第36話 2087年12月22日 深夜 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 悪夢

日を跨ぎ真夜中、階上幸或旅館前面にひれ伏す不逞の輩の山々に、不意にヘッドライトが過る

照明を落とすラシーンマークツー、燃焼しつくした極道連の車両を徐行しては通り抜け、各席のドアが一斉に開かれては、慎重に丘の上の階上幸或旅館へと


嘉織、ただうんざり顔で

「全く、誰だよ、後片付け考えないでしばいた奴、漣子そこまで雑だったか、」

純、飄々と

「でもね、この人足だよ、思ったよりは早いかな、まあ、美鈴ちゃんいるしね、怒らせ過ぎたかな、」

佐治、ただ制しながら

「ああ、嘉織さん、純ちゃん、見たまま捕縛して転がしてますが、義体は勿論、オートマシーンには近づかないで下さい、生命維持モードから復帰しかねませんからね、」


玄関前の床几に座る男が漸く立ち上がる


嘉織、声を張り上げては進み

「なあ、お出迎えなしか、東儀だけか、」

東儀、正面玄関より進み出ては

「嘉織、俺じゃ、役不足か、」

嘉織、憮然と

「そのジャケット、まだ残党がいそうだな、東儀がいても選りに選ってなんて言わせるな、」

東儀、はきと

「分かってるなら、それだ、その手が一番危険だ、全米海軍も残党狩りを早々に引き上げ、二階で万全の準備に入ってる、」

嘉織、歯がゆくも

「ふん、今時、ダイナマイトを体に巻いて特攻する輩がいる訳ないだろう、」

東儀、くすりと

「やけに具体的だな、」

嘉織、東儀にグーパンチを差し出し

「まあな、いたよ、ど根性、見てられないから導火線一気に吹っ飛ばして鎮火、良くダイナマイトに着火しないもんだよ、本気で爆発させたいなら補助の起爆装置用意しろよ、本当頭悪かったよ、」

純、口元が強ばるも

「嘉織ちゃん、笑い話じゃないよ、あの成分のきついダイナマイトの本数だったら、階上幸或旅館、柱が残るかどうかだからね、」

嘉織、林からの小さな足音聞き逃さず

「で、」

東儀、月明かりで漸く影の出来た、防風林の方向を指を差す

「来た様だな、」


防風林から、ぎこちなく転けながら這い出て来る男


吾妻組長、息継ぎも荒く

「ああ、散々だよ、階上、自前の兵隊がこんなに使えないなんて、そんな阿呆な事があるか、」

嘉織、向き直ってはうんざりと

「一目散に逃げたと思ったら、これか、吾妻組長、お前もしつこいな、好い加減極道から足洗え、」

堪らず玄関から飛び出す、美鈴

「嘉織、待って、一通り、制圧したのよ、用心して、」

東儀、はきと

「辛うじてゲリラ戦に赴いた強者か、さぞかしびびりながら、雪見シートから赤外線スコープで、この有様見ていたんだろ、嘉織、絶対距離を置け、」

嘉織、そのまま悠然と

「ふん、杖付きながら励むものだ、かかって来いよ、こら、」

美鈴、制しながら

「嘉織、煽らないで、しっくりこないわ、この違和感、何、」

嘉織、一人、吾妻組長に進み出ながら

「美鈴、気にするな、ここも火星もどうかしてる、頭のねじ全部緩過ぎる、こいつで、もう仕舞いにする、」

美鈴、声高に 

「だから、最初に吾妻組長をスキャンしたけど、生身だわ、吾妻組長、何がしたいの、致死に至る前に帰りなさい、戦争に善人などいないのよ、憤りながら死にたくないでしょう、」

嘉織、凛と

「来いよ、吾妻組長、さも満身創痍のなりだろうが、火星、あんなごつすぎる殺戮兵器まで用意しやがって、他の連中も真似をして来られたら、大迷惑なんだよ、良いか、歯向かうなら、全部砕いてやる、」

吾妻組長、大音声とばかりに

「階上、させるか、」不意に仕込み杖から抜刀し、よぼよぼにでも前進

美鈴、ただ声を張り

「仕込み杖、アンチブレードコーティング施すなんて、気を付けて嘉織、」

嘉織、はきと

「だから、砕くんだって、」

吾妻組長、忽ち餓鬼の様相に

「死ね、」


嘉織の振り翳した右手にリングがふわっと浮かぶと、吾妻組長の振りかぶった仕込み杖が瞬時に暴発し、衝撃で仰向けに吹き飛ぶ吾妻組長


吾妻組長、倒れ息も絶え絶えに

「はあ、はあ、とことん、甚振って大満足か、」必死に堪えながら

嘉織、にじり寄っては

「自業自得で、仕込み杖が炸裂しただけだろ、って、何で息が荒いんだよ、見てただけだろ、」ただ吾妻組長の襟を掴んでは

吾妻組長、歯を食いしばってこその

「これが、これが、致命傷、なんだよ、」

嘉織、掴んだ襟もそのままに

「だから、何が言いたい、」

吾妻組長、襟を掴んだ嘉織の手を、強ばった左手で握り掴み

「うっつ、鴆毒だ、」剥き身で持った砕かれた刃片を、右手で漸く振り抜き

東儀、ただ叫び

「離れろ、嘉織、」

嘉織、瞬時に躱すもアーミーコートの右腕を刃片で切り裂かれる

「つう、痛えな、」

東儀、声を荒げながら擦り寄り

「嘉織、鴆毒って言ったな、良いか、死にたくなければ全身の血を全部抜け、」

佐治、目を丸くしては

「これはまずい、嘉織さん、念動力で足の裏の血管から全ての血を出して下さい、」

嘉織、跪ついたままで強ばる吾妻組長の指をがっつり離す

「ふざけるな、東儀、佐治、って、」視線も虚ろにそのまま仰向けにばたりと、駆け付けた東儀にもたれ掛かる

東儀、舌打ちしては

「もう、全身に回ったか、まずい、ギフトの脳は致命傷だ、」

美鈴、はっとするも

「鴆毒、まさか、中華製の暗殺毒、何で吾妻組長が、」

佐治、強ばった吾妻組長掴んで吐かせようも、そのまま放り投げ

「全て吐かせようも、駄目です、こいつ、その鴆毒で死んでます、」

純、透かさず走り寄っては嘉織の右腕にすがり

「嘉織ちゃん、」

美鈴、嗚咽混じりに

「駄目、純を触らせないで、離して、」


純、覚悟のままに

「嘉織ちゃん、」両手が確と輝き


ただ一瞬の来光

嘉織、何度もの痙攣でぐったりと、ただ東儀に体を預ける


純、朗らかにも

「ああ、全部、抜けたね、」その場に崩れ落ちる

美鈴、泣きながら何度も東儀を叩き

「東儀さん、何故純を止めないの、」

東儀、ぽつりと

「秘跡には手出し出来ないのが、筋ですよ、」

美鈴、歯を食いしばりながら

「だからと言って、そう、東儀さんに嘉織を串刺しにして、血を全部抜かせる訳には行かないわ、」甲斐甲斐しくも、倒れた純を、脱いだコートを枕にそのまま地面に安定させる

東儀、沈痛のまま

「どれもこれも出来ない、これが俺の弱さか、」


玄関を飛び出して来る、漣子

「さっきの光り、純、純が、何をしたの、」

美鈴、純へと視線そのままに

「漣子、純は大丈夫、そのまま、嘉織の鴆毒そのものを取り込む事は無いけど、家に運んで、人口血液を繋ぐわ、」

佐治、ただ神妙に

「それが皆さん、私は鴆毒の二人程の症例を知っていますが、対処出来ません、東儀さんの言う通り全部の血を抜くが基本ですが、生かす為には仮死維持装置が必要です、ただ、この階上幸或旅館と沖合いの補給揚陸艦にそれは有りません、症例の一つ、駄目元で人口血液注ごうも、暗殺針で鴆毒を送り込まれた後では、血液のみがリジェクションを起こし、即死です、またもう一つの症例も、全ての血清、高純度人口血漿剤を試みましたが、それさえも侵食しリジェクション起こし死亡、現在に至り治療方法がまるで有りません、純ちゃんは直接鴆毒に触れていないもの、その治癒力故に未確定なリジェクションを起こしかねません、駄目です、この状態からの回復、誰も考えつきません、困りました、」

漣子、ただ詰め寄っては

「佐治さん、そんな事って、効く血清は有るでしょう、毒なんでしょう、この時代に効かない毒なんてないでしょう、化学式、絶対に有る筈よ、」

佐治、落ち窪んだまま

「その鴆毒、そこがかなり精巧を極めまして、対象が死んだら、鴆毒も消えるのですよ、」

東儀、嘉織を優しく抱いたまま、居を正し

「漣子むきになるな、鴆毒、所謂、皇帝殺し、何もかも噂で、もはや誰が作ったまでもが謎なんだよ、」

嘉織、青ざめた面差しに徐々に赤みが戻り

「寒いや、」


一同、その嘉織の回復を、ただ信じきれず息を飲む


美鈴、やっと我に返り

「嘉織、声の張りは戻ったわね、純が嘉織の鴆毒を抜いたのよ、」

嘉織、東儀に抱かれたままに、たどたどしくも

「毒を抜いたって、まだ、寒いよ、それより、死ぬのか、純、」

美鈴、純の脈を測っては

「いいえ、純にちゃんと脈はあるわ、ちゃんと生きてるわよ、」

漣子、漸く我に返り

「ええと、それでもね、念の為に純と嘉織の分もよね、取り急ぎ人口血液精製に入るから、原材料がある内に補充も充分に対処しないと、美鈴手伝って、今は純が先よ、」

美鈴、はきと

「純と嘉織の人口血液投入のタイミングは、検査試薬を丁寧に見てからしましょう、」

漣子、ただぽつりと

「そこか、定期的に純の検査はしてるけど、項目一切に不可は無いのよ、」

佐治、悩ましい気に

「さて、ここに至る迄の純ちゃんの困頓は、心理的要素ですか、ますますまずいです、純ちゃんが目覚めた時に人口血液の接種に気付いたら、それこそ心理的にリジェクション起こしかねません、」

東儀、嘉織の脈の鼓動を感じながら

「嘉織は回復しつつだが、これはかなりまずい状況だ、純ちゃんはこのまま床に伏せるしか手が無いだろうが、何れかの大病院に送り込まないと行けない、」

美鈴、ぽつりと

「東儀さん、今の日本国に、そんな付属大学病院の施設は無いわ、日本国の補助金政策は困窮の極み、医科大学は学生の為の教育機関になってるもの、」

東儀、歯噛みしながら

「帝京大学も駄目か、」

美鈴、溜息も深く

「同志社大学の医療施設の噂は聞くけど、何より遠過ぎるわ、移送の最中に万が一のリジェクションを起こしたら対処出来ないわ、」

嘉織、東儀の手を借り、漸く体を起こしては

「ああっと、よく聞け、八戸オールフェリー港のサンタ・ピアドソ号、きっと、行けば何とかなる、」唇は紫から仄かに赤く戻るも「東儀、寒い、このまま温泉に放り込め、」

東儀、神妙に

「おいおい、鴆毒つけたまま温泉に放り込めるか、身包み剥がしてここで流し終えるんだよ、」

美鈴、はきと

「核戦争用の防護服は一通りあるわ、それを使って、対処しましょう、」

漣子、ふと裏山を見やり

「まあ、ここ一帯清掃して、裏山深くに埋めようかな、」

美鈴、純のただ穏やかな顔を見つめたまま

「そうね、検査薬使って、仕込み杖の刃片と付着した全土回収しまして埋めましょう、」

佐治、前に進み出て

「いいえ、ここは全米海軍が回収させて貰います、今迄鴆毒は回収された事が一度も有りません、仕込み杖と腐葉土は無菌ビニール内に押収し、必ずや血清を作ります、」

嘉織、東儀の手を借りながら上体を漸く起こし

「やや思いだした、何で、極道にその鴆毒が出回ってるんだよ、中華の海外組織も幾つか潰したけど、それか、」

佐治、はきと

「何と言うべきか、今日の殴り込み、今や各国の思惑が入り組んで、何が目的かさっぱりですが、自律殺戮兵器ハンマーキュービックも出て来ましたし、この鴆毒も何れです、嘉織さんを今の内にどうにかしたいのでしょう、」

嘉織、くしゃりと

「胴元はあいつらか、亜細亜復権参画会議、会議で主要人物集まってはこれなのか、治ったら総力戦だ、」

佐治、とくとくと

「嘉織さん、それは有り得ません、亜細亜復権参画会議は確かに物騒な面子が集まっていますが、良識者もいるので強行意見は絶対採択されませんよ、万が一でも有りますが、熱砂難民の対応を差し置いて、諸案が強行採択されたその時は、全米最高議会も動きます、不穏一掃は必ずや担保されます、」

嘉織、しかめ面も

「たく、全米いなきゃ、ままならないなんて、」

漣子、声を荒げ

「嘉織、今は純でしょう、それで、純が巻き添えなんて、」

美鈴、安堵するも

「漣子、まだ、純は死んだ訳じゃないわ、階上家の一員なら、覚悟の上よ、そういう事よ、」

漣子、尚も

「美鈴、あなたは姉妹なんでしょう、何なの、慌ててたじゃない、」

美鈴、はきと

「そうね、純は放っておけないわ、でも、純は死なないの、これは私の予知よ、」

嘉織、横にされた純を見据えたまま

「ああ、きっと純は大丈夫、ちゃんと目が覚めるよ、それより吾妻組長の死体って、警察受け取ってくれるのか、」

東儀、尚も嘉織を支えたまま

「嘉織は良いから、日本国の警察が、七面倒くさい民事に介入するのか、あとは全米に任せておけ、」

佐治、慌ただしくも指示を繰り出しながら

「そうです、県警は青森市でいつも様子見です、書類数枚出して完了です、火星に塞がれた交差点に関してはいつもの事と、ご近所の車両が回り道してくれる筈なので、何卒、ご安心下さい、」

美鈴、全米海軍の進行具合を見ながら、凛と

「まず嘉織、後は誰にも触らないで、ここで全部下着迄脱ぎなさい、回収よ、私達の分も回収しないと、そして、きれいにしないとね、」

嘉織、目を丸くしては

「あわ、美鈴、ふざけるな、脱げって、冬だぞ、しかもこの準備あれか、この厳冬の空で洗い流すのか、私でも心停止するよ、許してよ、」

漣子、ビニール手袋を手際良く装着しては、嘉織に近づいては忽ち衣服を剥ぎ取りながら

「嘉織は、良いから、脱ぐの、はい、腕も足も楽にして、」

美鈴、くすりと

「皆、見ないでね、嘉織、これでも嫁入り前なのよ、」

佐治、懸命に指示しては、運び込まれる回収機材一式、子供用プールはただ水張られたままに

「嘉織さん、子供用プールの真水はたっぷりです、全身浸かっては二分そのままですよ、出来ますよね、我慢出来ますよね、」

嘉織、漣子に真っ裸にされ、何とか前を隠しながら

「佐治、本当に、真水かよ、冷たい真水かよ、ここは温泉だろ、そうしようよ、」

佐治、嘉織に向き直るも、完璧な程に目を覆ったまま

「嘉織さん、残念ながら、温泉では成分が混ざってしまいます、さあ、心頭滅却ですよ、ガッツです、」

嘉織、真水の子供用プールを見ては、がくがくと

「さむ、この厳寒なのに、これに入れって、駄目駄目、生きてるからいいだろう、」そのまま逃げようも誰かにがっちりと

東儀、ビニール手袋で、嘉織の腕を掴みながら

「嘉織、逃げるな、良いから、浸かれ、そして間違ってもプールの水を飲むな、付着した液で血を吐くかも知れないからな、」

嘉織、片腕で前面を恥じらいながらも隠し

「まじか、って、私のこの姿、見えるよな、」

東儀、凛と

「嘉織は阿呆か、今は生きるか死ぬかだ、羞恥心を飛ばせ、今すぐだ、」不意に掴んだ右腕の鮮血をコットンで拭っては「それにこれを見ろ、斬られた刀創も純ちゃんが丁寧に繋いでる、鴆毒の二次接触で死ぬ所だったぞ、」

嘉織、隠そうともせず素裸のまま号泣も

「だから、純、頑張り過ぎなんだよ、もう、」

佐治、尚も目を覆ったまま、宥めては

「嘉織さん、順調にいけば、洗い流してから、検査シート隈無く貼り、5分間反応確かめます、」

嘉織、改めて寒さに震え

「鬼か、佐治、こんな厳冬の空で、素裸で、しかも真水に浸かれって、って待て、佐治、反応出たらどうなる、」

佐治、ただ目を覆ったまま、理路整然に

「気長に2セット3セットです、嘉織さん、頑張りましょう、」

嘉織、愕然と

「或る意味、死ぬ、」茫然も、慇懃に全米海軍の救護班から緩和針を動脈に刺されては簡易血液検査に回される


ただ身体を丸め子供用プールに浸かる嘉織、二分経過しては上がり、震える素裸のままに検査シートを体中に貼付けられ、白い息も次第にまばらなほどに時を待つ

簡易血液検査と検査シートは異常値無し

そして念の為2セット目、鴆毒の付着を確認し、検査シートの異常無しの所見を待っては、異常値無しの判定、嘉織堪らずバスタオル一枚で隠しては、凍えきったまま素足で館内のはしかみ大温泉浴場へと駆け抜けて行く


純も漣子によって、素早く着替えを済ませ、担架に乗せられては特設された館内幸或ホールへと運ばれて行く


残った一同、念の為に着替え終え、検査シートで確認しては一安堵するも、今度はただ雪道に転がる数々の不逞の輩を見ては溜息を着く

美鈴、ただうんざりと見据えたまま

「こいつらも残ってるのよね、」

佐治、困り顔も

「電磁錠ですから、体内起動もしないでしょうが、さて、身柄引き渡しもこれだけ多いと護送車多めに呼びませんとね、」

美鈴、身包み剥がされ厳重に封印される安置袋を見てはぽつりと

「あとは、吾妻組長の安置よね、」

佐治、苦々しくも

「まあ、死んだのなら、検査もしましたが、やはり鴆毒も消滅しました、荼毘に付しても問題はないでしょう、」

美鈴、はきと

「死んだ吾妻組長も、組員なら持って帰ってくれるわよね、」

東儀、うんざり顔で

「態々、本州最北端に同行したんだ、義には熱いだろ、」

美鈴、思い倦ねては 

「そうかしら、全組員、火星の襲来をやや知り切り上げ様の素振りも、火星は自律殺戮兵器なんでしょう、襲来後は必ずや皆殺しよね、あそこで嘉織がもし出なかったら、その後真っ先に圧死だったわよね、その真実を知ったら、吾妻組長を見下げないかしら、そんなの、遺体絶対持ち帰らないわよね、」

佐治、溜息も深く

「そうですね、奮い立たないからって、可愛い組員まで皆殺しにしますかね、まあ、火星と対峙した限り、見境無く驀進しましたから、やはりぺしゃんこですね、このまま吾妻組解散が自然の流れでしょうね、」

東儀、唾棄する様に

「いや、いかれた変態の生理は独特だ、吾妻組には火星の驀進の事は伏せておこう、万が一釈放されてやけになられては、皆が困る、」

佐治、思いも深く

「ですが、火星の起動に張り付いていた屈強なオートマシーンがいますので、何れの経緯は明らかになるかもしれませんね、」

美鈴、はきと

「オートマシーンの何れにも、更生プログラムが有るわ、きちんと従って貰いましょう、」

東儀、吐息混じりに

「それ、義体にも何とかならないものか、」

佐治、悩まし気に

「東儀さん、生身の身体が大半の義体では洗脳になってしまいます、そうなれば悪い輩に取り籠められ純粋の体にも何れはです、洗脳で新たな王国を作られますよ、」

東儀、遠い視線も

「そうだな、悪い、これは言ってみただけだ、」

美鈴、ただ階上幸或旅館を見上げ

「漣子が呼ばないって事は、純は助かるのかしら、」

東儀、伺っては

「美鈴は、結局弱気なのか、」

美鈴、ついほろりと

「そうね、普段の純を見届けていると、どうしても考えてしまうわ、」

佐治、支給された手持ちのハンカチのパッケージを破り、美鈴へ

「美鈴さん、純ちゃんは、最初の検査試薬では外も内も所見無し、つまり、純ちゃんの体質から行って、鴆毒そのものは化学上新たに生成されていません、ただですが、症状としては、全部負っている可能性が有ります、ここは純ちゃんに直接聞いてみないと分らないのが胸の痛む所です、」

美鈴、佐治からのハンカチを受け取っては目頭を押えたまま

「そう、純は隈無く治癒は出来るのよ、ただね、その後の後遺症がやや残ってる事、ここ一言も言わないから、その仕組みは何とも言えないわ、」

東儀、毅然と

「ここは言わせてくれ、」胸に手を当て「比較すべき対象が恐れ多いが、イエスは、全ての業を背負われた、それでも復活を経て生きておられる、ただ御心に縋り、純ちゃんの峠を越えるのを願うしかない、」

美鈴、ただ涙が堰を切り

「主は、ただその痛みを背負っていたのですね、純、生きて、お願い、」


一同丹念に十字を切る

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