの、」
嘉織、尚も微笑ましく写真に食い入っては
「モノクロ写真ね、いつの時代と言いつつさ、でも、えっつ、右は宗家に似てるけど違う、御先祖様とか、ねえ宗家、不老長寿じゃないの、」口をただ開いたまま
草上、ただ真顔に
「階上、そんな訳ないだろ、俺は怪人じゃない、」
ガブリエル、満面の笑みで
「それより、こっちの方もね、」透明フィルム越しのモノクロ写真嬉々と指差す
嘉織、忽ち目を見張り
「あれ、これ小節、あっと、待てよ、これ懐かしい写真だよね、昔喬爺に分厚いアルバム見せられたな、この容姿、そう見た、まさか、御先祖様、」
ガブリエル、丁寧に指差しながら
「そうよ、私三笠ガブリエルに、草上一之丈、そして階上喜一郎、西暦1893年ニューオリンズ連続失踪事件、大量の黒人奴隷を乗せた斥候船を止めるべく、喜一郎が、そう呆れるわよね、今の嘉織さん以上の念動力で手当たり蒸気船全部沈めて、遡上阻止よ、」
嘉織、ただ目を覆い
「ほほ、ガブリエル、その喜一郎、何で止めないんだよ、無茶苦茶だろ、この時代の蒸気船ってべらぼうに高いだろ、」
ガブリエル、膨れっ面で
「そこはいいえね、べらぼうなお金の問題では無いわ、南北戦争で奴隷解放されたものの、あの時代よ、安くてきつい労働仕事は黒人奴隷に依存せざる得ないでしょう、それが高じての、あの悪党ども、遡上の組合皆ぐるになってはひた隠しにして、真っ昼間から黒人達を集めに集めて移送よ、邪魔するなら沈めて極めて当然よ、」
嘉織、逡巡しながらも
「でもさ、そこは、現場押さえたら、新政府いや教会に訴えれば、くー、まさか、その時代からなのか、」ただ仰け反り
草上、はきと
「そこは、上家衆には歴然と歴史が有るものだ、」
嘉織、尚も
「でもな、まあ、さすが御先祖様と言うべきなのか、」
ガブリエル、怒りも露わに
「そうそれ、喜一郎言い放ったわよ“説教は子孫に言えです”って、まあ、その流れから、上家衆の面倒もつい見るのよね、ふん、」
嘉織、宥める様に
「まあまあ、ガブリエル、その割りには会った事無いよね、」
ガブリエル、急に砕けては
「嘉織ね、私、お姉さんの美鈴の結婚式にはいたでしょう、はい、それは、これよね、」分厚い見開き4枚の写真帳を一気に捲っては差し出す
嘉織、ただ写真帳を受け取り見つめたまま
「確かに美鈴と成貴、あっつって、ガブリエル、和服でしっかりいるよ、えっつ、ここの塊って、座敷芸者衆でしょう、何で、こっちにも、ふえ、」
ガブリエル、得意気に腰に両手を置いては、
「長くも生きると、習い事も堂に入ったものよ、」
嘉織、興奮気味に
「そう夜の宴、かなり良かったよ、三味線三重奏、婚礼の津軽じょんがら節さ、何故か泣けた、今も海風荒い時は響いて来るよ、」
ガブリエル、鼻高々に
「嘉織、ありがとう、」ふと記憶が過り「とは言えね、あの祝いの席なのよ、小節が労いに小瓶持って来てはお酌してくれたんだけど、喜一郎に瓜二つの得意気な小節の顔見たら、憎たらしくて思わずお尻抓っちゃったわ、ざまあみなさいよ、」
嘉織、首を傾げるも
「ええと、ここは、どうしよう、」エア突っ込みを何度もしつつ
草上、頬笑みながら
「まあ、そこはな、ようやくここか、」
ガブリエル、思いも深く
「喜一郎の血筋は残らず突っ込みよ、大天使に突っ込みなんて、まあ、笑えるわよね、」
嘉織、図らずも
「本当器用だば、」堪らずガブリエルに裏手突っ込み「おお、出来た、」
ただ、静まる聖堂
シスター唯子、ただ鬼気迫り
「ああ、階上さん、先達に何て恐れ多い、」
ガブリエル、受けての嘉織に裏手突っ込み
「オーソドックスさ津軽弁ば混ぜてもね、」くすりと「ねえ、それより、嘉織は何を照れてるの、」
嘉織、ガブリエルにはにかみながら、ガブリエルに写真帳を戻しては
「いやさ、ここに殴り込んだ時のガブリエルと宗家を見たら、それなのかなって、何か良いよね、」
ガブリエル、慌てる素振りも無く
「それとはちょっと違うのよね、そうね、明治後期以降は、総じて宗家の系統寄りだけど、全部、傍目恋人止まりかしら、それはそれで隠密行動取れるのよね、でもそうよね、巷の天使の線引きって、そんなものでしょう、その先の一線を越えるようなら、人間にならないとね、それも難しいしきたりがあるのよ、」
草上、ぴしゃりと
「難しい話だな、それって深く聞いちゃいけないんだろ、」
ガブリエル、口にチャックの素振りも
「搔い摘んでも詳しい事も、勿論天界の守秘義務ね、」
嘉織、ただ促しながら
「でもさ、ガブリエルと宗家、見た目しっくりだよ、腰落ち着けなよ、」
草上、毅然と
「そうかな、系統から繋がり、付き合いも多いと、しっくりと来るものだろ、それはガブリエルの人なつっこさ故だよ、」
ガブリエル、はきと
「そうよね、保護者面も改めないと行けないかしらね、」
嘉織、堪らず純を一瞥して
「でもさ、ガブリエル、いつかは人間になりたいとか考えた事ないの、この瞬間、世界中の巷の天使も必死の決意なら、その意気分かるでしょう、」
ガブリエル、諭す様に
「嘉織、そこはね、ジョシュア・ツリーの前で皆と約束した手前、上家衆は勿論、人間の営みも見届けないとね、」
草上、溜息混じりに
「三笠ガブリエル慶子、この温和な名前気に入ってるんだろ、あんまり、お喋りが過ぎると、天界に連れ戻されるぞ、」
ガブリエル、凛と
「だから、あまり手出ししなかったでしょう、」
純、立ち上がろうも、渋谷に手厚く制され姿勢もそのままに
「えーと、あの、」
ガブリエル、満面の笑みで
「今度の質問は、純ちゃんね、そう、何かしら、」
嘉織、割って入ってはもどかしくも
「いやガブリエル、ええと、まあ、何と言うかべきか、そう、今の純って、」
ガブリエル、綻びながら
「大丈夫、純ちゃんは、寿命まで生きるわよ、」
純、ガブリエルをじっと見つめたまま
「何かな、言い回しがえらく長いですよ、でも天使とは違う様な、どうなんです、ガブリエルさん、」
ガブリエル、こくりと
「純ちゃんは人間よ、言い切るのは憚るけど、ここまでの秘蹟で私が後見を疎かにしたら、宗家もまあいいかで投げ出しちゃって、有耶無耶でしょう、それはいけないわよね、ねえ幸一、そうだったわよね、」はたと草上の肩に手を置く
草上、はきと
「まあ、大天使に適度にけつは叩かれるさ、」
シスター唯子、前に進み出ては
「先達、集めた純ちゃんの天使の羽根はどうしましょう、」
ガブリエル、聖堂をぐるりと手を翳し
「どこにも残ってはいないわね、回収は完了ね、シスター唯子、送り先は分かるでしょう、使節員はシスター唯子自らとし一任したいけど、お願い出来るかしら、」
シスター唯子、慇懃にも
「承りました、先達、仰せのままに、」
嘉織、かなり引き気味に
「うっつ、手慣れてる、送り先って、巷の天使は、本当の話なんだな、」
ガブリエル、頬笑みながら
「ええ、うっかり天使を見つけても、絶対気を使ってね、それはもう繊細なのよ、」
草上、ただうんざり顔で
「その大天使が、クリスマス前から、ワインのボトル手当たり次第空けるのもどうかだけどな、」
嘉織、目を見開き
「ワインもって、とことん酒豪だな、」
ガブリエル、事も無げに
「良いでしょう、ワインを木箱で送られて来たら試飲は最低でも一本飲み干さないと、結果好都合でしょう、皆さん一旦昔の事思い出すと、宴も長くなるから、グラスも進むでしょう、試飲のここは大切よ、ふふん、」
嘉織、つい聞き返しては
「えっつ、ガブリエル、宴って、クリスマスだよ、ここ聖堂だよ、何言ってるの、」
ガブリエル、頬笑んだまま
「そうよ聖堂よ、でもね、こんなに人足いるなら高輪世界復興記念聖堂のクリスマスを手伝って貰わないとね、年々礼拝者増えてるし、炊き出しも万全にしたいでしょう、その後の宴よ、」
嘉織、はきと
「なあガブリエル、大天使にもなると人使い荒いのか、こっちの黒スーツ一同は海戦控えてるんだぞ、人手は割けられない、」
ガブリエル、凛と
「良いの、そんなしけた海戦なんて年明けにしなさい、年内の出来事盛り沢山過ぎて行政が破綻しちゃうわよ、それにクリスマスは、より一緒の方が楽しいわよ、」ウインク一つ
純、不意に
「ええと、嘉織ちゃん、ここは何処なの、こんな大きい聖堂見た事ないよ、」
嘉織、透かさず
「純、ここまで長かったから、順を追ってお話するよ、暇な久住がさ、」頬笑んでは
久住、不意に緊張を解き
「さすが高台建設です、外に気配は感じません、純ちゃん、説明のお時間貰いますね、」
純、何度も
「久住さん、うんうん、」
ガブリエル、綻びながら
「嘉織、ほら見なさい、クリスマス迄付き合って貰うわよ、」
嘉織、思わず吹きながら
「まあ、これね、良い感じだし、良いか、それにまさかの大天使の宣託だし、疎かには出来ないか、そうだよね、それ、深作によく言っておくよ、深作きっと飛んで来るだろうな、ひひ、」
ガブリエル、はきと
「深作もね、巻き込まれての麗しのセニョリータの相談には乗ったわよね、そうね、シスター皆巻き込んで聖堂での根回しでとんとんに、あらまあ華やかな結婚式ですもの、と言うべきか、私をまだご機嫌なシスターと思ってるわよね、これ、もう言っても良いわよね、ねっつ、」
堪えきれずに爆笑する聖堂内一同
不意にクリスマスの準備を再開する聖堂の鐘が鳴り響き、冬の西日がステンドグラスを搔い潜って聖堂をよりオレンジ色に明るく照らす
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