宿敵

 さっきから大勢の足音が聞こえてくる。どうせ、宿敵、竹内家の家臣どもだろう。俺を富永家嫡子、三太郎と知って狙っておるのだろう。

「三太郎殿」

 誰かが俺を呼ぶ。振り返ると、竹内家家老、松本典膳がいた。百人余の家臣を連れて。

「お覚悟を!」

 竹内家きっての使い手、梅田大輔が俺に斬りかかる。俺は返り討ちにしてやる。

「かかってこい」

 俺はバッサバッサと敵を斬る。意外な俺の強さに典膳は慌てているだろう。

 しかし、相手は百人を超えている。俺の踏ん張りにも限界がきた。腕を斬られ刀は折れて、最期の時を迎える。

「思い知ったか」

 典膳が笑う。それに対して俺は、

「ここにいるのが家臣のほとんどであろう」

と尋ねた。

「そうだが、それがどうした?」

「ならば話そう、俺は三太郎殿の影武者、青木三太夫。本物の三太郎殿は今ごろ、手薄になった竹内の館を襲撃しているだろう。はははは」

 慌てて館に戻る典膳ら。俺は瞼を閉じてこう思った。

「影武者として最高の仕事ができた」

 急速に目の周りが暗くなる。さらばだ。

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