第二部

第一章 逃避行

プロローグ

 ガルア自治領の奇襲攻撃により、イスト自治領はその存在をこの世から完全に消し去った。

 そしてその事実は夜明けを待つ事無く、セントレア魔導皇国全土で知れ渡る事となった。

 時を同じくして、オストレサル大陸に存在するイスト自治領を除いた十の自治領がガルア自治領によって占領された。

 このガルア自治領による電撃作戦と、それによるイスト自治領の惨劇を目の当たりにした近隣自治領はこぞって無条件降伏をした。

 単なる占領ならば抵抗する自治領があったかもしれない。しかし自治領ごと消滅させたガルア自治領の無慈悲な攻撃を見せつけられては降伏する以外の選択肢はなかったのだろう。

 これによりイスト自治領以外は無血開城となり、各自治領はガルア自治領軍を受け入れた。

 混乱収まらないガルア周辺十一自治領、消滅したイスト自治領を除いて十自治領の内、隣に位置していたスツルト自治領は即時自治権を主張した。

 ガルア自治領によるオストレサル大陸の覇権を認めた上での行動であったが、ガルア自治領はこれを認め特例としてスツルト自治領の自治を認めた。

 戦前より数多くの優秀な魔法士を抱えるスツルト自治領は、隣国に位置するガルア自治領にとって最重要攻略目標であった。

 同時に最も激戦を予想しており、ガルア自治領側も多大な犠牲を覚悟していた。

 それだけに自治を交換条件とした降伏はガルア自治領側としても願ったりであり、即座にそれを認めたのだった。

 ただしこれによりスツルト自治領の内政にガルア自治領が手出しする事が困難となり、結果としてスツルト自治領は戦力を一切損失する事無く温存し、自治領に一切の被害を出す事無く、今まで通りの生活を手にする事となった。

 スツルト自治領を損害無くその配下に置く事が出来た事を喜ぶ軍上層部に反し、スツルト方面攻略司令官であった十二聖天が一天、聖獅子座を司るリオン=ランヴォートは、一切の損失無く自治を認められ、今後内政にも干渉する事が難しくなるスツルト自治領に危機感を覚え、武力による完全支配を最後まで主張していたがついに聞き入れられる事は無かった。

 ガルア自治領近隣十自治領は各々を結ぶ交通手段を完全に掌握され、事実上の孤立状態を已む無くされた。これにより物資や人の流通は制限され、自然情報の統制も行われる事となった。

 魔魂石に守られた交通手段が取れなくなり安全な往来が不可能な現状では、未管理区域を使用する他に移動手段は無かった。

 しかし未管理区域は魔獣の跋扈する非常に危険な無法地帯であり、一般の魔法士が安易に使えるルートでは無い。

 物資と情報の流れを完全に押さえる事で、ガルア自治領は他自治領の反抗を押さえる事に成功した。

 

 イスト自治領が消失したその日の正午、ガルア自治領はガルガントス魔導帝国の成立を宣言。

 同時にセントレア魔導皇国に対して宣戦を布告した事を全世界に向けて発信した。

 これにより、千年前に終結して以来の魔導戦争が勃発した。

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