第44話 同じ屋根の下
最近、
いつも帰ってきたら、一番最初にボクに挨拶をするはずなのに……さっさっと自分の部屋に引っ込んでしまう。
ドアの外からボクが呼びかけても知らんぷり、そして部屋の中から誰かと話してる声が聴こえてくる。それはケータイとかじゃなくて、もっと近くで
なんか怪しい、ボクに隠しごとなんて水臭いぞ!
ずーっと同じ屋根の下で暮らしてきた仲じゃないか。美菜ちゃんの冷たい態度にすっかり落ち込んでしまっている。
ボクから美菜ちゃんを奪った犯人を絶対に突きとめてやる!
その日も外から帰ってきた美菜ちゃんは、ボクの方を見て微笑んだけで、二階の自分の部屋へ直行する。慌てて後を追いかけたボクの鼻先でバタンとドアは閉められた。
その態度にムカッとしたボクは「美菜ちゃ~ん! 美菜ちゃ~ん!」しつこく叫び続けてやった。
さすがに根負けしてドアを開けてくれたが、ボクの足元に丸いボールを投げて寄こした。ついオモチャに夢中になっている間にドアは閉められた。
どうしてボクを部屋の中に入れてくれないんだ?
耳を澄ませるとカタカタ……とヘンな音がする。なにかを回転させているような音だ。
いったい中でなにをやってるんだろう? ますます怪しいぞ!
それからボクは毎日美菜ちゃんの部屋の前で様子をうかがっていた。
美菜ちゃんが居ない時間帯でも、中からカタカタ……という音が規則的に聴こえてくる。
もしかしたら? 部屋に悪い奴が潜んでいて、世界征服を
ドアの前でボクの想像はどんどん大きく膨らんでいくのだった――。
そんなある日、ママさんが美菜ちゃんの部屋にお掃除に入っていった。
掃除機の影に隠れてボクもそっと入ろうとしたら、ママさんに見つかって部屋から追い出されてしまった。
どうして、みんなボクを締め出すんだよ。絶対にあきらめないぞ!
ボクはベランダから美菜ちゃんの部屋を覗いた、案の定、掃除機をかけたばかりなので、空気を入れ替えるため窓が開いていた。
ひらりと窓枠に飛び乗って、美菜ちゃんの部屋に侵入した、ママさんに見つからないようにベッドの下に滑り込んで身を隠す。
掃除が終わって、鼻歌をうたいながらママさんが階下に降りていく。もう大丈夫だろうとベッドの下から、のそのそと這い出してくる。
さて、部屋の中をぐるりと眺めたが別に変わった風もない。
ん!? なんか見慣れないプラスチックの箱が置いてあるぞ。
ボクはテーブルの上にひらりと飛び乗って、箱の中を観察した。底には
はは~ん、これがカタカタ鳴っていたのか? いったい、この中になにが潜んでいるのだろう。
突然、
驚いたボクはテーブルから落っこちてしまった。
「だぁ~れ?」藁屑の中から声が聴こえた。
もう一度、テーブルに上って箱に中を見ると、小さなピンク色の鼻が覗いている。
「おまえは何者だ?」凄みを利かせて訊ねると、
「アタシはハムスターのミミよ」
「ハ、ハ、ハムスターだってぇ~!?」
まさか嘘だろ? ボクの
「アタシはいつも昼間は寝てるのよ。オヤスミ~」
そういうとまた藁の中に潜ろうとする。
「おいっ! おまえはボクが怖くないのか」
「へ? アタシはひまわりの種が好きよ」
ち、違う! そんなことは訊いてない。
ちっちゃくて、ころころして可愛い奴だけど、どうやらオツムは弱そうだ。
「自然界だとボクらは捕食する者と捕食される者なんだ。同じ屋根の下には
「あなたなんかを食べない。ひまわりの種の方が美味しいもん」
「ばかっ! おまえがボクに食べられるんだぞ」
「へっ……ホントにアタシを食べるの」
そう訊かれてボクは返答に
時々ゴキブリを捕まえるくらいで、ネズミなんか見たこともない。缶詰と乾燥餌が主食だから、
「アタシ食べたい?」
「ううん」ボクはかぶりを振った。
こんなちっちゃくて、いたいけな生き物を捕って食べるほど、凶暴な生き物なんかじゃない。ああ~所詮、ボクは弱気な家猫なんだよ。
「キャア―――!!」
いきなりドアが開いて、美菜ちゃんの叫び声がした。
ボクは首根っこを掴まれてドアの外へ乱暴に放り出された。
ヒドイなぁーなんにもしてないのに……。
「ミミちゃん、大丈夫? 怖くなかった? 猫が家にいるとハムスターはストレスで死んでしまうっていうから、この部屋に絶対入れなかったのに、ゴメンね~」
美菜ちゃんの声がする。
チェッ! 猫だってことでボクが悪者扱いかよ。
同じ屋根の下で猫とハムスターが同棲中? いいや! ストレス溜まってるのはボクの方なんですけど……。ホント猫はつらいよ。
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