代筆屋

 大作家有象無蔵うぞう・むぞうは大作、『狂った月下美人』を執筆していたが、『第三章 月面着陸』に入って、ぱたっと筆が止まってしまった。

「書けない。そうだどこか静かな場所で書こう」

 と伊豆の閑静な旅館をとって、執筆しようとしたが、

「静かすぎて、書けない」

と家に戻ってきてしまった。心配した編集者は、

「先生、代筆屋を呼びましょうか?」

と助け船を出した。

「なんだ代筆屋とは?」

「作家が書けなくなった時、代わりに執筆してくれる便利屋です。石塚先生も、南野先生もみんな一度は利用していますよ。どれとは言いませんが直木賞を取った作品で代筆屋が書いた作品もあります」

「そうか、わしも頼んでみるか」

 有象は頷いた……と、ここまで書いて、私はオチを思いつかなくて悩んでいる。もう三日も固まったままだ。心配した編集者は、

「代筆屋を呼びましょうか?」

と言った。

「本当にいるのか? 代筆屋」

 私が言うと、

「いるわけないじゃないですか。さあ頑張ってオチをつけましょう」

と編集者は私を励ました。

 励ましはいらない。代書屋が欲しい。

 結局、オチはつかなくて、私は原稿を落とした。私の信頼は地に落ち、仕事がなくなった私は奈落のそこに落ちた。

……オチつきましたか。そうですか。これで落ち着きました。

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