バリカン星人の落日

「バリカン星人に選挙権を!」

 国会前で、大勢のバリカン星人がシュプレヒコールを上げている。

「星人差別をやめろ!」

 先頭に立つのは若いバリカン星人だ。なんでも、地球人、それも日本人にフラれたことが原因で政治活動に目覚めたらしい。

 その姿を苦々しい思いで見つめている、一人の男がいた。ハヤテという名のその男は、アイロンマンのなれの果てだった。あの日、百万人の巨大化したバリカン星人に押しつぶされた彼は変身用スマホを紛失してしまった上、全身打撲で今日まで入院していたのだ。そして、退院すれば、憎っくきバリカン星人の大デモ行進。スマホさえあれば、と歯ぎしりするアイロンマンであった。

 その時である。アイロンマン、ハヤテの身の回りが光に包まれる。何事かと思えばアイロン宇宙警備隊の隊長、ソフィーが現れた。

「アイロンマン、私はお前の退院する日をずっと待っていた」

「隊長、ありがとうございます」

「お前に、新しい変身用スマホを持ってきた。金のスマホ、銀のスマホ、銅のスマホ。どれか一つを選べ」

「では金のスマホを」

 とアイロンマンが言うと、

「愚か者、欲に目がくらんで金のスマホを選びおったな。もはや、アイロン人失格だ。ハヤテのまま地球で生きるがいい」

ソフィーはそう言って光とともに去っていった。

「ああ」

 悲嘆にくれるアイロンマン、いやハヤテ。そこに、

——ああ、ハヤテ。退院したなら仕事に復帰して。総理大臣からバリカン星人掃討命令が出たの。一人残らず退治しろだって。

という連絡が腕時計型通信機に入った。

「よし、やるぞ!」

 ハヤテは科学特捜最前線基地に急いで出勤すると、仲間とともに、デモ行進しているバリカン星人に向かって狂ったように光線銃を撃ち放した。

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