懐中時計

 義男は小さい頃から懐中時計が好きだった。というより、腕時計が嫌いだった。手首を締め付けるあの苦痛。まるで手錠をはめられたようだ。それに比べて懐中時計は洋服のどこかに引っ掛けておくだけでいい。自由を勝ち取ったような気分だ。

 その日も義男は懐中時計をベルト通しに引っ掛けて出かけた。今日は取引先のリサイクル工場へ見学に訪れていた。ベルトコンベアが流れ、巨大なハンマーがアルミ缶をぺちゃんこにしていた。

 予定の見学が終わりかけたので、義男は時間を見るために懐中時計を出そうとした。しかし、懐中時計は手が滑ったのかベルトコンベアの柵に当たると、ベルトコンベアに乗ってしまった。義男もそれに引っ張られてベルトコンベアに乗ってしまった。このままだと巨大なハンマーに打ち付けられる! ハンマーの真下に来てしまう義男。絶体絶命だ。その時、『ガチャッ』ベルトコンベアと巨大ハンマーが止まった。立ち上がる義男。そしてリサイクル工場の所長に言った。

「どうです、我が社の安全装置の正確さは」

 

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