2087年 死闘

第37話 2087年11月7日 日本国 京都府 京都市上京区 寄合所 

京都市上京区、20世紀の佇まいもそのままで 観光客の流れる大通りから裏に抜ける路地裏に喫茶店風情残すも、ただ看板に小さく寄合所と書かれる格子戸の一軒家


ただ年代物の液晶テレビに食い入る一同


和泉いずみ、ニット帽を取っては白髪も疎らな

「すげえよな、チリ州現地から取り寄せたこのビデオ、超重量戦車対武士二人で勝っちゃうものなの」

ジャケット姿に伊達眼鏡の男、堂上

「何遍見てるんですか、熱風で太刀筋見えないじゃないですか、と言うか一般市民残っててビデオ撮るなんて危ないな」

松藤まつふじ、冗談ともつかぬ風貌のソフトモヒカンでスーツ姿の男、

「パラレルインターネットはテキストだけですが、興奮覚めやらずですよ」

堂上、くしゃりと

「パラレルインターネットもか、いい加減、端末買わないとまずいかな」

松藤、苦笑

「僕でさえ、弁護士年収5年分の購入代金ですよ たかがテキストにちょっと考えた方がいいですよ」

堂上、尚も

「まあ、それもそうだな しかしドッカンドッカンで、よく倒せたよ」

和泉、苦笑しては

「それ倒した人が言っちゃうのか いやいや、俺クラスになると分かるよ、まさにお前等1×1だな」

堂上、溜息混じりに

「それ掛けちゃ駄目でしょう、足すんでしょう」

和泉、畳み込んでは

「ふっつ、そこは心技一体だから1だ この野郎、この一発で先達越えしやがって、だから相方の宮武を放っとけないんだろう」

堂上、背もたれに体を伸ばしては

「まあ、ぶっちゃけそうなんですけどね、あと美久里さんとの約束あるし、このまま立ち消えも可哀想でしょう、絶対連れ戻しますよ」

和泉、嘆息

「くっつ、堂上が人の心配するかね」

松藤、淡々と

「堂上さん、それが理由で、拗れて離婚なんてどうかしてますよ 安い民事案件に駆り出さないで下さい」

堂上、不意に

「辣腕弁護士なら、何とかしてくれるんでしょう、伊達に畿内全般の顧問弁護士してないよね」

松藤、とくとくと

「各団体のほぼ皆さん、それ見た事かですよ 堂上さんも酷ですね」

堂上、遠い視線で

「そこは武士だからな、皆分かってくれる筈だよ」


不意に、沈黙


和泉、取り繕うかの様に

「まあ、宮武もあれ以来、なんだな」

堂上、まなじりを上げ

「大体和泉さんが、加賀さん筋に第三帝国の難しい案件回すから、拗れるんじゃないですか」

和泉、悩まし気に

「そこはな、仕方無いんだよ 宮武の修行の為に、師匠の加賀が難しい役目回せって言うから、こうなってあれなんだろう、いいじゃねえか、結果としてドミネーターが日本に伝搬しなかったんだから、そうだろう堂上よ」

堂上、視線を定め

「それは、シオン福音国が最後いいとこ取りで、第三帝国も済し崩しになっちゃって難を逃れましたけどね 本当際どいな」窓の外を長め逡巡「いや、俺、宮武とやり合って死んでたかもしれないんですよ、案件回しといてよくも言いますよ」

和泉、液晶テレビの縁を手でバシバシ叩いては

「おい、この超重量戦車間近でぶっ壊しておいて、死ぬ訳ねえだろう、しかし、よく破片刺さんねえな、ここ不思議に思わないのかい」言葉を濁す

堂上、苦い顔で

「だから、共に超重量戦車ぶった斬った相手と戦ってたんですよ もう、俺全米担当ですよ、全米で敵になりそうなら少し配慮してくれませんかね」

和泉、憤慨しては

「お前等の伸びしろは読めん、競わせて妥当だろ とは言え反省もしたよ、二度とやり合うな もっと最上の様にストイックに修練しろよ」

堂上、投げやりにも

「今更、最上の様に上品になれませんよ」


格子の外に芸子達が流れては、不意にコソコソ話、笑いが起きる


松藤、嘆息

「堂上さん、もっと変装上手く出来ないですかね 芸子さん達、何時お呼びかかるか待ってますよ」

堂上、ジャケットをまじまじと見ては

「駄目か、四条河原町の芦屋阪急百貨店で、変装用ってお願いしたんだけどね」

松藤、苦笑

「如何にも一見さんですけど、京都長いので流石に目を付きますよ」

和泉、コーヒーカップ上げては

「そうだな、堂上、いつまでも京都に隠し切れんぞ」

堂上、思い描いては

「それもね、勢い余って第三帝国の隠れ家のベネズエラ州の石油プラントも破壊して来たし、もうちょっと熱り覚まさないと」

和泉、首を頻りに振り

「ああ、それもお前だったな、堂上よ、お前は破壊王か ベネズエラ州の件は全米が事故で片付けたよ、まあ接収考えたらその線だな」

松藤、淡々と

「全米連邦も阿漕ですよ、石油の一元管理で、これで新エンジン:ジェネレーションに一気に傾くしかないですからね これで資金難の反米レジスタンスも沈黙せざる得ませんか」

堂上、戸惑うも

「何か俺、決められたレール上走ってないか」

松藤、くすりと

「加賀さん筋は、強かですよ まあ今更、畿内の実情に触れてもあれですけどね」

堂上、ただ宙を見つめ

「畿内な、」

和泉、堰を切る様に

「あとな堂上、上さんから逃げまくっても、何れ捕まるぞ」

堂上、溜息混じりに

「ああ、もう帰ったんでしょう 皆さん事情察してか、箒に手拭掛けて助かりましたけどね」

和泉、とくとくと

「おいおい、仮にも上さんを妖怪扱いか、そんな事せんよ 気を利かせてはだな、米上を長話に持ち込んでは持久戦だ いいかここな、人情にも決して振り切れず、武士を立てる平安の皆さんに感謝しろよ」

堂上、一礼

「それはどうもありがとうございます いやいや、ここのお勝手口の箒に手拭掛かってましたけど、気を使わせますね」

和泉、困惑しては

「おい堂上、勝手に居間に上がるなよ、まるで親戚かよ それより皆の反対押し切って結婚したんだろ、上さん散々言われてるぞ、嫌味言われながらも頭下げてるよ、健気だろ、帰ってやれよ、ケジメとかどうとか後回しにしろよ、まずはそれだ」

堂上、毅然と

「武士である以上、宿命ですよ、命賭してお役目受けてるの、和泉さんなら分かるでしょう」

和泉、捲し立てては

「阿呆、死ぬ様な依頼回すか、それは堂上が未熟だからそうなんだよ、大人として諦めな」

堂上、逡巡しては

「未熟ね、肝に銘じます」

松藤、不意にIBMノートパソコンmoral覗き込んでは

「堂上さん、元鞘も今更なんですよ 今朝、内閣総理大臣仲裁の元に離縁状が受理されましたよ、君塚総理が民事に仲裁なんて、聞いた事有るかな 何ですこれ」

堂上、不意に

「君塚さん、君塚総理大臣、内閣府、知り合いいたかな」ただ思い描いては「あっつー、いるよ、旦那の阿南さんか、流石大親友 いやーいいねいいね」嬉々と

和泉、思わずスリッパで堂上張っ倒す

「堂上お前、阿南とつるむなんて、どういうこった、内閣義務調査室に恩売ってるんじゃないよ、おお」崩れ落ちる

堂上、ただ

「阿南さんって、ただのテレビ向けの敗戦処理アドバイザーじゃないの」

松藤、とくとくと

「そうですね 畿内の諸団体は、きっちり報奨金で動き、辣腕の元どこにも恩受けないから、当事者の身柄が保証されているんですよ 恩情は頂けないですね、これではただのPMSCになってしまいますね」

堂上、尚も

「まあ、今回位いいんじゃない、畿内の皆納得してるだろうし申し開きはしないよ さて、これで離婚も成立、もう皆さんにもご心配掛けません、ありがとうございました」立ち上がって一礼

和泉、唾棄しては

「けっつ、君塚にはよく言っておくよ、総理の花押さくさく書くんじゃねえよってさ」


ドアの呼び鈴が外れる位勢いで鳴る

怒鳴り込んで来るびしっつとスーツの中年の男、近賀きんが

「おい、堂上いるんだろ、米上何とかしろよ」

和泉、とぼけ顔も 

「おう、近賀、勝手に敷居跨ぐな、何事ですかなと」

堂上、事も無げに

「そうそう、東京復興に尽くしなよ」

近賀、堂上のコップを一気に飲み干し

「おいおい、繕い純喫茶風情なのに帰れは無いだろ、そうだよ、お前等ふざけるな 米上、こちとらの財務省の広域公安部の暇そうな奴見つけては懇願してるよ、“お願い旦那探してって”、こっちは少ない税金で動いてるんだ、一々陳情に乗るか、帰れ帰れ、堂上帰れ、母ちゃんの飯でも食いやがれ」

松藤、IBMノートパソコンmoralを回し、離縁状受理の画面を見せる

「近賀さん、堂上さん米上さんの離縁状は受理されました これ以上無茶は言わないで下さい」

近賀、猛々しくも

「松藤、お前が付いていて何してやがる、弁護士資格取り消すぞ」

松藤、苦笑しては

「管轄の違う事を無茶言いますね 弁護士資格を承認しているローマ参画政府の人事啓発省にちくりましょうか、葛元くずもと大臣さん怒っちゃうかも」

近賀、歯噛みしては

「松藤、お前、」

松藤、飄々と

「日本の弁護士、今10人ですよね、そこは一先ず置いておきましょう さあ近賀さん、まだ言い足りないですよね、どうぞ」

和泉、くどくどと

「近賀さ、言っちゃうよ そこは事情がな、ここ察しろよ、財務省付けなら有る程度の予算も権限も持ってるだろ 態々米上の話膨らましに来て、何か訳有りの様だな」

堂上、近賀をまじまじと

「そうそう、こっちは命懸けなんですよ 近賀さん、知ってるんでしょう宮武、相当目障りじゃない」

近賀、カウンター席に滑り込み

「ああ宮武な、賞金稼ぎとしては有能だ、ただ合法違法行ったり来たりで帳消しになってるが、どうなんだ和泉、寄合所が直接始末するのはまずいぞ、ここは日本だ」

和泉、舌打ちしては

「途中から話に入るから、これなのかい、そんなに第三帝国の約定を伏せたいかい」

近賀、困り果てては

「おうよ、これ以上やると決闘に至る迄の経緯がつまびらかになる、宮武も日本国を思えばこそ働いたんだ、もう止めろ」

和泉、尚も

「日本国だけが、助かりたいのはまずいか、だが他の国も何れかの約定は持ってる、諦めるこった、まあ堂上の意志に任せろ」

堂上、まなじりが上がる

「成る程、近賀さん怒鳴り込むし、和泉さんの雰囲気もそうだし、宮武日本にいますか」

和泉、とくとくと

「おおよ察しがいいな、堂上 そこの近賀、口が軽いぞ、こら」

近賀、憮然と

「ふん、どうせ、探しだすんだろ、仕方無い、いいか大暴れは無しだからな」

堂上、上の空も

「分かってますよ」

和泉、不機嫌にも

「本当に分かってるのかね、堂上は、結婚したら大人しくすると思ったのによ 本当、ふざけるなよ、畿内の主家は勿論親睦家から結納推薦状何枚集めたと思ってやがる」

堂上、尚も

「それ、米上への後押しでしょう、俺は知らないよ」

和泉、苛ついては

「かーお前もすっかり他人様だね、上さんが今迄各家陳情しては、堂上一家どんだけ敷居高いんだよと、かなり言われちゃってるよ、本当」

堂上、飄々と

「またまた、京都のどこの家も俺と同じ考えでしょう 和泉さんに盛られては言われたくないですよ」

和泉、諭す様に

「堂上な、無理に難しい話に持って行くなよ、仲良しの寄合所の存在の意味なくなるだろう、京都が平穏だから、畿内も倣おうかって雰囲気なんざんしょ そうなんだよ、こら、」

近賀、悩まし気に

「思ったより話長そうだな、もういい、寄合所の事情はいいよ 和泉、ナポリタンくれ、」

堂上、嬉々と

「それ、俺も、供託金から引いといて」

松藤、IBMノートパソコンmoralを鞄に仕舞いながら

「僕は、ふわり卵で付きで」

堂上、食いつくも

「えっつ、トッピング、いつからあるの、」 

和泉、とくとくと

「その日の仕入れ次第だ、もうおまけだ、全員に入れてやるよ たくよ、お前等、この空気でよく食欲出るな、どうなってるの」嬉々とコンロを点火しては、フライパンを暖める


ナポリタンの食が進む、近賀堂上松藤

近賀、満面の笑みで、フォークで巻いては食す

「うまい、何で裏通りで店開くんだよ、毎回迷いそうだろ」

和泉、電子たばこを吸っては

「一般人来ているところに襲撃されたらまずいだろ、もっともそこは俺の人柄でいっぺんも無いんだけどな」

堂上、不意にフォークが止まる

「それで和泉さん、知ってるんでしょう、宮武の居所、どこなの」

和泉、ぽつりと

「言えんよ、まず食え」

堂上、不満顔も

「もう、」一気に搔き込む

和泉、尚も

「おい、その顔なんだ だから行くなって、宮武の伸びしろ嘗めるな、最悪相討ちだぞ、貴重な武士二人も逝かせられるか」

堂上、紙ナプキンで口を拭いては

「和泉さん、結局どっちの味方なんですか」

近賀、深く息を吸い

「堂上よ、どっちもこっちも無いよ これだけは言っておく、宮武は間違っても殺すな、あれでも結構ファンはいるからな」

和泉、捲し立てる

「近賀よ割込むな、おうよ、絶対死なせないからな」

松藤、満腹で紙ナプキンで口を拭いては

「同意見です、私闘は畿内約定で御法度、日本国内でも決闘そのもので懲役刑です、但しそれも両者生きていればこそです しかし、畿内には伝統的な試合制度が有りますので、寄合所から互いへ通告しておくべきでしょう どうですか」

和泉、嘆息

「近賀も松藤も背中押すんじゃないよ まあ、こっちはこっちで、大和から、大変懇切丁寧な物騒な嘆願書来てるよ、堂上、お前の元許嫁悲しませるなよ」

堂上、耳を疑う 

「えっつ、いたっけ?えーと、おとんが決めた大和って、ああ、早乙女さんだよね?合ってる、えっつ早乙女さん、」

和泉、頻りに頷く

「そうそう、」

堂上、得心しては

「うわ、ってこの前サンティアゴで会ったの早乙女さんでしょう、何だ言ってよ、って、元許嫁と言える訳も無いか、ああでもな、まるでいい感じ、いいよ、うん」

和泉、堂上を思いっきりスリッパで叩く

「何がうんだ、そうだよ、その早乙女だよ、二人の殺し合いは心が痛むってさ、未来ある若者と元許嫁が共倒れでもしたら共闘して一気に京都攻めるってさ、早乙女なら絶対やるさ そうだよ、畿内抗争の変遷あれど、俺としては総合的に早乙女がお勧めだったが、堂上が米上見初めたなら、それも仕方あるまいって思ってたけどね それがだよ、2年も持たないってどういうことかね、こら、」

堂上、事も無げに

「いや、今自由だし、なる早の再縁も有りかな」

和泉、まんじりともせず

「おいおい、早乙女も互いにフリーだけど、それ色々角立つだろ そりゃ堂上に下心あれば応援するよ、米上だってそれなら三日三晩泣いて超特盛ナポリタン食べさせたらケロっだろ、お前そこがまるで無いよな、達観しちゃった訳なの」

堂上、くすり

「いやだな、ここで男持ち出さないで下さいよ」

和泉、尚も

「大体、早乙女に何期待してるんだ、堂上を猫可愛がりしてくれると思ってるの」

近賀、苦笑

「早乙女じゃ、無理だな」

堂上、苦痛にも

「えっと、無理、駄目なの、」

一同、頻りに頷く

「そうそう」

松藤、得心しては

「駄目駄目、早乙女さん、本当に人使い荒いですよ、決してこっそり籍を入れないで下さいね」

堂上、逡巡しては

「そうだな、一人でいるなら、尚更、宮武と立ち会いするまでです」

和泉、朴訥に

「おいこら、しつこいぞ、どっちこっちとか、関係ねえよ、二人とも付き合いあるんだ、この老人寂しがらせるな」

堂上、改まる

「和泉さん、士道お忘れですか」

和泉、しかめっ面も晴れ

「いいか、お前等に、そんな大層なの適用せんよ 止むえんな、俺が許す、絶対死ぬな」ジャケットのポケットから、メモを漸く差し出す

堂上、ただ溜息ばかり

「ここって、」

和泉、厳かに

「ああバラ線ばかりだ、行って来い」

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