2088年 Reborn
第44話 2088年1月17日 ローマ参画政府 ヴァチカン市 サン・ピエトロ広場
年も改め2088年1月17日 木枯らしの舞う土曜昼下がりのサン・ピエトロ広場 白いコートのうら若き日本人女性の25鍵のミニアコーディオンが聖歌を奏でては、賑わう聴衆 それを尻目に、ただ閑散とする日本人フォークトリオ
花彩、ついタンバリン叩いては
「最上さんいつまでやるんですか、ギターと刀と舞踏で盛り沢山でも、ずっと、あちらに敵いませんよね」
莉津、ハーモニカを丹念に拭いては
「そうそう、あのミニアコーディオン、2オクターブの鍵盤しかないのに沁みまくりですよ」
花彩、不意に
「あのミニアコーディオンの方、『あなたの向こうで』の特別編で見たような、ですが」
莉津、溜息混じりに
「そういう花彩も、『あなたの向こうで』の本編でかなり活躍したのに、あっちの方に行かれちゃうなんて、やはり日本人は皆一緒に見えるのかな」
最上、アコースティックギターのチューニングを再調整
「まあまあ、俺が来週アジアに帰る迄頑張ろう、なっ、」
花彩、剥れるも
「いいな、私もアジアで働きたいですよ」
最上、くすりと
「アジア地域はシドニーも管轄だからって実家に中々帰れないからな、それにまだまだ研修とかあるんだろう、当分ローマから出れないぞ」
花彩、思いを巡らし
「研修も勉学も何も、全学年順位が無いと張り合いが無いですね」
最上、感嘆
「聞いたよ、誰かのせいで全学年順位が撤廃されたんだろ、まあ愕然とするだろうな」
花彩、後ずさり
「そんな、最初の学期で1クラス消えたのは私のせいではないですよ、」
莉津、苦笑しては
「いやいや、入学したてからの冬休みまでに手を打たなかったら、5クラスは消えていたと、潰滅の危機だったそうですよ、皆の根性を見せて欲しいよね」
最上、くすりと
「二人、誰に聞いたんだ」
莉津、即答しては
「ええ、葉村学長ですけど」
最上、思案顔で
「ははん、もっと際どい事言えないだろな 最年少の花彩に負けて膝を屈したなんて、精鋭として送り出した各教会がケツ叩いてもそれだからな、引き下がるのも英断だよ」
莉津、只管頷き
「改めて、恐るべし花彩」
花彩、思いを巡らし
「ふむ、そう言えば、いつの間にか倫理が半分になりましたね」
最上、微笑
「そりゃそうだ、花彩と競わせた所で、ギスギスするからな」
対面から歩み寄って来る、ミニアコーディオンを持った日本人女性
「最上さん花彩さん莉ちゃん、改めて初めまして、全米連邦バージニア州ヨハネス教会の茅野と申します」一礼「まだ、演奏されるなら、一緒にセッションしません」
莉津、恐縮しては
「いやいや、茅野さん上手過ぎて、照れ臭いですよ」
茅野、頬笑んでは
「そんな莉ちゃん、楽しければ、皆さんに伝わります」
莉津、不意に
「ん、あれ、何で私を知ってる素振りですか」
茅野、くすりと
「ええ、天上さんのお嬢さんですよね、昨年のクリスマスミサ、一緒にお手伝いしましたよね」
莉津、悩まし気に
「えっつ、人多いし挨拶忘れたかな、どうもすいません、ええっと教会なら、やはりシスターなんですか」
茅野、姿勢を正し
「ええ、条件付きの司祭です それより如何ですか、最上さん花彩さん莉ちゃんも、一緒にセッションしましょうよ」
最上、目を見張るも嫋やかに
「俺も知ってるんだね」
花彩、窘める様に
「最上さん、私達は『あなたの向こうで』でやや有名ですよ」
茅野、淡々と
「ええ、『あなたの向こうで』厳選シリーズは何遍もビデオを見ましたよ、昔のビデオテープの品質なら擦り切れる程にです」溜息も深く「はあ、堂上さんのシーンは何時見ても切ないですね、あの阿呆、米上さんのブローチにホテルでの独演の様子全部録画されたの知らないのですかね」
莉津、目頭を押さえては
「やばい、そこ胸一杯で泣ける」
花彩、視線も遠く
「堂上さん、依然として生死不明ですね」
最上、凛と
「堂上さんなら、生きてるよ、」
茅野、嘆息
「最上さん、それ、米上さんに会ったらちゃんと言って上げて下さいね、『あなたの向こうで』放送前のクリスマスミサでベールで顔隠してましたが、泣きながら祈ってましたよ」
最上、事も無げに
「米上さん、まだローマにいるの」
茅野、従容と
「いや、それは、気が付いたら席が空いてましたから、堂上さんを探しに行かれたと思います」
莉津、食い下がっては
「いやーどうかな、年末の大型特番『あなたの向こうで』見られましたよね、そこは関門トンネルの大爆破ですよ、呆然ですよ、あの危険極まりない関門トンネルから、さすがに堂上さんは生きてはいないかな こうのとりさん“必ず生きて現れるでしょう”とナレーションで言ってたけど、あの崩落ですよ、絶対無理」
最上、諭す様に
「莉ちゃんも花彩も茅野さんも、武士なら、生きる術全て使うさ、生きてるよ」
花彩、凛と
「分かりました ですが問題は米上さんですね、あの刺激なら今頃立っていられませんよ」
茅野、前に進み出ては
「大丈夫、希望はちゃんと天上さんに持って来ましたから、天上さんなら良きに計らってくれる筈です」
莉津、訝し気に
「ふむ茅野さん、堂上さん米上さんとお知り合いなのですか」
茅野、笑みが溢れる
「ふふ、結婚式の執り行いさせて頂きました、記念すべき最初の夫婦ですよ」
花彩、色めき立っては
「それ、『あなたの向こうで』のお話の中の小高い丘の教会ですね、ああ見ましたよ、特番の最後の堂上さん米上さんの結婚式差し込みと、年明けの特別番組の検証追跡インタビュー、あのベール姿、やはり茅野さんなんですね」
茅野、頬笑み
「ふふ、お陰で、ヨハネス教会に人が沢山押し寄せるのではと取材段階で配慮され、モアーズ神父より暫し研修との名目でローマに寄越されました」
最上、苦笑しては
「お陰で、商売敵増えたよ」
茅野、嬉々と
「最上さん、一緒に楽しみましょうよ」
最上、徐にオープンのGコードをアルペジオ
「どこのシスターも手強いね」
花彩、毅然と
「最上さん、茅野さんは条件付きの司祭さんです 依頼があればローマ参画政府は拒否は出来ませんよ」
茅野、最上に手を差し伸ばす
「それは、大事に取っておきますね」
最上、茅野の握手に応える
「絶対、駆け付けますよ」
次第に集まって来る観衆が、つい痺れを切らし
「茅野さん、アリアお願い」
「ねえ最上、歌まだなの、聞いてあげるわよ」
「イエー、ジャパニーズポップス」
茅野、破顔
「最上さん、ほらほら、皆お待ちしてますよ」
最上、立ち上がり、ギターのストラップに体を通す
「それじゃ十八番の曲『彼女のスクーター』、茅野司祭、竜崎豊行けますよね」
茅野、微笑
「ええ、キーはGですね」軽やかにイントロを奏でる
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