第20章 ただいま 4

 病院での診察を終え、雄介たちは家に帰宅していた。

 記憶が戻った雄介のために、紗子は料理に精を出し。

 玄は雄介と共に買い出しに向かっていた。


「久しぶりだね、こうして二人で出かけるのは」


「そうですね、玄さんと会うのすら久しぶりでしたし……お忙しい中、本当にすいません」


「いや、むしろ僕は良い機会だと思ったよ。家を空けすぎるのは……やっぱり良くないってね……」


 玄は自分が家庭という場所に今までなかなか帰れていなかったことを悔いていた。

 もっと家族との会話を大事にしていれば、雄介はあんなことを考えなくて済んだのではないか。

 そんなことを玄は最近よく考え、決めたことがあった。


「雄介、僕も紗子さんと同じで、これからは家から通える職場に移動させてもらうことにしたんだ」


「え、大丈夫なんですか?」


「あぁ、新人も育ってきたし、後釜も見つかった。それに、前も行ったけど、僕は仕事より、愛する家族の方が大切だからね」


「そう……なんですか……」


「そう気にしないでくれ、雄介のせいじゃないよ。遅かれ早かれ、考えていた事なんだ」


 何を言われても、今の雄介はやっぱり気にしてしまう。

 自分のせいで、両親の職業にまで影響を与えてしまった。

 今考えると、雄介は昔の自分はなぜあんなにバカだったのかと思う。


「雄介、僕たちは家族だ。雄介の問題は家族である私たちの問題でもあるんだ、だから気にしなくていいよ」


「……はい」


 車を運転しながら、玄は優しい笑顔で雄介に言う。

 話をしているうちに、スーパーに到着する。


「さて、頼まれた物を買っていこうか」


「はい、平日だからやっぱり空いてますね」


 やってきたのは、ここら辺では結構多き目のスーパーで、なんでも売っており、雄介も良く利用する馴染み深いスーパーだ。


「えっと……まずはピーマンか……」


 玄は紗子から預かったメモ帳を見ながら、何を買っていくのかを確かめていた。

 野菜売り場にやってきて、玄はメモを見ながら真剣表情で雄介に尋ねてくる。


「雄介……ピーマンってなんでこんなにいろんな色があるんだい?」


「は、はい?」


 玄はピーマンと赤いパプリカを持ちながら雄介に尋ねてくる。


「あの……赤いのはパプリカかと……」


「え、これは色違いのピーマンではないのかい?」


「ちがくも無いかもしれませんが、それはパプリカで、ピーマンではありません……」


「じゃあ、春雨はどれを買ったらいいんだい?」


「あの……なんで糸こんにゃくをもって来るんですか!」


 雄介はそこで気が付いた。

 玄は単身赴任や海外出張などが多く、晩飯などをコンビニのお弁当やお店で済ませることが多く、料理を全くしない。

 しかも、あまり食に興味がある人でも無いので、料理の初歩的な知識もあやふやな様子だ。


「玄さん、俺が言うものを籠に入れてもらっていいですか……」


「うーん、なんでこのレタスとこっちのレタスは値段が違うんだ………」


「それ、片方はキャベツです……」


 久しぶりに玄と二人になり、雄介は再確認する。

 玄は基本良い人だし、常識人なのだが、食に関しては素人で、何も知らない。

 そのため、簡単な料理も作れない。

 買い物なんかを頼めば、全く違うものを買ってきてしまう。

 そのため雄介は一緒に買い物に来たのだ。


「面目ない、やっぱり料理は難しい……」


「玄さんのは料理以前の問題ですよ…」


 帰りの車の中でそんな買いをし、夕焼けの中を車で帰宅する雄介と玄。


「初めて会った日の事を覚えているかい?」


「はい、よく覚えています」


「紗子の後ろに引っ付いて家にやって来たのを僕も覚えているよ。あの頃は、子供なのになんてしっかりした子何だろうって感心したのと同時に、全く笑わない雄介が心配だった……」


「玄さんは最初、あんまり話かけて来なかったですもんね」


「そうだね、正直言うとどう接したら良いかわからなかった。でも、僕が出張のお土産で買ってきた外国の飴を嬉しそうに食べていたのを見て、この子もちゃんと笑えるんだなって、安心したよ」


「懐かしいですね……それからでしたね、玄さんと打ち解けたのは」


 二人で昔話をしながら、男水入らずで会話に花を咲かせる。

 今村家では、女性陣がどうしても強い力をもっており、玄と雄介はいつも苦労していた。

 こうして二人きりで出かけることは本当に少なく、女性陣が居ないのは久しぶりだった。


「雄介、もういなくなるなんて言わないでくれよ。紗子と里奈が悲しむからね……」


「はい……今回の事で良くわかりました。自分がどれだけバカだったのか……」


「なら良いよ。僕も雄介居酒屋に行ってお酒を飲むのが夢だからね…」


「その時は、紗子さんと里奈さんは抜きで二人でお願いします」


「ハハハ、確かにそうだね、あの二人が居たら大変だ」


 そんな話をしているうちに、雄介と玄は家に到着した。

 家に帰ってみると、なぜか家の中が何やら騒がしいことに、雄介と玄が気が付いた。


「お客さんかな?」


「見たいですね……う……なんか急に嫌な予感が…」


「大丈夫かい?」


 身震いしながら、雄介は車を降りて自宅のドアを開ける。

 すると中には高そうな革靴が一足と女性物の靴が二足会あった。

 それを見た瞬間、家の中に誰が居るのか察しがついてしまい、頭を押さえて悩む雄介。

 一旦外に出て落ち着こうとするが、それより先に、予想通りの人物がハイテンションでリビングのドアを開けて雄介の方に駆け寄ってきた。


「おぉ!! 雄介君! 記憶が戻ったそうだね! 紗子さんから話を聞いて飛んできたよ!」


「ど、どうもありがとうございます……星宮さん……」


「そんな他人行儀に呼ばないでくれ、もっとフレンドリーにダディと……」


「アハハ、本物のダディがここにいるんだけどな」


「おぉ、玄君。君とも色々話をしたかったんだ、やはり親戚同士になるということは……」


「ご主人様、御二人とも寒い外から帰っていらしたのです。そう玄関で足止めをしては、気の毒では?」


 後ろから現れた倉前が、徹に優しく言う。

 すると徹もそのことに気が付いた様子で、雄介達に言葉をかける。


「おっと、私としたことが申し訳ない、舞い上がってしまっていてね。部屋で話をさせてはくれないかい? 客人なのに図々しくて申し訳ない」


 倉前に助けられ、雄介と玄はようやく家の中に入ることができた。

 

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