第4話 2087年8月4日 ローマ参画政府 ローマ州 ヴァチカン市 ラテラノ大学 監査室

昼を告げる鐘が鳴る中、ラテラノ大学の3階の長い廊下を進む花彩 人の行き来が少なくなる奥の棟へと


花彩、監査室をノックする

「失礼します、あのーここの棟とは、私悪い事でもしましたか あれ、みなもとさんと渕上さんも、それと坂巻さかまきさんもですか」

一室は、コの字型に並べられた机と真中に椅子が二つ

坂巻、片方の椅子より、がっしりとした体躯で手を上げては

「よっつ、花彩」

源、上座机の方より、柔らかなスーツスカート姿で頬笑む

「ごきげんよう、花彩さん」

渕上、上座机の方より、和服姿でお辞儀

「ごきげんよう、花彩さん、ささ座りなさい」真中の席へ促す

花彩、怪訝に

「監査室で渕上さんとは、いよいよですね」嬉々と、空いている真中の席へ座る

葉村はむら女性学長、上座机の方より、若くも凛とした美貌で

「松本花彩さん、ここに呼ばれる時は、お分かりですよね」

花彩、思いを巡らし

「緊急事態ならば、お手伝いですか、大学とは案外大変な所なのですね」

坂巻、弾んでは

「いや、俺には有り難いよ、暴れて単位を貰えるんだから」

源、坂巻を見据えては

「こほん、」

渕上、苦笑

「ほら、あかんのと違います、この筋肉さん、坂巻さん、留年ギリギリですよって、進学の為になら何にでも噛み付く」

源、笑み絶やさず

「何を仰ります、渕上さん 坂巻さんの評価はアンダー40内でAAですよ、花彩さんのAより上です」

坂巻、前のめりに

「そうそう、俺何でも頑張っちゃいますよ、」

渕上、溜息吐いては

「それが、今年頭のクリミア自由共和国の内戦ですか 何を考えて内戦に参加して、敵本陣の市庁舎に頑張って建国旗立ているんですか、陣地取り合戦と違いますで、ほんまストライクど阿呆違います」

坂巻、鞄から写真取り出しては

「そうですか、望遠レンズだけど、ぎりぎり格好良いでしょう」市庁舎屋上の建国旗に群がる青年団の写真を、何度も見せつける

渕上、怒り心頭に

「ストライクど阿呆のネジは、どこに落ちてますか、源はん、いっそ作って上げたらどうですの」机を何度も小突く

源、ただ頬笑んでは

「坂巻さんは個性的でよろしいのね」

花彩、申し訳なさそうに

「あの、その作戦プラン、私ですけどまずかったですか 私も市庁舎の階段走りましたが、坂巻さん早いのなんの」

坂巻、ガッツポーズ

「スィ、」

渕上、一蹴

「ストライクど阿呆は放っておいて、花彩さんはお話せんといいです」

葉村、とくとくと

「その件は、死者無し負傷者だけで済みましたので、不問に付しています 元宗主国のサンクトペテルブルク公国は多少剥れてはいますが、商業自治区宣言盛り込んだクリミア自由共和国立憲宣言と、ユーロへの即加入でしぶしぶ承認しています ここに至る過程で教皇様は何度も腐心していますので、ここまでにしましょう」

渕上、目を見張り

「葉村さんも切ないどすな、やっつけ仕事を認めるなんて、私ら上家衆のあらゆる根回しを忘れられては、戦乱招きますで 貸した借りたで成り立つ恩もあるのどすよ」

葉村、理路整然と

「サンクトペテルブルク公国の大鳥公使は、教皇様直々に謁見されています 終始和やかな会見でしたよ」

源、畳み掛ける様に

「上家衆はアンダー40と違って、頭数少ないから寝技しか手が無いのですかね、時には捩じ伏せるのも大義ですよ」

渕上、烈火の如く

「頭数揃えてるからって、人命を蔑ろにするなど、アンダー40の事務局長失格違いますの 終りよければ万事okがいつまでも通りますか」

源、尚も頬笑む

「上家衆とアンダー40は一心同体、万民の為に尽くしましょう」

渕上、一蹴

「話になりませんな、この話は棚に上げさせて貰いましょう」

葉村、毅然と

「良いでしょう、そうしましょう 話が逸れましたが、源さん渕上さん宜しいですね、本題に戻ります 全米連邦南部地域派遣捜査の件ですが、渕上さん島上さんと同行する、アンダー40からの選出は、渕上さんからの異論も有り、松本さんと坂巻さんのお二人の何れかになります この選出に異論が有れば補欠の槌屋さんも、校内放送でお呼びしますが如何でしょう」

坂巻、悩まし気に

「槌屋って、駄目でしょう、あいつ基本の型が全く無いから、多勢には向かないですよ」

花彩、頬笑んでは

「でも坂巻さん、槌屋さんの乱取りではいつも引き分けか負けですよね」

坂巻、立ち上がり身振り手振りで

「あいつのは型が無いから、先手が読めないので、ああいや、俺も修練積んでいますから、今日には勝てます」

花彩、破顔

「無理ですね、槌屋さんのしなやかさの前では、十手を思い浮かんでも済し崩しですよ」

坂巻、冷や汗

「ああっつ、」


静まる監査室


源、改めて

「予めの推薦の花彩さんと、私の推薦は今回は坂巻さんです 葉村さん渕上さん、改めてお一人を選出して下さい」

渕上、憮然と

「源さん、やはりエントリーが偏っていますよ、社会学習なら学生さんの選出は均等に行きましょう いや、もっと適任おりませんの、何時迄も待ちますよって」

葉村、ぴしゃりと

「渕上さん、時間引き伸ばしは駄目です、このまま渕上さんと島上さんだけの派遣は止められています 教皇様を蔑ろにするおつもりですか」

渕上、姿勢を改めて正し

「葉村さん、私もハウルにただ言いつけられただけです 改めて教皇様のお名前を出されたら、花彩さんで飲みましょう」

葉村、苦笑まじりに

「さて、ハウルは何でも有りですね」

坂巻、咆哮

「おお、俺の貴重な単位が、、」

源、笑みを絶やさず

「坂巻さん大丈夫です ネーデルラント連邦の公族の夏休み警護が有りますので、そこで励みましょうか」

坂巻、捲し立てる

「おお、源さん、さすがアンダー40事務局長、いや、さすがネーデルラント連邦内務大臣様、ふー助かった」膝を折り祈る

源、尚も

「但し公族に日本人の血を引く方がいるとは言え、公用語のオランダ語フランス語は話せる様にして下さいね」

坂巻、顎を外す勢い

「えっつつ」

花彩、目を輝かせ

「羨ましいな坂巻さん、いまやネーデルラント連邦は、オランダ語フランス語は勿論、日本語も混合していますから、言語学者の注目の的ですよ 新しい単語が一週間に一度出来るとかで、論文幾らでも書けますよ」

坂巻、崩れ落ちる

「終った、」

葉村、頬笑んでは

「新たな学者さん誕生ですのね」

渕上、声も大きく

「坂巻はん、ストライクど阿呆、返上出来ますな、」

監査室は笑いの渦


席で項垂れる坂巻尻目に、嬉々と花彩が弾む

渕上、上席より改めて

「さて選出も順序踏みましたし、花彩さん便宜的ですが最終面接を始めましょう 品行方正、敢えて飛び級もせず、ボランティアもつつが有りません、動体視力もえらい抜群、他も仰山有り、はい合格」

砕ける一同

花彩、見上げては

「あの渕上さん、私何も答えていません」

渕上、毅然と

「私は接客業が生業ですから、どないな方も見れば分かります 花彩さん合格です もう一回言いましょうか、合格です」

花彩、俄然奮い立つ

「合格ですか、頑張ります」

葉村、面持ちも固く

「それでは全米南部地域への派遣は1ヶ月となります これは体内のナノマシーンカウンターの半減期になりますので、この期間内での捜査完結をこなして頂きます またナノマシーンカウンターの接種日は追って連絡します」

花彩、はっと

「えーと、捜査内容聞いていませんけど、やはり難しいのですよね」

渕上、呆れ顔に

「そこは気張らんとよろしいです 少々厄介なのは人類選別目論む輩がいる事、ここは花彩さんを見込んで是非ですよって」

花彩、さすがにたじろぐ

「渕上監査長、それを3人でですか」

葉村、姿勢を正し

「花彩さん、上家衆案件は決まってそうです、神の御加護を皆にくまなく」十字を切る

「御加護を」源、十字を切る

「御加護を」花彩、十字を切る

「御加護を、ほら」渕上、坂巻を薮睨みしては、丹念に十字を切る

坂巻、進み出て膝を折っては、十字を切り祈る

「おお、御加護を」

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