第43話 2087年12月31日 日本国 東京県 大江戸市 大江戸テレビ局内

第三次世界大戦、関東に5度の原爆が落とされてから久しく、東京都から東京県に縮小された行政区大江戸市 その港区内にあるテレビ局大江戸テレビ局内 


年の瀬、ラベルと殴り書きのコメントが貼られたビデオテープが山積みのディレクタールーム 前面の大型編集モニターに食い入る『あなたの向こうで』スタッフと関係者達 ただ大わらわと悶絶の限り


ジャケット姿の司会沢田、進行表見ては不意に

「真壁、あと8時間だ、仕上がるのか」

ボブカット姿の真壁、遂にディレクター自ら編集の手伝いも、目を見開く

「いやー繫ぎがしんどいですよ、後半張りばかりですよ、前半のミステリー箇所消化しきれてますかね」

四十路のこうのとり、髪を掬い、事も無げに

「何の為に、私がナレーション入れるのよ」

真壁、けんもほろろに

「いや、今から改めてナレーション入れ不可能です、放送作家さんお手上げになってしまいました、もう」

こうのとり、したり顔

「生なら、問題ないでしょう」

真壁、阿鼻叫喚

「うわーーそう来るかー、12時間生放送でそうきますか」

沢田、スタンディングオベーション、皆を促す

「皆さん、こうのとりさんの本気頂きました」


一同只スタンディングオベーション


真壁、果敢にも

「いやーありがとうございます、これで大分ショートカット出来ます でもですよ、大体、集まりに集まった資料映像含めこれ全部編集しろなんて無理ですよ、今日迄出来たと思ったら何回大幅修正に差込、ああ結局バランス悪くなって、その都度一から、もー泣きたいですよ そう、放送も年も跨いで、このたくさんの資料映像でのべ何時間あるんですか、この集められたビデオテープの山、山、山、いいですか絶対ラベルとコメント剥がさないで下さいね、取り返しつかなくなりますよ そうだ、今からでもイーストビジョンに手伝って貰いましょう、いやーなんで気が付かなかったかな、」

阿南、微動だにせず

「それは駄目だ、頑張れ真壁」

真壁、咆哮

「うえー、」

軽駿プロデューサー、事も無げに

「それはしゃーないね、お歴々から真壁新ディレクターに御指名や、12時間番組終ったら、全米のイーストヴィジョンに番組丸ごと送出や、絶対成功させたれ」

真壁、口角泡を飛ばし

「いやいや、そもそもイーストビジョンの番宣そのまま貰ったら、生きていたヒトラーでUFO番組路線ですよ、誰が信じます、そこからの『あなたの向こうで』なんて、どういう切り口なんです ああ、とうとうその路線になっちゃうか」項垂れる

阿南、苦笑

「現にいたんだ、予告も無く途中から第三帝国が本当に出て来たら、番組が頭に入る訳ないだろう」

沢田、宥める様に

「阿南の言う通り、その為の丁寧な繫ぎだろ、やろうよ真壁」

真壁、資料一切合切を堪らず叩いては

「丁寧も何も、この分厚い調書見て、繋いでくれって、無理無理、もはや誰がどんな思惑で動いていたか、謎です、繋がりません それにヒトラー何人いるんですか、ぐー、第三帝国無しなら何とか強引に繋がる、カットしたいなー、クー」

軽駿プロデューサー、したり顔で

「そこ、ハプニングやろ、張りやろ、てんこ盛りや、多少の繋がりは目を瞑ったれ、時系列守ったら、このサスペンス十分行けるで そう、『あなたの向こうで』はブレてはせんで」

真壁、仰け反っては

「うーん、時系列も何も、資料映像以外に各団体から事前資料送られて来て、どう配慮したらいいやら 特に全米連邦銀行協会の合議による法人個人盛り沢山の第三帝国側ブラックリスト、正しくお歴々ですよ、年明けには間違いなく株価急落で倒産しますよ、いいんですか、これ報道の仕事ですよ」

軽駿プロデューサー、くすりと

「ええねん、気を使わずお使い下さいだから」

阿南、襟を正しては

「いや、迷ったら俺に相談しろ、今更気を使うな」

真壁、溜息混じりに

「むっつ、阿南さん、ずっとそこにいて、全く検閲じゃないですか」

阿南、不敵にも

「俺は大人気同行コーディネーターだぞ、いち早く見る権利は大いにある」

真壁、嘆息

「それ、コーディネーターの職権乱用です、ここディレクタールームでは関係有りません」

阿南、窘める様に

「いいから、悩んでいる時間無いぞ、真壁」

沢田、大仰に

「おお、いい流れだ、一大ミステリーだよ、いや戦闘シーンがいいね、そこレーティング恐れてCGで消すなよ、真壁」

真壁、目を見張り

「沢田さん、後半の殆どのコマは、斬撃とマズルフラッシュですよ、どう消すんですか、」

阿南、くしゃりと

「ふん、もっと派手なのあったろ、激闘シンガポール」

真壁、見据えては

「もう思い出したくない、花彩さんの後のシンガポール、まるで内戦じゃないですか、あの中で思い人よく探せましたよ、リフレクションシールドコート持っていかなかったら完全に死んでましたからね」

阿南、ほくそ笑む

「まあそう言うな、華僑出て行ったからいいだろう、一挙両得だ」


緊迫するディレクタールームも、いよいよ完成間近で色めき立つ

原稿チェックを終えるこうのとり

「そこそこ、手直ししたわ、あとは本番の流れね」微笑

真壁、目を見開いたまま

「うっつ、恐怖の手直し、ここで敢えて聞きません、いや、いやーーー思い切ってお蔵入りさせましょう、今日の特番は格闘技に差し替えましょうよ、それです今年の名勝負プレイバックです、コアラマスク子供に人気ですし、それにしましょう、編成に飛び込んで来ます」椅子から飛び出す

阿南、透かさず真壁を手を引き

「ふん、子供に人気でも、どうせ9時になったらレーティングで真っ黒だろ、今日は無礼講だ、俺はやるぞ」

真壁、顔を曇らす

「まさか、レーティングを…」

阿南、不敵にも

「安心しろ、よくある事故に始末書など求めんよ」

真壁、尚も

「それ、どんな事故なんですか、ああCGで修正すべきだっった、もう遅いですよ、」

こうのとり、思案顔で

「そうね、万が一で横槍入ったら、私の朗読劇に差し替えるわよ、平家物語でも読もうかしら」

軽駿プロデューサー、憮然と

「真壁、おもろない事言うな、」

真壁、身振り手振りで

「プロデューサー判断が、却下じゃなくて、おもろないは何ですか、その価値基準聞きたいですよ」

軽駿プロデューサー、とくとくと

「そこはセンスや真壁、ぐだぐだしてないで、もうちょいやで、繫ぐんや」

真壁、地団駄

「ぐーー、やっと山場越えました見えました、あとはあれなのか、」不意に影を落とす

沢田、叱咤激励

「真壁、そのテンションは維持だ 後は俺のMCに任せろ、見てろよ」

阿南、割って入っては

「真壁、懸念の関門トンネルの映像も入れてくれ」

真壁、溜息混じりに

「防犯カメラのあれですか、24K品質で何とかコントラスト上がりましたけど、ああ、身も凍る死闘ですよ」

阿南、捲し立てては

「いいんだよ、武士は好かんが、堂上はいい奴だ、ここを切る訳にはいかん」


凍りつくディレクタールーム


真壁、言葉を漸く繰り出しては

「皆こけると思ってましたか、そこは受け入れますよ ただ、映像解析したら辛うじて北九州口に人影映ってましたけど、本当に生きてるのかな、ここも切らない方がいいですかね」

阿南、滾らせ

「いや、そこはカットしてくれ、暫く堂上を自由にさせてくれ」

真壁、食い下がる

「いやいや、カットしたら、夢も希望も無い残酷な展開です、駄目です そうですよ、米上さんが放送見たら二度と立てないですよ、阿南さんは冷たいですよ」

沢田、視線送っては

「こうのとり、」

こうのとり、意を汲んで

「分かってるわよ、ナレーションは生よ、任せなさい」

阿南、尚も

「ああ、それなら、俺は出っ放しだ、最後迄出てやる」

軽駿プロデューサー、苦い顔で

「阿南あかんな プラザコーストの美久里さんとのお別れで、阿南はスタジオから退席や なんのためのグッドラックや、出来上がりすぎのシーンや」

沢田、不敵にも

「阿南、ここは俺の独断場だ、スタジオの片隅で見てろ」

阿南、溜息混じりに

「止む得んな、番組台無しに出来るか、ああしっかり見てやるさ、沢田」

真壁、最終確認しながらビデオテープを重ねては

「ふー、その関門トンネルの後のシーンナンバーがこのビデオですか、バージニア州ヨハネス教会、何か聞いたような、説話かな、でも日付は約1年前で古いですし、撮影者セバスチャン・モアーズ?一般の方かな、まあ時間無いですし、がっつりはめ込みましょうかね、尺はややぴったり、はい順調です」不意に「でも、そもそもなんですけど、関門トンネルって本編から外れますよね」

軽駿プロデューサー、果敢に

「ええねん、これもあって編成に12時間申請したんや」

こうのとり、ふわりと

「そうね、何故武士が、未だ荒廃しない世に必要なのか一目で分かるわ、ファンミーティングとか無いのかしら」上機嫌にも

軽駿プロデューサー、頬笑んでは

「畿内の大和筋なら無くも無いな、企画なら検討するで、だけど司会ならのめり込めんで」

こうのとり、苦笑しては

「それもそうね」

阿南、微笑

「死線潜らんと見えない何かか、貪欲な奴らだ」

沢田、窘める様に

「でも、たくさんの人救ったんだろ、敬意はちゃんと払えよ阿南」

阿南、憮然と

「ああ、だから気に食わん、水臭いんだよ奴らは、どうにでもシェイクハンド出来るだろ」

こうのとり、くすりと

「あら、男同士の友情って、そう簡単に得られるものじゃないのでしょう」

真壁、困惑しては

「それ、演出に入れちゃうと膨らみ過ぎますよ」

軽駿プロデューサー、やけっぱちに

「もうてんこ盛りや、入れたれ、殺伐とし過ぎてるんだから、それは必要や、頼むで沢田」

沢田、微笑

「ええ、そこは任せて下さい」

こうのとり、台本の余白を開き

「さて映像も真壁さんの漏れ無く見てるし、ナレーションもいけるわよ」台本に書き連ねて行く

軽駿プロデューサー

「よし、ここは水入りで一息付きに行こうか、15分でリフレッシュやで」

阿南、軽快にも

「行こう、これ位の柔軟さが必要なんだよ、俺たち人間はさ」

軽駿プロデューサー、机に向っては

「こっちはぼちぼちやっとるで、年明けの特別番組には、こうのとりのナレーション、ビシバシ入れるさかい」

真壁、固まっては

「ええっつ、ちょっと、待って下さい、年明けの特別番組って何ですか、まさか12時間放送の放送延長ではないですよね、いやいやそれに決まってる、それ何時決まったんですか、」目を見張る

軽駿プロデューサー、事も無げに

「ちゃうちゃう、1月3日の4時間特別放送や、さっき重役会の承認は貰ったで 大まかな構成は今書いてるから、真壁は当分はスタジオで寝泊まりやな」

阿南、不敵にも

「俺も付き合うぞ」

真壁、つい椅子にへたり込む

「うわ、付け足しの内容だと飽きられるから、どんなアプローチっで行こう」

沢田、くしゃりと

「もちろん、ときめく展開に決まってるだろう」

真壁、目を覆う

「それ、沢田さんから聞こうとは思わなかった」


阿南の部下三宅、計った様なタイミングで、コンビニ袋4つを両手に嬉々と飛び込んで来る 

「皆さんお疲れさまです、徹夜明けなら、これレッドブーマーですね、二本のみがお勧めですよ、サンドイッチも有りますからね、ささどうぞ」ソファー側の机に置く


和気藹々と集まってくる一同


真壁、嬉々と

「うわー、差し入れありがとうございます」レッドブーマーのプルを引いては豪快に立て続けに飲み干す

三宅、レッドブーマーをもう一本差し出し

「真壁さん、もう一本飲みます?」

真壁、やんわりと

「いや、二本が限界です、はい頑張って乗り切りますよ」手にしたチーズサンドに齧りつく

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