小さな娼婦編 第3話

 宿の一室で、アレサと名乗った少女は雷砂らいさに促されながら自分のことを話し終え、一日の疲れがでたのか自分よりずっと年下の少女の膝を枕に眠ってしまっていた。


 アレサが眠ってから戻ってきたセイラは、雷砂の膝枕で眠る少女を見て何とも言えない顔をしたが、諦めたように小さな吐息を漏らした。

 雷砂の天然女ったらしぶりにはもう随分慣れてしまった。

 本人に自覚があってのことではないから、怒るに怒れないのだ。

 仕方ない。これも惚れた弱みだと、諦め混じりの心境で雷砂の隣に腰を降ろす。ぎしりと、小さくベッドが鳴った。



 「その子、だれ?」



 少女を起こさないように小さな声で話しかける。

 雷砂は柔らかく微笑み、お帰りとセイラの頬に唇を寄せた。



 「さっき酒場からジェドに連れ出されたときに会ったんだ」


 「ジェドの奴、雷砂に悪いこと教えようとしたんでしょ?」


 「うーん、どうかな。ジェド達は他の女の人達に連れて行かれちゃったよ。あの人達も、最近この町に来る旅人が減って仕事が減っちゃったらしいから、お金を落として上げるのは良いことだと思うけどね」


 「ジェドが何をしようと関係ないけど、雷砂を巻き込もうとするところが腹立たしいのよ。いい気持ちで飲んでて、気が付いたら雷砂の姿が見えなかった時の私の気持ち、分かる?」



 唇を尖らせるセイラの顔を見上げて、雷砂はその唇にそっと自分の唇を押し当てる。

 彼女の気持ちをなだめるように。



 「ごめん。オレも、断りきれずに連れ出されちゃって。その後は、アレサの事を、見過ごすことも出来なくてさ」


 「アレサって言うの?その子」



 ほんのり頬を色づかせ、それから雷砂の膝に頭を乗せた少女をそっとのぞき込む。

 まだほんの子供の様だった。

 子供と言っても、雷砂よりは年上だろうけれども。

 だが、涙に濡れた頬が痛々しく見えるくらいには子供に見えた。



 「いくつ?」


 「15歳だって。お母さんが病気で、仕事も首になってお金もなくて、思い詰めてよりにもよってオレに身を売ろうとしたんだよ」


 「15歳ってまだ十分子供だわ。まあ、子供でいられない子供も多いのが現状だけど。で、雷砂は助けてあげたいんでしょ、その子のこと」


 「うん。見捨てられない」


 「その子みたいな子は世の中に山ほどいるわよ?」


 「分かってる。その全てを助けられると思うほど、オレは傲慢じゃない。けど、関わっちゃったからな。セイラ、呆れてる?」


 「うーん、ちょっとね。でも、それでこそ雷砂だわって思う。そんな雷砂が、私は好きよ」



 セイラは、雷砂を見つめて微笑む。



 「ありがと、セイラ。まずはアレサを家に送りながらお母さんの様子を見てくる。薬の分野なら、オレでも役に立てるかもしれないし。お金は、まあ、ちょっと考えてみる」


 「私も、少しなら蓄えてるけど」


 「これは、オレのわがままだから。出来るだけ、オレだけでやってみる。どうにもならなかったら、相談するとは思うけど」


 「わかったわ。でも、無理はしないでね?怪我なんかしたら怒るからね?」



 心配そうなセイラの声に、雷砂は頷く。

 彼女の頬に手を伸ばし、優しく撫でながら、



 「絶対とは言えないけど、努力はする。セイラを、悲しませたくないから」



 生真面目にそう答える。

 ここはただ約束するって言っておけばいいのに、いい加減な嘘をつけないのが雷砂らしいと、セイラは柔らかく微笑み、頬にふれる小さな手のひらに頬をすり付けた。



 「ええ。私を悲しませないで。気をつけていって、早く、帰ってきて。待ってるから」


 「えっと、遅くなるだろうし、先に寝てても」



 いいよと言おうとした雷砂の言葉を皆まで言わせずに、



 「嫌よ。今日は雷砂を抱き枕にして寝るって心に決めてるの」



 セイラはそういって、にっこりいい笑顔で笑うのだった。



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