第4話


止まっていた鼓動が、澄んだ音で駆け始めた。

身体中に、血液が巡っていくのを感じる。




『いつもこうやって、女を堕とすの…?』


「あっは、堕とされたの?笑」




大きな窓に寄りかかった彼の半身に、夕方の光が一心に落ちて。

この人は綺麗だなぁ。

あまりにも自然に、そう感じた。





『…なんか満足そうですね。達成感、感じてるんでしょ。』




精一杯の強がりを込めて。

彼を通り越して、長机の上放置されている使用済みの紙コップを集めて回る。




『堕としてやった、って。思ってるんでしょ、どうせ。』


「そうだね、堕としてやったな________」








暇なら、一緒にゴミ集めてくださいよ。



そう言おうと思って振り向いた時には、もう。

彼の微笑みは、すぐ隣まで忍び寄っていた。





「“やっと”。」













後ずさりしようとした頬は、熱い手の平に既に包まれた。


悪戯に細くなった瞳に、星が飛んだら。

見惚れた唇は、甘いチェリーフレーバーで塞がれた。






『んっ…』





隙間から漏れる濡れた音が、チカチカ瞬いて。


鼻腔まで上がってくる彼の香りが、脳みそを支配していく。

これはきっと、脳内に広がるシュガーという名の魔力。



諦めとすれ違った、覚悟。



口内を掻き分ける、この侵入者が。


私はもっともっと、欲しくなる。

















廊下を歩く、高らかな女性たちの笑い声に、ゆっくりと唇は離れた。




「もう一度、今日俺とかえろ、」


『やり直して。』




それでいい。支配されていいから。




『不安にならないように、もう一度全部やり直してよ。』




懇願する。

本物だというなら、私をもう一度。





「…分かった。」





その微笑みの裏に潜むシュガーで。


正しく、堕として。




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脳内シュガー 橘伊織 @iori_tachibana

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