第15章 文化際の開始12

 繰り返される人体実験。

 まだ幼い男のは、ものの数日で泣きわめくという行為を辞めた。

 そして二週間、薬の試作品は完成し、実験の最終段階が進められていた。


「おやおや~、随分大人しくなったね~」


「滝沢さん、本当に貴方がこの子の実験相手をするのですか?!」


 何もない、ただ真っ白の広い部屋に、子供と研究院、そして滝沢が居た。

 研究員は必至で滝沢を説得しようと試みるが、本人はまるで相手にしない。


「うるっさいねぇ~、私は退屈してんの! この試作品を私も体に打てば、超人になれるんだろ?」


「そ、それは…そうですが! 貴方の身に何かあれば、我々研究員は全員殺されてしまう! 考え直してください! 薬の最終調整が済むまでは、成人の人間への薬の投与は危険なんです!」


「あー!! うっさい! 私がやるって言ってんの! 文句あるなら……あんたの額に今から穴が開くよ」


「ひっ!!」


 滝沢は研究院の額に拳銃の銃口を突きつける。

 研究員の顔は見る見るうちに青ざめ、観念して滝沢に薬を渡した。


「さっさとよこしな! まったく、どんくさいね~」


 滝沢は何のためらいも無く、薬を注射器で体内に取り入れる。

 すると、しばらくして滝沢の体がうっすらと黒く変色しはじめ、瞳も黄色く変わった。


「へ~、これが……あは! アハハ!! 最高だ! 全身の筋肉が動きたがっているのがわかる! アハハ!!!」


 狂った笑いを浮かべる滝沢。

 研究員はそんな滝沢から逃げるように部屋から飛び出し、子供は相変わらず、虚ろな目で滝沢を見てボーっとしていた。


『そ、それでは実験を始めます。子供には既に薬は投与済みです。それでは初めてください』


 アナウンスが鳴り、滝沢は笑うのをやめて、子供を見て言う。


「アハハ! どうしたクソガキ? あの時みたいに飛び掛かって来ないのかい?」


 子供は滝沢の言葉に反応して、一気に戦闘態勢に入る。

 床を蹴って、子供は滝沢の元に飛んでいく。

 先ほどまで子供が立っていた床にはヒビが入っており、子供のキック力の大きさを物語っていた。


「う…ぐはっ!」


 滝沢は飛んできた子供からの強烈な一撃にお腹を押さえる。

 しかし、うずくまる事も苦しがる様子もない。


「アハハ!! すごい! まったく痛くない! これが薬の力か! アハ……アハハ! 最高だよ! フン!!」


「う!」


 今度は滝沢が子供を殴る、子供は壁まで殴り飛ばされ、壁に張り付くようにして打ち付けられる。

 子供はそのまま床に落ちて動かない。


「あれ~、なんだ死んだのかい? そんな訳ないよね~? あんたはもう化け物なんだから! あ、私もか~、アハハ! さぁ~続きをやろうよ! 化け物同士仲良くさぁ~」


 それからは、一方的な滝沢のリンチだった。

 子供も何とか応戦するが、やはり知能はまだ大人に勝てない。

 体格さも大きくあり、子供は結局ボロボロになるまで、滝沢に殴り続けられた。


「弱っち~ねぇ~。これじゃあ相手になんないよ。 これからはあたしが毎日あんたをいたぶってあげるから、いたぶられながら強くなってよ~。これじゃあ、商品にはまだまだ程遠いんだからさぁ~」


 滝沢はそう言って部屋を後にした。

 入れ替わりで研究員が部屋に入ってくる。

 子供の身体状況を確認するためだ。


「まったく、あの人も加減を知らない……モルモットが死んだらどうするつもりだ……」


 子供をモルモットと呼ぶ研究員。

 すぐさま子供に睡眠薬を投与し、傷の手当をさせるために抱え上げる。

 すると、次の瞬間、研究員は驚きで言葉を失った。


「こ、これは!」


 研究員が驚いた訳、それは子供の傷の癒えるスピードだ。

 先ほどまであった、打撲やあざが無くなり、額から出ていたはずの血が止まって傷が塞がっている。


「な、なんてことだ………」


 研究は超人を造る、このコンセプトが元であったが、どうしても人を商品にする上での問題があった。

 それは、病気やケガだ、超人と言っても元は人、怪我や病気で死んでしまったり、使い物にならなくなってしまう場合がある。

 この計画での一番の問題であり、解決すべき難題だったが、この瞬間にすべてが解決した。


「フ…フフ……フハハ!! やったぞ! これで完成する! 最強の回復力と最強の身体能力を持った人間が!!」


 研究員はすぐさま子供の研究を開始、そしてわずか数日で改良された薬が完成した。


「偶然とはすばらしい、そしてあのモルモットには感謝せねばな……檜山先生の息子……檜山雄介君」





「それから数日で、警察が来てね~。私は逃げたんだけど、研究員はほとんどが牢屋の中。研究結果とサンプルを持って逃げた一部の人間で計画は完成されたってわけさ」


 話終えた滝沢は相変わらず狂ったような笑みを浮かべる。

 すべてを聞き終えた雄介のクラスメイトや友人たちは驚きで言葉が出なかった。

 SF映画のような話が、現実に存在しクラスメイトがそんな実験に巻き込まれたなんて、誰一人として思いたくなかった。


「あれから十年、俺の体は薬を打たれなくなり、普通の体に戻りつつあったが、治癒能力だけは消えなかった。簡単な擦り傷なんかは物の数秒で消える。……わかっただろ、俺は化け物なんだよ……」


「アハハ! そうさ! あんたは化け物だよ! アハハハ! 化け物が人間に戻ろうと、必死で普通の生活をしていたのに、また戻ったねぇ~」


 滝沢は雄介にそう言いながら、自分も懐から雄介と同じアンプルを取り出す。


「これは改良に改良を重ねた最新の薬だよ~、昔の薬で対抗できるかねぇ~」


 滝沢は話しながら、薬を体に打ち込んだ。

 滝沢の体がうっすら赤くなっていき、最後は目の色が黄色に変色した。


「あぁ~最高……この感覚! この溢れる力! 最高だ! 最高だよ!!」


 薬を打ってご満悦の滝沢。

 人間とはまるで異なる肌の色になった二人を人質の皆は黙って見ていた。


「さぁ~って、楽しい楽しい殺しの時間だぁ~」


「滝沢ぁ! お前何をする気だ!!」


 薬を打ち終えた滝沢が向いた方向は雄介の方ではない、人質として囚われている雄介のクラスメイトや友人の方だった。


「言っただろ? あんたの大事な物を全部壊すって……そうだねぇ~、手始めにお前を殺そうか……」


「え! わ、私??」


 滝沢が指名した人物、それはメイド姿の江波だった。

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