丸い指輪

耐えなく続く気持ちを

抑え切れずに一つの形に

綺麗な丸い指輪に

詰めこんで出来たものを

渡す前に居なくなってしまったから

返事を聞くこともできずに

残るのはこの気持ちと

綺麗な丸い指輪だけ。


あれから何年経ったか

いい加減新しい人見つけなよ

そうゆう親もいるけれど

そういう気分にもなれずに

捨てられないものが多すぎて

綺麗な丸い指輪を

目に入るとこに置いといて

捨てられない気持ちが邪魔して

今日ようやく四十になりにけり。


老後のためにもと周りから

五十過ぎの見合いに誘われ

重い腰を上げ行くものの

気持ちの高ぶりは何もなく

虚しい気持ちが宙に浮く。

帰り道の夜空を見上げて

コンビニで買った酒を手に

もう諦めて一人で生きていくと

思った日からつけはじめた指輪。


歳をとってしまった。

親族は皆先に死に

後は孤独に死を待つのみで

モミジ柄に浮き出た手の甲の

骨が老人の衰えを物語る。

指に挟まる指輪が物語る。

肉体はどこにもないけれど

想いはこれに詰めてきた。

これで良かったかなんてわからない。

いつの間にかそうなった。


どうやらもう死ぬらしい。

薄々気づいていたのだけれど、

昨夜医師が告げてきた。

死ぬ前に葬儀屋に頼む二つの事。

身体は火葬とする事と

指輪を別の墓に置いてもらう事。

わかりましたと営業マンが承るので

それを渡した数日後に

身体も遺産も受け渡した。


これで良かったかなんてわからない。

いつの間にかそうなった。

消えない指輪と君への気持ちが

そうさせたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る